セプテット
「はじめまして」
物置の中には、淡い青に艶めく銀髪の小さな子どもがいた。
柔和に微笑んで俺を見ている。
「……」
振り返ると、ノクトさんはいなくなっていた。
「ぼくはセプト。7番目です」
もみじの手のひらとピースサインで7。
容姿と仕草こそ幼げだが、口調がしっかりしていて子どもらしくない。
「セプトくん。初めまして、俺は光太です」
「はい。父や姉上……ルピネから聞き及んでおりました。お会いできてとても嬉しいです」
「……セプトくん何歳?」
「今年の冬で5歳になります。4歳ですね」
嘘だろ。
俺の4歳の頃なんてアホ丸出しのクソガキだったぞ。
「すごく……しっかりしてるんだね……」
「光太さんは一人暮らしで家のことも勉学もしっかりとなさっておられる人と聞きますから、そのような人から褒めていただけるのは光栄です」
「…………」
この子、中身20代くらいなんじゃないか?
「ぼくも父母や兄姉の教えが身についてきているということなのですね」
はしゃぐ姿は幼いのに、喜ぶポイントが絶妙に子どもらしくない。
普通、子どもなんて『やったあ、自分が頑張ってえらいから褒められたんだ!』で完結するだろう。一歩踏み込んで『家族に礼儀を教わってこなせているから褒められたんだ!』で喜ぶなんて……
恐れ
「種族判定は竜です」
「……そういや、ルピネさんとタウラさんの聞いてないな」
「姉上兄上は、あまり話したがらないので……申し訳ありません」
「あっ! ち、違うよ。責めてるんじゃなくて、なんとなく口に出しちゃっただけなんだ」
謝ると、セプトくんはほっとして息を吐く。
「そうでしたか。早とちりをしたみたいですね。お恥ずかしい」
「……」
なんて凄まじい子どもなんだ。
「でも、まさか物置にいるなんて……寒くなかった?」
「いえ。過ごしやすい涼しさで、勝手に占領しているのが申し訳なく思うほどでした」
滑らかに述べる姿がシュレミアさんと被って見える。
明朗なのはアネモネさん。
やはり親子なのだと思わされる。
「……そ、そっか。どうして物置に?」
「ぼくはまだ転移が使えないんです。カノン兄様に、ここで待機するようにと言われて待っておりました」
「えっ……あの。どれくらい前から?」
この殺風景な物置で。
「? 話し相手がいらっしゃいましたから、退屈はしませんでしたよ」
……どこに?
俺には人影は見えない。
「父が包丁を投げつけたことの謝罪も出来ました」
「殺意満々じゃねーか」
「条件反射でしてしまったのだそうで……その包丁は光太さんの台所にプレゼントとして置いているそうです」
「嘘ちょっと待ってなんでそんなプレゼントするの」
俺の家は包丁が多い。台所の包丁入れに混ぜられたら、開けない限り気付かない。
「魔除けにと……父は気配りが斜め上になりがちですから」
「……うーん……」
不安は残るが、翰川先生やリーネアさんに教わって曰く、『シェルの気配りは納得できなくても受け止めておくべき』だそうなので、受け止めることにした。
「なんか、あれこれ気を使ってもらって申し訳ないなー……」
「いえ。ぼくたちは迷惑をかける性質がありますから。人のためになることならいくらでも」
よくできたお子さんだなあ。
「兄姉たちがご迷惑を。僕もご迷惑をおかけしました」
「い、いやー。そこまででも……」
「光太さんは受験生なんですよね? 1秒1秒が貴重な時間です。それを割いて、ぼくのような子どもにも優しく対応してくださるのですから。ありがとうございます」
いま、本当に4歳児と喋ってるんだよな?
「若輩に言われるのも不愉快やもしれませんが……あなたの受験を応援しております、光太さん」
「……ありがとう」
「ぼくからは、これを」
赤いリボンのかかった白い小さな箱。
それはまさしく、『プレゼント』と呼ぶのがふさわしい見た目をしている。
「おお。可愛い箱だね」
「中身は開けてのお楽しみです。どうか、眠る前に開けてください」
「ありがとう」
安眠グッズかな。
「お忙しい中、ぼくたちの話し相手をしてくださりありがとうございます」
「いえいえ。機会があったらまた会おう」
「はい! 妹はリビングにいます。ぼくのことは兄様が回収してくださるので、ご心配なく」
「妹をよろしくお願いします」
次で最後の一人だ。
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