密閉空間内で成立する会話グループの数を求めよ

「昼ご飯どうする?」

「決まった店じゃなくて、見かけ次第入るって感じでどうかな。俺もガイドブック見たけど決めきれなくて」

「いろいろ食べたいもんね」

「そばもラーメンも海鮮丼も食べたいわ」

「お前は食えるだろうけども」

「ごはん、とっても豪華です……」

「海鮮丼綺麗で美味しそうだよね! 紫織ちゃんはどこ行きたい? 食べたいものある?」

「子どもっぽいですけど、エビフライ……」

「いいじゃない。エビなんて豪華食材よ。それをフライにするんだからご馳走」

「はわ。ということはエビフライ定食はとても豪華なのでは……」

「エビフライ美味いって店あったよ。大きい通りを道なりに進めば行ける」

「あ、あの。あと……お土産、買いたいです」

「俺もー。学校関係にお土産」

「みんなお土産どうするの? ガラス? 食べ物?」

「自分の分のお土産はガラスで、配るものは食べ物にする予定」

「あー、それいいね」

「やっぱり手元に残したいわよね」

「そういや、佳奈子は修学旅行のお土産なんにしたんだ? 俺には八つ橋くれたけど……」

「うるさい黙れ。……あ、紫織。そのページ見せて」

「はい、どうぞ」

「敬語じゃなくていいのに」

「何で俺否定されたの?」

「あはは……」

「いつか京都行ってみたいです」

「あたしももう一回行きたいなー。気心知れた人たちとがいい」

「合格して落ち着いたらみんなで京都にも行きたいねえ。きっと楽しいよ」

「コウもくる?」

「……おこぼれにあずかりますとも」

「おこぼれなんて。森山くん面白いし、話すと楽しいよ!」

「ありがとう、ありがとう三崎さん……」

「折角の縁だもんね」

「言われてみればそうね。こんな形じゃなかったら集まるなんてないし」

「楽しい、です」



  ――*――

「ぺんぎんさん! ぺんぎんさん!」

「……着くまで寝てればよかったのに……」

「なんだか若者たちが盛り上がっているようなので、触発されて覚醒したぞっ」

「触発されなくていいよ。寝ててくれ」

「僕らも盛り上がろう! 水族館の話で!」

「話聞けよ。……ひぞれが水族館大好きなのはわかるけど、俺にはお前と盛り上がれるほどの造詣も熱意もない」

「ぺんぎんさんの話はどうだ?」

「何ペンギンが好きかな?」

「ミズリ、悪乗りやめろ」

「私はコガタペンギンが好きだな」

「お前が乗るのかよ」

「ルピネらしいな。小さくて可愛らしいよな、あれは」

「フェアリーペンギンとも言うのだし、同族意識湧かない?」

「相手鳥類だろ」

「俺はオウサマかなあ。お散歩が可愛い」

「ひーちゃんはコウテイが好きだったな。大きくて可愛らしい」

「うん。でも、アデリーもイワトビも好き。ぺんぎんさんなら何でも好きだ」

「そうか。ふふふ、ひーちゃんはいつも可愛らしい」

「そうだよね。ひぞれ可愛い。可愛いよひぞれ。甘い匂いがする」

「ん……は、恥ずかしい」

「髪の匂いだけでご飯3杯はいけるよ」

「ミズリ、隣の光太が実はドン引きしているからやめた方がいいぞ」

「そうだ。ルピネっ。キミと一緒にご飯を食べるの、あんまりないから……今日はとっても嬉しい!」

「私も嬉しいよ。夕食は海鮮と鍋が出るそうだから、ひーちゃんも食べられるのではないかな」

「鍋にお刺身入れる!」

「それも良いな。贅沢な楽しみ方だ」

「……リーネア。ひぞれへの愛がまるで濁流のように溢れて止まらないんだけど、どうしたらいいかな。若者を怖がらせるのは――」

「よっしゃ、パーキングだパーキング。停まったらさっさとお前ら車から降りろ俺に構うな‼」



  ――*――

「勉強合宿って何するんだと思う……?」

「あはは、そんなに身構えることないって! 頼れる先生たちから勉強を教えてもらうだけだよ!」

「俺に塩対応な人がいるのが気になって」

「え、誰だろう? 森山くんいい人なのにそんな仕打ちするなんて」

「京って無意識に追い打ちかけるのね」

「厳しい先生なんですか……? 私、勉強、まだ数学しか出来ないです……!」

「逆にそれは凄いよ……」

「シェル先生、数学好きで。楽しい話してもらえるから」

「紫織もそうなのね。あの人頭おかしいけど頭いいわ」

「? 先生は頭おかしくないと思いますよ?」

「……あれ? あたしの記憶違い?」

「え?」

「あ、三崎さん。そっちのガイドブック借りてもいい?」

「いいよー。交換でよろしく」

「雑誌が違うと視点も違って面白いよね」

「うん」



  ――*――

「ぺんぎんさんが駄目ならトドやアシカはどうだ」

「いや、駄目ならとかそういう話じゃなくて……興味ないし知らないし」

「小樽の水族館は海獣で有名なのだったか?」

「焼きニシンも有名らしいね」

「ニシンも小樽の名産だったな。土産には海産物を選ぶことにしよう」

「うー……リーネアは何ならいいんだ?」

「話聞けよ」

「キミに楽しんでほしい……今回の旅行、ただ付き合わせてしまっては申し訳ないから、せめてキミが好きなものをと思ったのだが……」

「お前はいつも可愛いな。……お前といればどこだって楽しいから気にすんな」

「! ……リーネア、好きだ」

「リーネア。俺の奥さんを口説かないでもらえるかな?」

「口説いてねえよ。事実を言っただけだ」

「はぅ……」

「仲良しだな」

「ん……その。ということは、一緒に水族館に行ってくれるのか?」

「いいよ。運転してやれるし」

「俺も運転免許あるのに……レンタカーでも――」

「お前の運転荒いからやめろ」

「えー。そうかなあ」

「確かに、どこの教習所で実技に合格を出されたのか気になるほどだったな」

「裏金でも積んだか?」

「これで事故を起こしては洒落にならない」

「ミズリは学科を勘で満点だっただけで、実技は――むぐっ」

「きちんと勉強したから大丈夫だよ」

「高速で体投げ出すそういうところとかが……」

「非常識だぞ、ミズリ。高速道路ではきちんと着席してシートベルトを締めるべきだ。ひーちゃんが困っている」

「んむ。……ミズリ、いきなり口をふさがれるとびっくりしてしまう。席に戻ってくれ」

「ひぞれの唇の感触がする」

「? 手でふさいでいたんだから当たり前だろう。ふふふ、ミズリは不思議なことを言うんだな」

「ミズリ、手舐め出したらここでお前を降ろすぞ」

「しないって。あ、そうだ。帰りは俺が運転しようか?」

「何でこの流れで頼まれると思ってんだお前」

「長距離を一人で運転するのも疲れるんじゃないかと思ってね」

「地獄のポジティブシンキングだな。お前に頼むくらいならルピネに頼む」

「おや、光栄だ」

「ルピネは運転上手いものな。安心感がある」

「あれ? ひぞれがフォローしてくれない」

「そんなことより! 水族館デートが凄く嬉しい。ありがとう」

「リーネア。ひぞれは俺の奥さんだからね」

「くっそ、運転席から動けないの最悪だな……!」

「ルピネも水族館に行くのか?」

「非常に残念だが、遠慮させて頂く。父と友人との先約があるのだ」

「そうか。楽しんできてね」

「ありがとう。荷物は私が主に引き受けるよ」

「頼むわ」


 海が見えてきた。

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