そして世界はカブになる

春根号

第1話 私はカブを抜く

私はカブを抜く。

地面に埋まったそれを見て、抜きやすいように周囲を掘り、力を込めて引っこ抜く。

コツはうまく周囲を掘ること、でないとうまく抜けないことが多い。

抜いたカブを持って街へ向かった。

街の前に着くと大きな壁と小さな門があった。門の脇にある電子認証機に端末をかざすと画面には緑色で許可の文字が出た。

開いた門をくぐり抜けて街へ入り、馴染みの店へ向かった。

「よぉ、サラ嬢ちゃん」

スキンヘッドに作業着を着た店主、通称海坊主。

「こんにちは。今日も見つけたわ買い取ってちょうだい」

そう言って店主にカブを渡して、しばらく待っていた。店内に所狭しと並べられた工具や趣味のステッカー、かろうじて見える1999年の日付の写真そんなものをながめながら、店長の趣味で置いている紙媒体の雑誌を読みながら待っていた。

「今回のは状態がそこまで良くなかったなぁ、残念」

そして詳細な査定結果の書かれたボードを取り出して見せてくる。

スーパーカブ、型式C50。エンジン不動、フレーム破損、カバー破損、電気系統破損、そんな文字の果てに並んでいたのは買取額5万円。

「仕方ないわ、ありがとう。また来るわね」

そう言って私は店を後にした。

私は自生するスーパーカブを見つけて売って、生きている。

1958年、スーパーカブが発売された。日本における普及は凄まじく、町中でスーパーカブがない場所がないくらいであった。その耐久性と走行力、そしてカスタマイズ性の高さから高い評価を得たカブは増産を続け進化をしていった。

2158年、スーパーカブの製造元である本田世界統合技研(旧本田技研)は新世代のスーパーカブを発表。特定環境下におけるスーパーカブの製造の自動化を発表。

ある一定の材料を含んだ砂漠に近い土壌に新開発のエンジンを埋めることでエンジンを中心としてスーパーカブに成長することが研究により判明した。

2168年、世界全土の砂漠化が進む中HONDAは世界中にエンジンを植える活動を推進。その結果、スーパーカブは世界全土の至る所で成長していった。

カブそのものは普及率が100%を超え人口以上の数になったため、販売はされなくなったがカブの成長は続いていった。その結果スーパーカブにはスーパーカブ以外の用途での活用が進んだ。エンジンを取り出し、工業製品の転用など多岐にわたる。

結果として自生したカブが引き取られるようになった。

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