王子殿下の飼い猫はすこぶる毛並みが良いらしい
七期/ビーズログ文庫
試し読み その1
「お
「……もう起きてるわ。ミレー」
アデラインが
「ミレー。眩しいわ……」
「朝でございますからね。明るいのは当たり前でございます」
アデライン専属の
アデラインはため
寝間着からのぞく
白い小さな顔に、やはり小さな黒い目と
もうすぐ、アデラインは十八
「私、
ぼそぼそ、と唇を動かした。
「お嬢様?」
「ドレスの
「笑い者になるわ。絶対そうなる気がする!」
アデラインは掛布の中に
大きなため息をついたのは、今度はミレーだった。
「何を言ってらっしゃるんです。ほら起きて! 顔を洗ってお
ミレーは掛布を
「私やっぱり今日は一日
「そんなことできるわけございません!」
ぐぐぐっと、
「お願いお願いミレー! 一生のお願い!」
「できません!」
軍配はミレーに上がり、まるで
本より重い物を持ったことがないアデラインと、水仕事から
「昨日も一昨日もその前もそのまた前も、ドレスの裾を踏んで転ばれることはございませんでしたし、ここ十日ばかり晴天続きですので泥水の水たまりなどありません! このあたりは
「でも、だって」
「でももだってもございません! 皇国に留学なさっていたルトヴィアス王子
ぐうの音も出ない正論の前に、アデラインは肩を落とした。
留学の名目で
王子は帰国の四ヶ月後に立太子することが決まっており、立太子のすぐ翌日には、アデラインと
病身の国王に王太子の不在と、不安を
たとえ高熱があったとしても、婚約者のアデラインが帰国する王子を出迎えないわけにはいかないだろう。
「さぁさ、顔を洗ってくださいまし。早くしませんと朝食を食べ
「道が悪くても
「……馬車に
「それならお手持ちの
「……」
「お嬢様」
「……わかったわ。起きます」
背中に伝わるミレーの手の温かさに
「もっと他のお色のお
「いいの」
短く言い切るアデラインに、ミレーはもう何も言わなかった。
ルトヴィアス王子が国境を
ルトヴィアス王子を出迎えるため、
明るい人々の表情とはうってかわって、アデラインは
三年前の婚約解消
名ばかりだろうと正式な婚約者であることに
「髪はどういたしましょう、お嬢様」
「……いつもと同じようにして」
「……かしこまりました」
ミレーがアデラインの豊かなブルネットを
この鼻がもう少し高かったら、この
そうすればルトヴィアス王子も、もう少しアデラインに関心をもってくれたかもしれない。婚約解消をするにしても、一言謝罪をくれたかもしれない。そうしたら心の整理もつきそうなものだ。
騒動後、ルトヴィアス王子からは謝罪どころか個人的な便りは一度もない。
手紙などは皇国に制限されていたので仕方がないのかもしれないが、大使が定期的に皇国とルードサクシードを行き来しているのだから、言付けくらいしてくれてもよかったのではないか。
(殿下は、政略結婚の相手に、そんな
婚約解消騒動については、もうすべては終わったことだ。何事もなかったふりをするしかない。いつまでも引きずって謝罪を要求するような女など、ルトヴィアス王子はきっと
それに、そんなことを言えば、アデラインがルトヴィアス王子を
政略的な婚約なのに、アデラインだけが一方的に王子を
アデラインは、鏡の中にゆるゆると笑いかけた。
「ミレー」
「はい、お嬢様」
「私、ちゃんと笑えてる?」
正妻の
「はい。とてもお綺麗です」
ミレーは手を止めて、深く頷き返してくれた。
「……ありがとう」
人に名ばかりの妻と
せめてミレーの言う通り、本当に美しくありたかった。そうであれば『婚約者があれでは、婚約解消もしたくなる』と、
「行ってらっしゃいませ、お嬢様」
「行ってきます……」
ミレーが
ガタガタと
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