再会

第7話

街まで降りてくればやはりそこは騒がしい喧騒が広がっていて、たくさんの街人たちがそれぞれの生活をしている。

そんな中をのんびり歩いていれば急に皆がどき始めた。

道の中央を開ける。

こんなことをするのは何があったのかなんて聞く方が野暮。

偉い人間、、おそらく王族の人間の視察だろう。

面倒なことに巻き込まれるのはごめんなので大人しく脇へと寄れば膝をつく。

白と黒の馬が目の前をゆったりと歩いていく。

視察団と呼ばれる王国軍でも下っ端の方の軍隊の先頭には、赤い生地に黒の糸で王家の紋章を縫い取り金糸で縁取られた国の旗が掲げられている。

王旗と呼ばれる大きな旗は畳まれ、陸軍元帥の鞍袋に納められている。

一行は補給隊と呼ばれる荷車を引く歩兵たちの速度に合わせてゆっくりとすすんだ。時々、斥候を走らせ行く手の安全を確かめさせているのが見える。

この列が通りきるまで僕らは顔を上げることは許されない。

なんて、思っていた、嫌、それが普通だった。


不意に声をかけられる。

頭を上げることは許されないが、その原因であるはずの人間に顔を上げろなんて言われてしまえば上げるしかない。


「久しぶりだな」


空いた口が塞がらないとはまさに今のようなことを言うのではないだろうか。

どうしてこんなところにいるのだろうか。

いや、他人の空似かもしれないなんていう可能性も無きにしも非ずなのだけれども。

それでも久しぶりという言葉が投げかけられている時点でその可能性はほとんどゼロになってしまったのだけれども。

あぁ。

できることなら彼までもがこの世界にいることを信じたくなかった。

彼までもがこの不思議な世界の中に巻き込まれていて欲しくなかった。

最悪な現実世界で唯一僕の支えであったはずの彼を失うのだけは嫌だった。

嫌だったのに。

今、目の前にいる明るい茶髪は。

今、冷たい瞳ででもどこか優しそうに笑っている彼は。

紛れもなく現実世界での自分の親友で幼馴染の杉本だった。


「あ、、あぁ、久しぶり、、確認なんだけど杉本であってるよな?」

「ん?あぁ、杉本であってるよ、カケル」


あぁ、本人だった。

逃れられなかった。

返事をしてしまった以上、顔を上げてしまった以上、もう僕に残された選択は自分から死ぬか、目の前の男、、杉本の意のままにされるだけだ。

思っていたよりも早い終わりだったな。

人生というのは何が起こるかわからない、神様の意のままになんてよくいうけれど本当に神様がいるのだとすればこれは少しばかり意地悪すぎるのではないだろうか。

いや、神様なんてものは僕がこの国の国民、、ただの村人Aくらいという存在になった時点でもうこの世界には存在してないのだけれど。

いや、そもそも、神様なんてものを信じるほど僕は宗教だのなんだのというのに興味はない。

あんなの腐った思想だ。

神様がいるだなんて、いもしなければ姿も見えない神とか言う不確かな存在にすがりつくしている。

身を委ね、生きようとしている。

そんな感覚も脳みそも腐りきった連中による人生観なんてものには微塵も興味がないし今後一切湧く気もしない。

いつだったか、宗教なんてものにどハマりして頭をやられてしまった親戚が何百万という壺を買わされていたのを思い出し、あぁやはり宗教だとか神なんてものは信じない方が賢明だな、なんて思う。

まぁ全て個人の価値観であり僕の中でそう勝手に思っているだけなのだけれども。

まぁ今のこの状況は、それほど嫌悪している神様にでもすがりたくなるような状況ではあった。

そもそもの話、脳みそが思考に追いついてきていない。

百歩譲ってこの世界に杉本がいるのを理解したとしても、なぜ彼が王の座に座っているのかが不思議で仕方がなかった。

もともとこの世界を作った創世神だった自分が新たな人生を踏み出す際にこの世界の王になった、なんて展開ならまだわからないこともない。

そんな驚き桃の木山椒の木な展開などそれはそれで理解などしたくないが。

いやまぁでも、元いた世界でも学級委員長やらなんやらやっていたしな、王の座にふさわしくないなんてことはないだろう。

なんて不完全燃焼な考えを無理やり脳内完結させると目の前の男に向きあう。


「で、何の用だよ杉本」

「王の前なのに随分と馴れ馴れしいなお前。俺じゃなかったら断罪されてるぞ。」

「お前だからこう話してるんだけど?」

「めんどくさいなお前」

「知ってるだろ」


軽口叩いているように見えるが実際、手や背中の冷や汗が止まらない。

そもそもの話、杉本が何もしなくてもこの明らかに僕に対して警戒心がマックスな周りの親衛隊のような奴らがいつ僕に攻撃を仕掛けてきても仕方のない状態なのだ。

正直めちゃくちゃ怖い。

今すぐにでも回れ右して逃げ出したい。

相手は馬を持っているから逃げ切ることが無理なんてことはわかっていても逃げ出したい。

早くこの場をさりたい。

正直神とか王とかもうどうでもいい。

早く逃げたい。


まぁ当然そんなことが許されるはずもなく、杉本の指示だろうか、いや、それであってもらわないと困るのだけれど、それによって部下であろう2人の兵士に両脇を固められる。

腕に手を回され完全に捕虜の状態だ。

逃げようにも文武両道なスキルのようなものなどが強化されているものの、僕自身の体型はお世辞にもガタイがいいとは言えないいわゆるもやし体型というものなので、鍛え上げられている屈強な男たちに両腕を掴まれればもう逃げ場なんてものは僕にはなかった。

いや、この状況であったのならばそもそもの話僕はこんなところで捕まってなんかいない。バッタバッタとなぎ倒して全てを諦めて逃避行のごとく逃げ出している。


「城にきてくれないか、話があるんだ」


今のお前の位での来てくれないかなんてほぼ来いと同意語だろうが、、なんて悪態もつきたくなるがため息によってそれを飲み干した。










嗚呼、これがゲームならどれだけ良かったか。

選択肢を提示してくれるものだったらどれだけ良かったか。

選ばせてもらえたのならば。

目を閉じて、開ければそこに選択肢の画面がでてきていてそれを選択すれば物語が進むのなら。

そこにセーブ画面が表示されていて、セーブができて。

もしもその選択が間違っていたらやり直すことが可能だったなら。

なんてことを考えても望んでももう意味なんてなくて。

何かが変わるなんてことはなくて。

何も変わらずそこにある。


全てを諦めるしかない。

今までやってきた行為が全て無駄になるのはいささか悔しいが、

だがやはりもう無理なものは無理なのだ。

変わり得ない事実で、真実で、これが僕の結末なのだ。


あれをやっておけば良かった、

こうしておけば良かったなんて後悔がないなんて言えば嘘になるけれど

この世界にいる時間だけはまぁそれなりに自分の中でも充実していたのではないだろうか。


そんなことを考えて目の前にいる杉本に直る。

普段から私服などがおしゃれなやつではあったが今の彼の服装はそんな彼がきていたものよりもはるかに高価なものであるというのがいくら無知な僕でもわかるほどのものだった。

基本的に黒をベースとした着心地の良さそうな、例えるのであればカシミヤのような素材の上品な布で仕立て上げられた軍服に、肩元には金色の糸で模様が縫われていてシャンデリアや外の光を反射してキラキラと金色色に輝いている。

ミルクティー色の彼の柔らかそうな茶髪もまたその金色を反射させてキラキラと輝いた。

もともと大人びているからだろうか。

もともとどこか子供という感じがしないからだろうか。

それだからだろうか。

同級生が急に国のトップになって政治を始めていたなんていう異様な光景なのにどこか納得してしまうのは。

まぁとはいえ、この後自分がどうなるのか大方予想がついているため、できるだけ苦しまない方法がいいな、なんてことを現実逃避のように考えていて。

そんな中こちらを振り返る瞳に僕の顔がうつり、杉本が口を開ける。

空気が揺れる。






「俺の相方になってくれないか」





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