第6話



それは長い長い夢だ。

誰もが笑顔で。

誰もが幸せで。

生きているものがみんな平等な世界。

上も下もない。

優秀も劣等も存在しない。

誰もが同じ。

批判もなければ賞賛もない。

でもだからこそ妬みや嫉みもない。

そんな世界の夢。

「同情」「尊敬」「嫉妬」「妬み」「感激」「激昂」

感情なんてものを持ち合わせているから人間というものは成長しない。

人というものは感情を捨てて初めて成長できる。

誰かを「同情」するという行為と誰かを「支配」することは本質は同意義であるが結局のところ「同情」は持続性がない。

どれだけ平等を訴えたところで、結局のところ持続して自分の望みを叶えるのならばその対象を「支配」することが一番なのである。

恐怖は簡単に人を支配する。

恐怖ほど簡単に人の心を動かすものはないのだろう。

そんな常に誰かしら下にいなければ気のすまない人間たちに突如完全に平等な世界が訪れたらどうなるだろうか。

答えはわかりきっている。

反乱だ。反抗だ。否定だ。批判だ。

神への謀反だ。

人は誰かと平等に生きることを望むと口では言いつつ見下す相手や見上げる相手がいなくなればその掌を簡単に覆す。

何かしら、どこかしら、はけ口を作ろうと努力し始める。

そういう時の頭の回転だけは無駄に早く人は簡単にはけ口を作り上げてしまう。


つまりは何が言いたいかって?

簡単なことだ。

夢の中であろうと。

自由な世界であろうと。


常に人類皆平等なんてことはあり得ないのだ。


さて、そろそろ彼が起きる。

彼がこれからリセットの効かなくなったこの世界でどのように動くのか楽しみにしてるよ。

ベラベラ喋るお前は誰かって?

何を言ってるんだ。

もうすでに一度君らの前には姿を表しているだろう?

何、わからない?

では彼と共にその答えを見つければいい。

ベラベラと喋る私が一体誰なのか。

この世界の本質とはなんなのか。


人が生きる意味とは一体なんなのか。


考えるがいい。

思考するがいい。

想像するがいい。


君の中にある”答え”を見つけるといい。
















目が覚めれば澄んだ空気の中で大樹に寄りかかっていた。

上を見れば澄んだ青空が広がっている。

まるで先ほどまでが悪夢だったかのようだ。

異形が。異様なものが。化け物が。死にかけた記憶が。

全てがただの悪夢だったかのように。

全てが嘘だったかのように。

その場所は何もかもを忘れさせた。

何もなかったのではないだろうか。

もしかしたら本当に夢だったのではないだろうか。

なんてありえるはずもないのにもしもの可能性を信じて考えてしまう。

それはそれは長い夢だった気がした。

いや実際に長い夢だったのかもしれない。

もうどちらが夢で、どちらが現実なのかさえもわからなくなってきてしまったが。



「生きる意味、か」



そんなもの果たしてあるのだろうか。

そんなふうに考えながら体を起こす。

そろそろ動かなければ。

いつまでもここにいるとそれこそ体が固まってしまう。

軽く伸びをすればぼきぼきと背中のあたりで骨が音を立てる。

おかしいな。

これはもうすでに固まっていたのだろうか。

なんて、ぼきぼきと鳴り響く自分の骨に呆れたようなため息を零せば次に何をしようかなんて考える。

なんだかこの世界に来てから自分は随分と冷静にものが考えれるようになったのだななんて思う。

そもそもこの世界にくるといつもよりも頭が冴える気がするのだ。

いや、現実世界でもこれほどまでに有能だったら自分はもう少し必要とされていたのだろうか、、、なんて。

そんなことを考えても仕方ないのはわかっているが、生きている意味なんてものを問われた後である。

ついそんなふうに考えてしまうのも仕方のないことなのではないだろうか。

いや、そもそもそんなものいつ問われただろうか。

問われた気がしただけなのではないだろうか。

、、、。

いや、考えるのは予想。

深いところにはまって思考が戻ってこなくなりそうだ。

そんなことよりもこれからどうするのかを考えなくては。

下手に動いて怪物とエンカウントなんてことになった日には命を落としかねない。

そんなにもあっけなく命を落とすのは癪に障るし嫌なので他にもっと慎重な案を考えなければいけないんだけれども。

あいにく自分はバカだ。

何も思いつくことはない。

とりあえず、ここは新しい異世界だとでも考えておこう。

そう心に決めた後まずは安全に森から出るために辺りを見渡す。

それにしても本当に空気が澄んでいる。

現実世界で言うならば、神社やお寺などの空気と似ているだろうか。

森林浴とか、そういった類いのものとも似ているだろう。

そのくらいにここは澄んでいる。

まぁだからこそ魔物もわかないのだろうけれども。

だからと言っていつまでもこの場所にいるわけにもいかない。

とりあえず町に行くか、なんて重たい腰を持ち上げて先ほどまで歩いてきた道を辿り街まで降りる。

不意に後ろで強い風が吹いた気がしたが気のせいだろうとまた足を進めた。

騒がしい喧騒が耳に戻ってきた頃にはもう僕の記憶には先ほどの夢の内容など残っていなかった。

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