N. E. O. S

オルトマン

LILITHの娘たち

第1話 6人の少女

 「…緊急事態だ、ノメリア。」

 「の割には落ち着いた口調だな。要件は?」

 「極秘の案件だ。すぐに私の元に来い…要件はそこで話す。」

 「了解しましたよ…長官殿。」




 仄暗い廊下の奥から、少女のすすり泣きが響き、木霊している。その泣き声に混ざって稚拙な罵声も響く。廊下の先には大きなホールがあり、そこに血まみれでこと切れた中年の研究者を6人の少女が囲んでいた。ホールには巨大なモニターがあり、生物、化学関連の映像を垂れ流し、その光が彼女らを照らしている。


「どうして…どうして…ヒック…、パパを殺したのベベルゥ?」

「それはこの男がパパでも何でもない、くそだからよ!何度言えばわかるの!!この泣き虫エリリン!!」

 

 泣きじゃくる少女はエリリン。その背中には異常に発達した奇妙な3対の足が生えており、それには鋭い鉤爪が備わっている。他の5人は支給されている黒い専用服を着ているのに対し、ピンク色のスポーツブラとパンツを着用している。そのエリリンを罵倒している少女はベベル。右顔面に血管が浮き上がり、変異を起こし膨張した筋肉を持つ青色の両手が特徴的である。

 その二人のやり取りを無表情で眺めるエミリアとヤハト、そして、オロオロしながら打開策を思索しているハル、モニターを眺めるリプリカ。エミリアにはこれといった身体的特徴はないが、ヤハトは背中から翼のような器官、ハルも同様だが片翼であり、リプリカは触手状の器官と変異した大きな紅い右眼を持つ。彼女らの身体的特徴はそれぞれ異なるが、共通して先端に赤い棘が付いた尾のような器官を持っている。


「ね、ねぇ!とりあえず、さあ。こんな所で言い争ってないで、この施設から出る方法を考えようよ!」

「それも、そうねハル。いい考えだわ。」

「ほ、ほら、リプリカもそう言ってるしね?」

「…でも、ここは深い海の底にある施設よ…?どうやって、出る?」

「それをみんなで考えるのよ、ヤハト!」

「うるせーな!そんなの泳いで出ればいいでしょうよ!」

「リプリカ、パパから聞いたことあるんだけど。海って深いところほど、水圧っていうのが高くなっていて、この施設がある深さだと、その水圧は人間をぺしゃんこにするほど高くなっているってさ?」


 呆気にとられるベベルに対して、エリリンが答える。


「泳ぐにしても息が続かないよぉ…意外に馬鹿だねベベル。」

「んだと、この-…。」


 見かねたエミリアが二人の仲に割って入る。無表情であるが、確かな冷たい視線で彼女らを一瞥する。


「私たちはパパ以外の人間もたくさん殺した。…ただでは済まない…。」


 その言葉の重みと不気味な響きを感じ取り、ベベルは言葉を抑える。そして、彼女は彼女らが“パパ”と呼んでいた死体へと歩み寄り、白衣の内ポケットから血に濡れたカードキーを取り出した。彼女がそれを白衣で拭うと、鈍く輝くその表面に「Lv. 5」と金色で印字された文字が浮き上がる。


「あー、それはパパがここのドアを開けるときに使ってたやつだ。パパはどのドアもそれで開けていたのをこの目で見ていたよ。」


 大きな紅い眼をカードキーに近づけてリプリカが言った。ベベルは勝ち誇ったような顔をして、エミリアに視線を注ぐ。それをよそにハルが興奮気味に言う。


「やったぁ!これで、前進することができるね!」

「私のおかげよ、感謝なさい!」


 意気揚々と進むベベルを先頭に彼女たちは歩み始める。エリリンは少し立ち止まり、死体に駆け寄ると、頬を撫で、瞳を手で閉じてから後に続いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る