第八十四話:古典的な罠。
御伽・ファクシミリアン・有栖は非常に困っていた。
「ど、どうしてこんな事になってしまったんですの…」
御伽・ファクシミリアン・有栖は
迷子になっていた。
「えっと、確かあの角を曲がったからこう来てこうなってこっちに曲がってあっちに行くからえっとえっと…もうどっちから来たのかすら解らなくなってしまいましたわ…」
きっと先程の騒ぎで混乱してしまった為に記憶が混乱しているだけだ。きっとその筈だと有栖は自分に言い聞かせる。
が、壊滅的名自分の方向音痴を理解している彼女にはそんな言い訳を考える事自体とてつもなく虚しいだけである。
「と、とにかくっ!じっとしていても始まりませんわ。少しでも先に進みませんと。…でも途中で敵に見つかってしまったら…」
有栖は戦闘能力など無いし生まれてこのかた喧嘩すらした事がない。つまり見つかったら終わりである。
ビクビクしながら少しずつ進んでいくが、不思議な事に誰とも遭遇しない。
もしかしたら間違えて道を戻っているのではと不安になるが、有栖にはそれを確かめる事も出来ないので諦めてそのまま進む事にした。
すると、何故この近辺に人が配置されていなかったのかを身をもって知ることになる。
がこっ
「…?今何か音がしたような…私何か落としたのかしら」
小さな何かを落としでもしたのかと身をかがめたその時、
すこーんっ
軽い音と共に有栖の頭上を矢が通過した。
恐る恐るしゃがんだ姿勢のまま見上げると、びよよよ~んと反対側の壁に刺さった矢がしなっている。
「…え?」
すこここーんっ
今まで立っていた頭の辺りを続けざまに矢が通過していくのを見て有栖の顔が青ざめる。
恐怖が遅れてやってくるタイプのやつだった。
「ひっ、ひゃあぁぁぁぁぁ!!」
慌てて低姿勢のまま走り出す。一歩間違えば死である。死、死、死。
「なんでこんな事にっ…き、きゃあっ!」
一つ角を曲がりなんとか矢のエリアを通過したところで勢いあまって足を絡ませ有栖は転倒してしまった。
「えぐっ…どうしてわたくしが、こんな目にあわなければならないんですの…?ひっく」
あまりの恐怖に床に伏したまま泣き出してしまった。
が、その涙もすぐに引っ込む。
立ち上がろうとした有栖の服からボタンが一つちぎれて落ちた。
ころんころんと転がるボタンはそのまま2メートルほど転がって、そして
落ちた。
ぼかりと急に地面が消えて大きな穴が生まれた。
センサーか何かが反応して対象を落とし穴に落とす、そういう罠だ。
「…もう、驚きすぎて涙もでませんわ…」
そのまま走っていたら、或いは安堵しながら歩いていたら。
有栖は地の底へ真っ逆さまである。
本当に恐怖に震えた時、人という者は溢れていた涙さえ一瞬で引っ込んでしまうのだと気付いて有栖はなんだか笑ってしまった。
笑うしかなかった。
「えへへ…あははははは…」
声をあげて笑った。次の音が聞こえるまでは。
ごとり。ごろ…ごろごろ…。
嫌な予感に身を貫かれながら有栖が背後を振り返る。
今さっき曲がって来た角が左手に見え、正面は行き止まりの壁だったが、だんだん近づいてきたごろごろという音はその壁を突き破って有栖に迫る。
「さっきから罠が古典的すぎますわよ!!」
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