第六十七話:人魚阿泡海の特殊スキル。
まさか俺に妹萌え属性があったとは…。一人っ子だったから確かに弟とか妹とかが居る友達を羨ましいと思っていた時期もあったが…。これはこれでなかなか悪くないというか…。
そんな事を考えているうちにバス停に到着する。今日は平日なので学校は平常運転中、あまり人目に付くわけに行かないのだが、全員執事さんが迎えに行くというのはさすがに大変なので一度隣町の駅に集合してそこで執事さんの車に拾ってもらう手筈になっていた。
ちなみにハニーと俺が揃って休んでると怪しまれるという理由でハニーは一応学校へ行っている。
体調不良で早退して合流予定らしいが、その方が怪しくないだろうか。
そもそも教室の俺の席近辺が白雪と有栖分を含めるとガラガラになるわけで…。
まぁハニーが登校したのは逆にその辺が理由かもしれない。
あいつならうまい事みんなをはぐらかす事も出来るだろう。
あえて面倒な役割を買って出てくれたと思うと頭が下がる思いである。
ちなみにそんなハニーとは対照的に教師は堂々と休んだようだがまぁそれはそれで咲耶ちゃんらしい気もする。
バスの中に知り合いが乗っていないのを確認し、乗り込む。
アルタは思い出したようにサングラスとマスクを装着して、身バレ防止の為か目的地に付くまで大人しくしていた。
ネムさんはバスの一番後ろの席に横になって爆睡。恥ずかしいから辞めてほしい。
目的地に到着すると、既に皆集まっていて執事の多野中さんが車へと誘導してくれた。
有栖の姿が見えないが多野中さんが有栖を連れてきていないはずがないので車の中にいるのだろう。
あとは…もう一人姿が見えない。
「多野中さん、泡海は…えっと、長い黒髪の女の子はまだ来てないですか?」
「いえ、人魚泡海様でしたら既に車に乗車しておられます。ささ、皆様もお乗りください。立ち話は目立ちますからな」
車は前回見たリムジンではなく、大人数が乗っても大丈夫なように大きめのワゴンタイプだった。
こういう車を執事さんが運転している光景というのはなんだか違和感が凄い。
それはそうと泡海が先に乗っているとはどういう事だろうか。有栖と話でもしているのか?
集まっていた皆に泡海は車の中だと説明し、皆でと乗り込もうと扉を開けるが…。
「ふっ、ふがふがっ、ふががががーっ!」
「黙りなさい」
「ふっ、ふががっふがーーっ!」
「私のいう事が聞けないっていうの?いいわ、泣いて懇願したくなるように調教してあげる」
「んっ、んあぁぁっ!ふぅぅぐぅぅぅぅ…」
目に映ったあんまりな状況に一同呆然。
先に車内にいた泡海は、なんだかもごもご動くズタ袋のような物を、子供には見せられない手と指の動きで舐め回すようにまさぐっていた。
「あのー。泡海?一同代表で聞いておきたいんだが、お前何してんの…?」
一瞬手を止めて泡海がこちらを見る。
「何って、分からないのかしら?調教よ調教。早く下さいもっと下さいって言いたくなるようにしてあげてる最中なんだから邪魔しないでくれるかしら」
お前は一体何と戦っているんだ。
「後で説明するからあと五分時間を頂戴。というわけで出ててくれるかしら?」
追い出されてしまった。
あの袋…どう見ても人が入っていたように思う。声からすると女性だろうか?
「この時間帯に若者が何人も立ち話をしているのは少々目立ちますが仕方ありませんな」
多野中さんはほっほっと笑いながら口元の髭を撫でる。
こういう仕草が似合うダンディーさというのに憧れていた時期があるが、俺が年をとってもこうはなれまい。
「おとちゃんおまたせー♪」
勿論ハニーにはもっと無理だろう。
ハニーは学校からわざわざ電車でここまで来たようだ。直接有栖の家に行った方が近かったような気もする。
「皆に質問攻めにされて大変だったんだよ~。ちょっと疲れちゃった」
「面倒な仕事させてごめんな」
「仕事じゃないし。勝手にやってる事だからおとちゃんは気にしなくていいんだよ」
ほんとにハニーのこういう所に助けられているなぁと感慨に耽りながら頭を撫でてやる。
俺の肘くらいの位置に頭があるので非常に撫でやすい。
「もうおとちゃんってば子ども扱いしてー。別にいいんだけど…そういえば人魚先輩は?」
今車の中でお楽しみ中ですよ。
簡単に状況を説明したが、俺達もよくわかっていないので適当にしか伝えられない。
「…えっと、要するに知らない女性を拉致してきて無理やりいろいろしてる最中って事?」
それだけ聞くとヤバいな。犯罪の香りがプンプンするぜ。
「やっぱりあの女ヤバい奴じゃないの…苦手だわ」
アルタが小さく震えながら呟いた。
アルタの場合特に泡海には注意してもらった方がいいだろう。
「どうでもいいけど終わったみたいだぞ」
咲耶ちゃんの合図で振り返ると車のドアが内側から開き、泡海が「お待たせ」とこちらを手招いた。
「わたくしは何も知りませんわたくしは何もしりません」
有栖はずっと助手席に乗っていたので一部始終を聞いてしまったようだ。耳を塞いでガタガタ震えている。
よほどの現場に遭遇してしまったのだろう。哀れだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます