第六十四話:アルタという小悪魔。



「うーん。じゃあ俺の子供の頃の話とか?初彼女と付き合って玉砕した話とか」


「なにそれ面白そう。早く教えなさいよ」


 暗がりの中でもわかるほどの目の輝き。やっぱり女という生き物は恋バナというのが好きなものなのだろうか。



 俺が幼いころ咲耶ちゃんに出会った事、そして求婚して見事に玉砕した事など、今まで誰にも話した事がないような話をアルタに聞かせていると、「うんうん、それでそれで?」「何それ酷い」「え、マジで?」「理由www」とか思ったよりも喜んで貰えたようだ。



 そして、話していて分かった事だがこの少女はある程度気を許している相手だったら普通に話せるし思いの他聞き上手である。ただ他人とあまり接点を持とうとしない事で友人が出来ないだけなのだろう。




「あー笑った。まさかあの先生とねぇ…しかもあの先生がねぇ…他には?他にはないの?」



 下らない小さいころの話をいくつか聞かせて、話の内容はだんだんと今に近づいてくる。



「それで、白雪に無理やり女子更衣室に忍び込まされて…」



「うっわ最低。悪魔じゃなくてアンタが」



 なんでだよ。俺は被害者だぞ。



「全く興味なんてないし本当にやりたくなかったって自信を持って言える?」



「…そりゃ、確かに学園のアイドルである泡海先輩のロッカー見つけた時はテンション上がったけど」



「ほらみなさい。…ってあの泡海?」



 そこからの経緯も説明しなければなるまい。



 その後突如泡海から呼び出された事、泡海の秘密のデータを知らずのうちに家に持ってきてしまった事、(これは話すつもりじゃなかったんだ泡海許せ)それを問い詰められている間に秘密の組織の事を知ってしまう事、お互いの秘密を守る条件として泡海と付き合う事になった事など、気が付けばすべて話していた。こいつの聞き上手にうまく転がされた形だ。うん、俺のせいじゃない。



「そうなんだ?アンタらが付き合ってた事もびっくりだけどそれが嘘の関係っていうのも驚きだわ。それに組織の事と、何よりデータの事ね」



「あれは勿体ない事をした…」



「あんた女の裸に興味ありまくりじゃん」



「ネムさんにも言ったが女の裸に興味がない男など存在しない!」



「そんな力いっぱい言われても…」





 いつの間にか俺はこの少女の事を、気軽になんでも話せる友達くらいに思っていたのかもしれない。知り合って長くないから余計に本音が出せるという事も時にはあるのだ。



「だから私の裸も見ようとしたの?」



「プールの事か?アレは白雪絡みの不可抗力だ。さっきの事はネムさん絡みの不可抗力だ一応謝っておく申し訳ありませんでした」



「もういいわよ。でもそんな事聞いてるんじゃなくて、見たいのかどうかを聞いてるのよ」




 …な、なにをでしょう?




 返答できずに固まっていると、



「だから、私の裸も…見たいのかって聞いてんのよ」



 などと恐ろしい事を聞いてくる。俺は出来るだけ平然と対応しようとした。



「さっきも言ったが女の裸を見たくない男なんて」



「見せてあげようか?」



 んなっ。



「ちょ、ちょっとまていやいやそれはまずいというか危ない、いや、いや、違う嫌じゃあないけどいろいろと、な?分かれ!」



「冗談に決まってるでしょ何焦ってんの?」



 アルタは子供のようにケタケタと笑った。



 どうやらからかわれてしまったようだ。



「そういえばさ、さっきお風呂に行った時アンタの母親に捕まってたんだけど…」



「あぁ、うっすら聞こえてたよ。なんかごめんなうちの母親ああいう人だからさ」



「き、聞こえてたの?」



 ん?アルタが解りやすく動揺を示した。



 ここは仕返しに俺がからかってやろう。



「あぁ、聞こえてたぜ。まさかお前がなぁ…」




 嘘だ。全く会話内容は聞こえていない。本当は少し声がするなぁ程度だった。




「そ、そっか…聞いてたんだ?」



「うんうん」



 適当な相槌を打ちながら本当の事を言うタイミングを計っているとアルタから妙な質問をされた。



「そ、それで…アンタ自体はどう思ってるのよ」



 …何がでしょうか?なんかだんだんとやっぱり聞こえてませんでしたとは言いにくい空気になってきた。



「えっと…まぁ、その、いいんじゃないか?」



「そう、なんだ…。ほんとにここの子になっちゃおうかな…」



 ちょっと待て、おい母親お前何をアルタに吹き込んだんだ。



「アンタの母親にさ、もういっそうちの子になってほしいって言われた時私正直嬉しかったんだよね。ああ私にもこんな母親が居たら…って思っちゃってさ」



「あ、あぁその事ね、はいはい」



 ってちょっと待てよ。さっきこの女ほんとにここの子になっちゃおうかなとか言ってたよな。




 ど、どどどどういう意味で言ってるんだこいつ




「アンタはさ、私みたいな妹が出来たら嫌?」






 …?






「いも、うと?」



「もしほんとに私がこの家の養子とかになったらアンタは、その、おにい…ちゃん、になるわけでしょ?アンタはこんな妹はどうなのかなって」



 はい?あ、あぁ、そういう事か。



 そっちですかそうですか。



「俺としちゃお前みたいな妹が居たら落ち着かねぇなぁ」



「やっぱり嫌だよね」



「それもちょっと違う。どっちかっていうと毎日ヒヤヒヤドキドキするのは心臓に悪いというか…」



「なんでアンタがドキドキすんのよ」



 うわこいつ素で言ってやがる。

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