第六十五話:アルタのたくらみ。


「だから、こんな可愛い妹が居たら毎日ドキドキしっぱなしだろうが。俺の心臓に悪いって言ってるんだよ」



 俺は何か変な事を口走った気がする。



「かっ、可愛い?ほんと?」



 なんでこいつはこんな素直なリアクションをしてくるんだろうか。ほんとに妹か何かに見えてきた。



「そりゃ可愛いだろうよ。お前自分がアイドルだって忘れてないか?アイドルになれる人間なんて普通に考えて可愛いんだよ」



「そ、そうよね!私ってば国民的アイドルだしっ♪」



 なんだか上機嫌になったようで何よりである。



「でもこの家の子になるのは諦めた方がいいって事だよね。それはちょっと残念かも」



「なに言ってるんですかぁ~アルちゃんはほんとにおバカですねぇ~♪」



 どこから湧いて出た。



「ね、ネム?アンタどっから湧いて出たのよ」



 おっ、俺の気持ちを代弁してくれるとは気が利くじゃないか。



 ネムさんは今部屋の壁から頭だけにょきっと生えている状態である。



 隣の部屋からすり抜けて覗いているのだ。




「だいぶ前から話は聞かせてもらってたんですけどぉ~アルちゃんってばお母さんの言葉の意味ちゃんと解ってますぅ~?」



「な、何よ。どういう事?」



 あーこいつやっぱり分かってなかったか。うちの親が考える事なんて決まっている。




「お母さんはぁ~乙姫さんと結婚してこのうちの子になってほしいって言ってるんですよぉ~♪それじゃごゆっくりぃ~♪」



 それだけ言うとさっと引っ込んで隣の部屋へと帰っていった。



 この気まずい空気をどうしてくれる。



「え、あの、えぇ~?アンタの母親、そういう意味で言ってたの?」


「お、おう…たぶん」


「へ、へぇ~。そっかぁ…」


 アルタさん?


「でも妹がダメならそういうのも…うーん」



 あの、アルタさん?


「でもいくらなんでも早すぎるというか…でもそれなら自然にここの子に…」



「おーい、アルタさーん?」



「はっ、な、なによ!何か文句あるの?」



 いや、そんな反応されるとこっちが困るというか…どうしたらいいのだ。



「あの…そろそろ、寝ようぜ?」


「ね、寝る?…あ、あぁ睡眠ね?そうねもう遅いものねおやすみなさい!」


 言うが早いかアルタは布団に思い切り潜り込んだ。


 布団の中でしばらく一人でああでもないこうでもないいやしかしでもだけどうーん。みたいな独り言をぶつぶつ言っていたが、十五分ほどで小さな寝息を立て始めた。




 …なんか、疲れた…。



 初めて白雪がこの家に来た夜と同じか、それ以上に俺の精神は揺さぶられて疲弊していた。



 決して悪い意味ではないのだが。


 もしこいつが嫁に来たら毎日こんな生活になるのか?


 …そういうのも悪くないかもしれない。


 いやいや落ち着け。相手は中学生だぞ!



 いや、しかし…うーん。


 今度はこっちが唸る番だった。



 そんなこんなで今夜は大いに唸る晩だった。





 うん、うまい事言った。

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