第三十五話:アイドルの本性。


 …?



「それってどういう事だ?あの歌に何か特別な力があるっていうのか?」



 もしそうならアイドルとしての八百長ともいえる行為であろう。



「何よ、悪い?私に取り憑いていい事をしなさい善行を積みなさい、人を幸せにして幸福エネルギーを集めなさいなんてふざけてるわ。選ぶ人間間違えてるのに気付いてほしいのにあの天然馬鹿はいつまでも私に纏わりついて…」



 どうやらこの子も俺と同じく苦労しているらしい。でもよく考えたものだと思う。おそらく天使の力を行使して歌で人を魅了する。魅了された人間は幸せな気分になり幸福エネルギーとやらが発生する。



 白雪と同じような原理であればそれはある意味永久機関だ。力を使う事で失われるエネルギー以上の幸福エネルギーが得られるのであれば日々プラスが積み上がっていく。



「さっきから聞いていればアルちゃんひどいです~。私悪者みたいになってませんかぁ~?」



 トイレの壁からにょきっと女性が生えた。



 もう慣れてしまって驚きも少ない。声に聞き覚えがあったのも驚きが少なかった要因の一つかもしれないが。



 その声は更衣室に居た時にアルタを呼んでいたふわふわした声だ。



「はじめまして~わたし、天使のネムリって言います。気軽にネムって呼んで下さいね~♪」



 ネムと自己紹介した天使は、髪の毛はピンク色でゆるふわ系の肩につくくらいのボブ。詳しい髪形はしらん。そんな知識はない。



 よくファンタジー物や物語などで見るような白い天使服ではなく、こちらもピンク色のふんわりしたワンピースを着ていた。



 何よりの特徴がその胸部である。



 でかい。



「あ、あなたが悪魔さん?はじめまして~」



「…なんじゃ、調子が狂うのう。しっかし同類とこの世で対面する日が来ようとは…」



 これはとてもレアケースなのじゃと白雪は言う。



「とにかく、私がなんやかんやあってこの馬鹿天使と契約しちゃったせいで毎日大変なのよ。アイドル活動してれば幸福エネルギーに困る事はないけど忙しすぎてゲームも出来ない漫画もアニメも見る暇がないの!本末転倒よ!」



 いや、それを俺に言われてもいったいどうしろと…



「そこでよ、今日の事は水に流してあげるからその悪魔の力で私とこの馬鹿天使との契約を無かった事にしなさい」



 そういう事か。契約は自ら破棄することは出来ない。悪魔、この場合天使もだが、あちらが契約を解除しようとするまでは続いてしまうのだ。



 仮に超常の力を使う者が二人存在した場合、もう片方の契約を打ち消す事は可能なのだろうか。だったらお互いが打ち消しあう事で二人とも自由になる事が可能かもしれない。



「またそんな意地悪な事いって~。アルちゃんはもう少し善行を積んで人々に貢献しようっていう気持ちを持ったほうが~」



「うっさい!」



 コントか何かを見てる気分になってきた。もしかして他人から見た俺と白雪はこんな風に映っているのだろうか…。少しショックである。



「ふむ。要するにこいつに頼んでわらわの力を使い、天使との契約を破棄させたい。そういう事じゃな。残念だが無理じゃ」



「なんでよ?天使も悪魔も同じようなもんでしょ?なんとかならないの?」



 同じような物という認識でいいのだろうか。あくまでもこちらは悪魔で、そちらは神の使いと言われる天使様である。



「まぁ天使も悪魔も同じじゃが…」



 同じなの?全然別物っぽいけど…でも確かに契約だのエネルギーが必要だのいろいろと共通点はある。


「少し講義をしてやろう。わらわ達は悪魔でもあり、同時に天使でもあるのじゃ。わらわ達の世界は魔界であり天界でもある」



 ちょっと意味が解らない。だったら白雪は天使でネムさんは悪魔か?



「さすがに白雪が天使っていうのは…ぐえっ」



 そこまで言ったところで白雪に肘打ちをくらい続きをいう事は出来なかった。



「ともかく、あちらの世界と仮に呼ぶ事にするのじゃ。あちらの世界には物質は存在しない。ただ陽の気と陰の気が漂っているだけじゃ。こちらの世界の術士がどのような方法で召喚に至る知識を手に入れたのかまではしらんが、その手段や方法によって吸い出される成分が違うのじゃろう。わらわはそう認識している」



 吸い出されて召喚される成分の違いで天使か悪魔か決まるという事なのだろうか。



「あちらの世界には人々から発せられる気が充満しているのじゃ。勿論自我も持っていない。抽出される時に初めて形を持ち、その際の成分次第で性格が変わるんじゃないかと思うんじゃ。おそらくとしか言えんがな」



 結局のところ天使も悪魔も紙一重で、呼ぶ側がどんな手段でどんな物を抽出するか次第。



 意外と適当なものである。



「勿論抽出される成分次第で能力の差や特徴なども変わってくるじゃろう。わらわは面白い事をしたい。楽しく過ごしたい。だからこその悪魔なのじゃ。どうせそこのネムとやらは人の陽の気の塊なんじゃろう。頭もお花畑っぽいしの」



「お花畑は好きですよ~♪幸せの象徴みたいなものですし~」



 あぁ。なんとなくわかる気がする。



「あんたらが何者かなんてこっちはどうでもいいのよ。契約破棄が出来るか出来ないか教えて!」



「正直な話、やろうと思えば多分出来る」



「じゃあやってよ!」



「待て待て。しかしこの悪魔、天使との契約というのは非常に重いのじゃ。何せ命の共有のようなものじゃからのう。無理やり切断するほどのエネルギーを作り出そうとすればうちの乙姫は一瞬で干からびるじゃろう」



 …おいおい、一瞬で命もっていかれるレベルの話なのか?さすがにそれはごめんだ。



「別にこんな乳揉み魔が死んだって私何も困らない!」



 ひどい!

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