第二十八話:突然のお嬢様。


 今回はこそこそしていても仕方が無い。むしろ出来る限り堂々と入っていかなければならない。ある意味隠れてこそこそ入っていくのよりも勇気が必要だ。



 まずは更衣室の近辺をこの格好でうろついてみる。なんとなく女子に見えるかも、程度では心配だ。周りの反応を見てからでも遅くはあるまい。



 …意外と、バレない?



 数分うろうろしてみたが今のところバレる気配は無い。俺って意外とイケるのか?



「まだかのう?もういいと思うんじゃが…」



 …よし、行こう。



 女子更衣室へ足を踏み込む。心臓が破裂しそうだ。周りには女子が普通に居てこちらを見てくる。いや、見られているように錯覚しているだけかもしれない。それだけ俺の精神は消耗している。



 一歩また一歩と先へ進む。入り口に入ると細い通路があり、突き当たりを曲がると開けた場所に出る。



 いきなり着替えている女子に遭遇。慌てて引き返そうとするが、「どこへいくのじゃ。ほれ進め」とニヤついた悪魔の囁きが耳に響く。



 意を決して、あまり意味はなくともできる限り女子の方を見ないように見ないように進むが、ロッカーの列を一つ通り過ぎた所で予想外の出来事が起きてしまった。




 どんっ




「きゃっ」



「うわっ」



 突然二列目のロッカーの陰から女子が飛び出してきて俺に激突したのだ。虚をつかれてたまらず俺は後ろに倒れる。相手も反対側に倒れてしまったようだ。




「も、申し訳ありませんっ、わたくし忘れ物をしてしまって、その、慌てていたものですから…そちらは大丈夫ですの?」




 聞きたくない聞きたくない今聞きたくない声がした俺の事は気にせずどっか行ってくれ有栖!!



「あの…どこか痛むんですの?わたくしのせいで…」



 違う、違うから早くどっか行ってー!



「わたくし、どうお詫びしていいか」



『だ、大丈夫ですから、気にしないで下さい』



 黙っていても状況は良くならないので覚悟を決めて裏声を出す。背後からは悪魔の爆笑する声。どうやら今の白雪は声も俺にしか聞こえないらしい。



「そういう訳にはいきませんわ。私の気がすみませんの」



『ほ、本当に大丈夫ですから気にしないでくださいー!』



 それだけ伝えて逃げだした。俺にはそれ以上は無理だ。頼むから追って来るなよ…。



「ぎゃっはっは今のは傑作じゃ!!たまらんのう♪」



 笑い事じゃねぇよ!!死ぬかと思ったわ!



「でもこれで知り合いにもバレないって事が解ったのう。これで心置きなく散策できるというものじゃな」



 …そうか。確かにある意味収穫はあったのかもしれない。



 その後特に何か目的があるわけでもなく、ただ黙々と更衣室内を歩き回らされた。



 当り前だが水着に着替えるともなると女子は全裸になるわけで、ちゃんとタオルで隠しながら着替える女子も勿論いることにはいるのだが…どこに視線を動かしても目の毒にしかならない。



「なかなかいいエネルギーの溜まりっぷりじゃのう」



 そりゃ青少年ですからね。こんな状況に放り込まれて無感情でいられるほうがすげぇよ。いつ男と見破られるかとこっちは常にヒヤヒヤしてるってのに楽しそうな声だしやがって…。



 今日偶然ここで着替えている人たちよ。本当に申し訳ない。できるだけ見ないようにするからほんと許して。



「あまりうろうろし続けるのも不審じゃから適当なロッカーでも開けて何かしてる振りでもしてみるのじゃ。勿論無人のエリアじゃなく近場に女子が居るところでな」



 悪魔か。いや、悪魔なのだけれど…文句を言ってやりたくてもこんな場所であまり声を発するわけにもいかず俺はただ言われるがままに近場にあったロッカーを開ける。



 三つほど右のロッカーを開けて着替えている女子が一人いたが、出来るだけ人の少ない場所となるとここくらいしか無かったのだ。許してくれ。



 今日は懺悔ばかりしている気がする。許せと言われて許せるような事でもないのだろうがこちらにも事情があるのだ。すこしばかりアレなアレが視界に入ってしまっても仕方ないのである。



「お主意外とノリノリになってきてないか」



 そんな事は無い。ある筈がない。これは不可抗力であって、隣の女子が今まさに服を脱いでいくところが目に入ってしまっているだけなのだ。



 しかし装いが怪しい。女子はあまり被らないような野球帽を目深に被り、サングラスとマスクをしいていた。



 服を脱ぐのに邪魔だったのか帽子とサングラスを外す少女を見て妙な既視感に襲われる。



 …まてよ、この女子どこかで見たことがあるような…。

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