第二十九話:水着回。
その少女は細身で、身長は咲耶ちゃんよりは大きいが有栖よりは小さいくらいか。セミロングの髪を揺らしながらブラウスを脱ぎ始める。年齢は中学生か高校入りたてくらいだろうか。
どこで見たのだったか。知り合いではないと思う。だが間違いなく俺はこの顔を知っていた。
「おいおい、そんなに食い入るように見てたらさすがにバレるじゃろう。これだから童貞は…ん?まてよ…?」
白雪が何か考え込んでいる。まさか白雪も見覚えがあるとか言うんじゃないだろうな?同じ学校の女子とかだったらいろいろ面倒だしそろそろ移動したほうがいいかもしれない。
「ちょっとアンタ」
可愛らしいデザインのスカートをロッカーに放り込みながら少女はこちらに声をかけてきた。
『は、はい!なんですか?』
急に声をかけられたので声が裏返ってしまったが、むしろ裏返らなかったほうがヤバかったと気付く。
「アンタそのロッカー使ってるの?」
関わりたくはないのだが話しかけられている以上無視は余計不信感を抱かせる。やむを得ず我ながら気持ち悪い声で『はい、そうですけど…』と告げると
「おかしいわ。だってアンタもうロッカーのカギ腕に付けてるじゃない」
うおぉぉぉぉ!男子更衣室の鍵つけてたの忘れてたー!
「それになんだか…」
「アルちゃーん、そろそろ着替え終わった~?」
少女が俺に何か言いかけた時、どこからかその少女を呼ぶふわ~っとした声が聞こえてきた。
「もう少し。すぐ行くから待ってて!」
少女が一列向こう側へと返事をすると、「おい、今のうちに逃げるのじゃ!」と白雪が焦った声を出した。
「あ、ちょっと待ちなさい!」
嫌なこった!
なんだかよくわからんがこの子にこれ以上関わるのはまずい気がしたので一目散に逃げだした。全力疾走すると怪しすぎるので他の女子たちに不審がられない程度にできる限りの速足で、ロッカーの間をすり抜けながらアルと呼ばれた少女の視界に入らないように逃げる。どちらにせよあの少女は今下着姿なのだから追ってくるとは思えなかったが念のためというやつだ。
女子更衣室を抜け出してほっとしたのも束の間、「貴方…いったいこんな所で何をしているのかしら?納得のいく説明を聞きたいものだわ」今聞きたくない声第二弾が浴びせられた。
「上手く変装したつもりでしょうけど私の目はごまかせないわよ。女装してまで女子更衣室に忍び込んでいた理由を聞かせてくれる?やっぱりそういう趣味なの?もしそうなら写真は撮ってきたんでしょうね?」
俺に声をかけてきたのは怖いほどにこやかな顔をした泡海だった。
「写真なんか撮ってないって!た、頼む!今は見逃してくれ。白雪絡みでいろいろあったんだよ。後でちゃんと説明するから!」
「そう、まぁいいわ。今日私は機嫌が良いの。貴方のおかれている状況もある程度は理解しているつもりですし」
思ったよりも理解ある言葉に涙が出そう。いや、もう出てる。さっきの恐ろしさ故にだが。
「遅いから白雪さんを探しに来たのだけれど…二人とも早く来なさい。みんな待ってるわ」
その後再び多目的トイレに飛び込み、着替えて遅ればせながら皆と合流を果たした。
「おとちゃん随分遅かったんだね。白雪さんと何かしてたの?」
「ま、まぁいろいろとな」
ハニーは「大変だったんだね」と慰めの言葉をかけてくれる。本当にこいつは俺の癒しだなぁ。
「もうみんな待ちくたびれてしまいましたわ。早く遊びましょう♪まずはあのウォータースライダーとやらに行きたいんですけれどいいですわよね?」
有栖は相変わらずここでも目を輝かせている。
個人的にはこう、みんなが揃ったところで女子たちがもじもじしながら、水着似合ってるかな…?みたいな展開がほしいところだがこの面子にそんな事を期待しても意味がないのだろう。
プールは大きく分かれて三つのブロックがあり、有栖が言っているウォータースライダーがメインのプールはプール自体は小さめだがその分スライダーの人気で人が沢山いる。あとは校庭のトラックのような楕円形で流れるプールと、大きくて広い波打つプールである。
移動する前に皆の様子(水着)を観察すると、レンタルしてきたものなのでそんなにきわどい水着ではないが可愛らしい物がそろっていた。
有栖は水色で白のレースがついたパレオ付きのビキニ。俺が先ほど着ていたオレンジ色の水着の色違いだろう。
泡海は有栖のものよりもう少し大人びたシックなビキニだった。色は黒に近い紺だろうか。皆通り過ぎる男性の視線を集めていたが泡海が一番熱い視線を浴びていた。
そりゃ中身を知ってしまった今では素直に美しさを褒めたたえるのに抵抗があるがこれでも学園のアイドルだもんな。
ハニーは赤地に白水玉で白レースフリフリでセパレートタイプの可愛らしい水着。どうみても子供用である。それを自前で用意してきた事に若干思うところあるが似合ってるぞ我が心の友よ。
そして肝心の咲耶ちゃんであるが、黄色地に白水玉の子供用ワンピース水着だった。
子供用ワンピースなのに出るところが出ている。うん、素晴らしく可愛い!
しかし当人はぐったりした顔で、「あちぃ…はよ水入ろうぜ…」と砂漠でオアシスを求める旅人のような状況になっていた。
白雪はといえば、真っ白なビキニでもともとの色白さと相まって真っ白に光り輝いているようだった。
先ほどまではそれどころではなかったのでちゃんと確認していなかったが、さすがサキュバスなどと呼ばれた経緯のある悪魔だ。怪しさと艶やかさが全身からにじみ出ている。
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