第九話:けだもの。


 なんだこの展開は。どうしたらいい、こんなとき、どんな顔したらいいかわからないの。笑うのだけはダメ絶対。



「お、おう、じゃあ…その、被害は?」



 有栖は俯きながら、「し、下着、が…」と呟いた。



 …どーすんだよこれ、白雪のやろうあとでお説教だぞ!



「わ、わかった。とりあえずその下着どうした?」



「まさかほしいんですの?このけだもの!」



「ちげーよ!俺を変態扱いすんな!今そのまま身に着けてるわけじゃないだろうな?」



「さ、流石に…わたくしも迷ったんですけれど…トイレに生理用品用のごみ箱があってビニール袋がついてましたので、その…」



「それに入れて持ってるって事だな?その下着が貴重なものじゃないならどっかに捨ててくるのが一番だけど昔の学校みたいに焼却炉なんかないからなぁ…誰にも見つからないところに隠すか、匂いとかが漏れないようにきちんと袋を縛ってしまっとくしか…」



「に、にににに匂い?失礼な!!…いえ、確かにそうなんですけれども…なんというかもう少し言い方というものが…辛いです。死んで下さいませ」



 急に死ねと言われましたよ。



「とにかく今のところはそれしかないだろ?そんな事よりも、下着を袋に入れて持ってるって事は…今もしかしてノーパ」



「うぐっ…けだもの…」



「ごめん泣くなって!そうじゃなくてだな、ノーパンのままスカートで過ごすわけにもいかないだろノーパンなのがバレたら大変だ、それどころか見られたらもったいない!」



「ノーパンノーパン連呼しないで下さいまし!それにもったいないってどういう意味ですの?」



「それは気にするな!とにかくノーパンのままじゃまずいだろ。体操着とか持ってきてるか?」



「教室に行けば体育用のショートパンツが…」



 短パンならスカートの中に着こんでも大丈夫だろう。あとはどうやってそれをもって来るかだな…。仕方ない。ハニーを召喚しよう。



「なぁ有栖、お前は嫌かもしれないが俺が信頼している人間にヘルプを頼もうと思う。許可してくれ」



「もう一人にこの惨状を知られるという事ですの?…でも、仕方…ありませんわね。どうせ舞華さんでしょう?構いませんわ。このままよりよっぽどマシですもの」



 そうと決まればハニーにメールだ。



 数分後、有栖のスポーツバッグを持ったハニーがやってきた。



「それにしてもさ、白雪さんが転校してきたとおもったら御伽さんが具合悪くなっておとちゃんがお姫様だっこして走っていくんだもんびっくりしたんだよ。ちょっと楽しかったけど」



「楽しいだなんて、酷いですわ…わたくしにとっては今日だけで一生分の恥をかいた気分ですのに…」



「ごめんね、でも御伽さんが困らないように言い訳してもってきたから安心して」



「…わたくしの為にすみません。助かりますわ」



「ううん、ボクは御伽さんにはなんの興味もなかったしおとちゃんの頼みだから気にしないでいいんんだよ。むしろこれは貸ができたなって思いのほか嬉しい展開なんだよ」



「お、乙姫さん、この方は本当に大丈夫なんですの?」



 …たぶん、ね。



「なんて冗談冗談♪実を言うとね、ボクおとちゃんに暴言を吐く人って認識だったから御伽さんの事嫌いだったんだけど結構印象変わったしもうそんなふうに思ってないから大丈夫なんだよ♪」



「お、乙姫さんやっぱりちょっとこの方怖いですの…」



 いつのまにか庶民から乙姫さんに昇格したらしい。できれば乙姫乙姫連呼しないでほしいのでもうワンランクアップしておとちゃんにでもなってくれればいいのだが。



「一応言われた通りバッグは持ってきたけど薬入ってるバッグってこれでいいのかな?」



「あ、あぁ助かるよ。保健室の薬じゃなくて自前の薬飲みたいって言うからさ」



「はい、じゃあ確かに渡したからね。とりあえずボクは教室に行ってるんだよ」



「あ、あの…助かりましたわ。本当に、感謝いたしますの」



「薬もってきたくらいでおおげさなんだよ。感謝してるなら今後ともおとちゃんとは仲良くしてね♪」



 そういうとハニーは今来た廊下を機嫌よさそうに歩き出すと、一度振り返りこんなことを言い残していった。。



「あ、そうだ。言い忘れたけど結局御伽さんの席は一つ隣にズレて、おとちゃんの隣は白雪さんになったからねー」



「し、仕方ありませんが了解ですわ」



「よかったのか?席譲りたくなかったんだろ?」



「…本当は嫌ですけれどこんな状態ですし大事の前の小事というやつですわ」



 まぁ今はそんな事考えてる余裕なんかないってことだろう。男がズボンでノーパンなのとはわけが違うからなぁ。



「ところで…乙姫さんあなたわたくしの状況を舞華さんに説明しなかったんですの?」



 嬉しいような少し怒っているような複雑な表情で有栖が呟く。



「そりゃ余計な事いう必要ないだろ?要はこのバッグがここまで無事に運び出せればよかったんだからさ」



「…何から何まで、本当にありがとう。わたくし本当になんとお礼を言っていいか…」



 いや、その感謝は少し心苦しい。ある意味俺のせいでもあるしなぁ。



 その後、一応まだ腹痛が完全に回復しているのかわからないので念のために有栖を保健室へと連れていき、今日のところは早退するように勧めた。

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