第23話 バケモノとデパート





 あれから少し後、やや遅い時間だが、私達は駅前のデパートに来ていた。


 所謂、放課後デートというやつである。


 詩を真ん中にして、三人手を繋ぐ。


 円が渋い顔をするものの、私はそこに家族の姿を視たような気がして――。



 ――いえ、そんな事はなかったわね。



 目の前のショウウインドウのガラスには、醜い魂の持ち主が写っていた。


 異形のバケモノ、人の女の為りをして人を喰らう歪な――。



「火澄?」「お姉ちゃん?」



「――いえ、なんでもないわ」



 咄嗟に笑って繕う。


 二人の視線が刺さるが、でも私ではなくて。



「……ここかな?」



 円は不敵に笑い。


 詩も負けじと敵意に満ちた笑顔を向ける。



「……うん、ココでいいよ!」



「二人ともどうしたの。さっきから変よ?」



 ――正確には出会った当初からだけど……。



 ともかく妙な居心地の悪さを解決するため言葉を捜すが、悩んでいる間に二人に手を引かれ目の前の店に入ってしまう。


 扉を潜ると、そこは洋服売り場だった。


 それも陶磁器人形の着ている服の様に、ひらひらとした布がふんだんに使われたものばかりの物である。



「火澄に――」



「――どっちが似合う服、持って来るか――」



「――勝負!」「――しょうぶ!」



 ――どういうこと?



 未だ事情の飲み込めぬ私を他所に、二人は探索を開始する。


 立ち尽くす私は、五分も断たず着せ替え人形になった。


 外国の御伽噺の西洋の姫みたいな服や、昔見たような和洋組み合わせた奇妙な服など。



 様々な服を着ては言われるがままに格好を付け、すぐ脱いでは次の服へ。


 私の顔色で何かを決めていたらしい二人は、気迫の籠った顔で勝敗の判定を迫った。


 片やふわふわした布、西洋の闇色を詰め込んだごすろりとかいう代物、片や藍色の花柄の和服にふりふりの布を付けた、わごすという服。


 どちらとも私の好みを射すぎた選択で、疑問の目を向ける。



「えーと、その、怒らないで欲しいんだけど。火澄、昔っからフリル沢山のお姫様なヌイグルミ、密かに買い集めてたでしょう」



「うっ、くぅ……」



 ――知られていた! 



 アレはごすろりと言うのだったかとか、どうとっちめようか、頭を横切ったがともかく次は詩。視線をむけると――



「――ねえ、覚えていないの?」





『ここから■■たら、二人で一緒に、■■の、あの綺麗な■色の布でお■いの■■■――』



 掛け替えの無い■と交わした、大切な大切な――。





「………………こっちがいい」



 ――大切な約束が



 何かに突き動かされるように、ふらふらと和服を選ぶ。



「うっし! ビクトリー!」



 詩は両手を挙げて、勝ち鬨をあげる。



「……そんな、負けた?」



 円は、がっくりと膝をつく。



「えっと、その、ね。円のも良かったのだけど――」



 何故か素直に理由を話せず、私はあわあわとフォローを入れようするが。



「ふっ、そんなドッチつかずの格好だから、負けたのよ! 円、男として失格ね」



「くっそー! ちょっと待っててよ!」



 よほど悔しかったのか円は安い挑発を受けて、何処かへ去っていった。


 それを見てふんぞり返った詩は、



「ねえ火澄お姉ちゃん。あんな男放っておいて、あたしと付き合わない?」



 と私の手を取り、上目遣いでおねだりを始める。



 ――円を追いかけたいのに。



 何故か振り払えないその手、温もりがとても暖かくて。



 触れているうちに、もっと貪欲にその体温を求めようと――。



「――詩、おイタはそこまでだ! 火澄には触れさせないよ」



 男の格好をした円が現れ、吃驚し、手を離す。



 私が何とも言えない気持ちになっている横で、円と詩は再び火花を散らし始めるが。



 しかし、ぐーと盛大に詩のお腹がなり中断する。



 ――この子は、何が食べたいのかしら?



 直接聞くのが面倒で、力を使い心を――。



「――どういう事」



 思わぬ事実に声を荒げた。



「お姉ちゃん?」



 きょとんとこちらを見る詩。



「貴女、何者なの」



 彼女の心は、綺麗で見えなかった。


 そう、まるで円の様に。こんなの二人もいて良いわけが無い。



 何かが汚されたような気がして、ちからを使って威圧する。


 とたん詩の表情は大人び、寧ろ憎しみすら感じられる眼光と放ち。



「ふん、相変わらずそういうトコ鋭いのね――狸芽!」



 私が行動するより早く、壮年の男性が現れ詩を抱きかかえる。



「シーユー、アゲインってやつだ火澄のお嬢」



「べーっだ!」



 謎の男に抱きかかえられた彼女は、スカートポケットから小さな玉を取りだし地面に叩きつけ。



「火澄!」



 目が眩むほどの閃光が、辺りを照らした。



 ――いない?



 円の腕の中で安全を確認した後、彼らがいた後に可愛らしい便箋が置いてあるのを発見し拾いに行く。



「……」



「何て書いてあるんだ?」



「……いつきの園にて待つ」



 ――市の西部にある寂れた遊園地だけど。



 問題は其処じゃない。


 いつきの園は、遠い昔に起こった災害で穢れた大地を鎮めるため作られた神殿であるということだ。



 私は円を見る。円も私を見て頷き、いつきの園へと急いだ。 




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