もしもあやめが男なら【4】
「君たちかわいいね~俺と回らなーい?」
「えー?」
「どうしようかなー」
同級生の沢渡に誘われて花火大会会場に向かった俺は、沢渡が待ち合わせ場所でナンパしてるのを見かけたのでもう帰りたくなった。
あいつホント軽いな。だから彼女が出来ないんだよ。
「あれー? 田端ー?」
「田端一人で来たのー?」
このまま帰ろうかなと悩んでいると同じクラスのギャル二人に声を掛けられた。おぉ浴衣姿がとても妖艶で眼福です。
ギャルギャルしい子達なので始めは敬遠してたが、この子達は気性がさっぱりしていて話しやすいとわかったのは最近のことである。
「染川に井上。違うよ…沢渡と回る約束してたけど見ての通り沢渡がナンパしてるから帰ろうかなと思って」
「沢渡歪みねぇな」
「あたしらと回るー?」
「いや、染川の彼氏に悪いし、やめとく」
いらぬ火の粉は浴びたくないから彼氏持ちと一緒に行動するのは避けたいの。
そんなやり取りしてる間に沢渡がナンパ失敗していたので、ギャル二人に別れを告げると奴に声を掛けた。
「沢渡」
「あっちゃーんフラれたー」
「軟派だからお前は彼女が出来ないんだよ。おい抱きつくな」
俺はノーマルだ。何が悲しくて男に抱きつかれないといけないんだよ。
俺に縋り付いてくる沢渡の後頭部をバシンと叩いておいて、祭りの屋台に行くぞと促したのである。
「おっちゃんもう一回!」
「沢渡、もう三千円使ってるからもうやめろよ」
「後もう一回!」
射的ゲームでどうしても欲しいものがあるらしい沢渡は先程からずっとこれに金を費やしていた。
ぶっちゃけ三千円あれば買えるものなのに…
俺は呆れた眼差しを沢渡に向け、コイツの気が済むまで散財させておこうと諦めた。
ただ待っているだけなのも暇なのでなにか食うかなと近場の屋台を目で探していると、自分の背後で女のヒステリックな怒鳴り声が聞こえてきたので俺は振り返った。
「大志!? 何してるのっ!?」
「! 真優」
「なんでその子といるの!? どうして抱き合ってるの? 私いっぱい探したのに! 電話も何度もしたのに! 」
「お、おい真優これは誤解で」
「いやっ! 触らないでっ! 大志のバカっ」
……うん、幼馴染の大志とその彼女の痴話喧嘩か。
コイツらよく痴話喧嘩してるからなぁ。
ヤキモチ妬き彼女の真優ちゃんと精悍なイケメンの大志。
彼女のアタックで二人は付き合うようになったけども、彼女は大志が好きすぎて近寄る女に嫉妬しまくるという嫉妬深い女の子なのだ。
彼女いない俺からしたら嫉妬してくれる彼女は羨ましく見えるんだけど、回数重ねると重く感じちゃうのかもしんないね。
大志がたまに愚痴ってくることがあるし。
そして痴話喧嘩中のカップルの後ろでオロオロする美少女を見つけた俺は遠い目をした。
現場を見ていないけど、この状況から判断すると浮気相手と思われたのかね。
本橋は鼻緒がとれた下駄を持って困った顔をしていた。
仕方なく俺は斜めがけバッグから財布を出して小銭入れから五円玉を取り出し、同じくバッグに入っていたハンカチを細く引き裂いて本橋に声かけた。
「本橋、それ貸して」
「! あっくん」
俺がここにいることに気づいていなかった本橋は目を丸くしていたが、気にせずに本橋の手から下駄を取り上げて応急処置をしてやった。
なんかで何処かで誰かがこうして直してるの見たんだよね。…多分これで大丈夫なはず。
「ほら」
「あっくん下駄直せるんだね! ありがとう」
「応急処置だよ。ちゃんとした所で直せよ」
「うん!」
頬を赤らめて喜ぶ本橋。あらかわいい。
喜んでくれたなら何よりだ。
本橋が下駄を履いたのを確認したので俺は沢渡の所に戻ろうとしたのだが、俺の腕に本橋が抱きついてきた。
だから彼氏でもない男にそんな事するのはやめなさいってば!
「おい! 本橋離れろって」
「ねぇあっくん! もうすぐ花火が上がるから見に行こ?」
「あ? …ていうか俺連れがいるんだけど」
「沢渡くんでしょ? 沢渡君あそこでナンパしてるよ? 邪魔しちゃ悪いし」
本橋に言われたとおり、沢渡のアホは射的をしながら女子大生っぽいお姉さんにヘラヘラ話しかけていた。
あいつホントにダメだな。
「早く早く! 花火始まっちゃうよ」
「引っ張るなって」
ヒュー…ドーン! ドドーン!
バチバチ…
本橋に引っ張られるまま花火を見に行ったけども、花火はやっぱりいいな。
地元の花火大会だから小規模だけど、それでもキレイだ。
バラバラと火花が落下し、また新たな花火が打ち上がる。
夏は暑いし蝉とかがうるさいけど、日が長かったり、こうして綺麗な花火が見れるから悪い事ばかりじゃないよな。
今度友達を誘って海で花火するのもいいかもしれない。手持ちの花火も結構楽しいし。
後で連絡してみよ。
「あっくん…」
「なに、暑い」
花火が打ち上がってる最中に本橋がぴっとりくっついてきて暑苦しかったけども花火大会に来てよかったと思った。
本橋、暑いから恋人繋ぎすんの止めて。
俺の手めっちゃ汗ばんでるから。
振り払うのもあれなんでやりたいようにさせておいたけど、フツメンにくっついて何が楽しいんだこいつ。
乙女ゲームのヒロインなのになんでモブに好意向けてくるんだか。マジで謎。
それはそうとクライマックスの花火が夜空に打ち上がり、歓声が上がる。
次々に花火が打ち上がり、夜空を彩る。色とりどりの花火に俺は見惚れていた。
「…綺麗だな」
「え…」
「花火が」
「…あっくんの馬鹿!」
「イテェ!」
なんか頬肉つねられた。なんで?
地味に痛いんですけど。
沢渡から電話が来てたから沢渡と合流しようと思ったんだけど、本橋が離れない。
「離れろって。歩きにくいだろ」
「やだ! もっと一緒にいたいんだもん!」
別に置いてくわけじゃないって説明してるけど、しがみついて離れない。お前は子泣き爺か。
花火を観に来た人は帰宅したり、出店の並んでる通りに向かったりしてるというのに、俺は子泣きヒロインによって足止めを食らっていた。
「お二人さーん! こっち向いて!」
「え?」
パシャリ
そう声をかけられたので振り返ると染川と井上に写真撮られた。
いつからそこにいたのおたくら。
「…おい、それをどうするつもりだお前ら」
「えー? 夏の思い出を激写しただけじゃなーい」
「グループで送ってあげるねー」
「やめてください」
あらぬ誤解を招くでしょ!
俺はモブなの! ヒロインには攻略対象がいるんだってば!
ただでさえ肩身が狭いと言うのに何でそんな事するの!?
「井上さん、染川さんその写真私に送ってくれる?」
「ていうかちゃんとしたやつ撮ってあげるよ?」
「ほら田端そこに並びなさい」
「えぇ…」
ギャル二人に脅さ…指示されて本橋とツーショット写真撮る羽目になった。
ギャル怖い。強引なんだもの。
俺ちょっと引きつった笑みになってたんだけど本橋は満足そうに笑っている。
「えへへ、待ち受けにしちゃお」
「じゃ俺はこれで」
もうやだ女子怖い。
早いところ沢渡と合流して帰ろ…
「ちょっとー田端ー? 女子一人で帰すつもりー?」
「そうよ送ってあげなさいよ」
「いやでも沢渡が」
俺そもそも本橋と約束してなかったしね。先約があるのよ。
「はぁ?」
「あいつは男だから一人でも良いでしょうよ。そんなこともわからないのあんた」
「すいません」
なんで俺脅されてるの?
沢渡に先に帰ることを連絡し、ギャルに監視…見送られながら俺は本橋を家まで送って行った。
本橋が手を離さないから手をつないで帰ってたけど別になにもないから。
二学期になったらなにか変わるのか? 乙女ゲームのイベントが沢山あった気がする。
…前世の自分がどんな人間なのか、男か女かっていうことすら忘れているのにゲームのことは覚えてるってどういうことなんだろうな。
ただ一つ言えるのは自分がゲームに全く関与しない地味で根暗なモブ姉ポジションだってことだ。
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淳は自分がモブだと強く意識しています。
攻略対象と結ばれるに決まっていると思っているからヒロインに塩対応。
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