もしもあやめが男なら【2】
「あー早く来年の誕生日にならないかなー」
「なんでだよ」
「18になるからだよ」
俺はゲームが好きだ。
動画サイトでゲーム実況見るのも好きで、最近はホラーゲームにハマっている。
だけど年齢制限がかかってるものは流石に手が出せない。エロいわけじゃないんだから15禁とかにしてほしいよ全く。
以前からホッケーマスクを被った醜い殺人鬼のゲームが気になって仕方がない。その名も1○日の金曜日…つまりジェイ○ンだ。
殺人鬼になって大量殺戮を行うか、生存者になって殺人鬼から逃げるか…そのホラーゲームを出来るまで俺は後一年耐えなくてはならない。ていうかその前にその情熱が消え去ってしまうかもしれないけど。
勘違いしないでほしいが、自分にはサイコパスの気はない。そこんところ大事だから宜しく。
「13金のゲームがしたい」
「18禁!? あっくんのスケベ!!」
「はぁ!?」
同じクラスの幼馴染もとい攻略対象の山浦大志にそう返事してたら後ろから本橋がわけのわからないことを言ってきた。
誰が18禁なんて言いましたか。
「お前ゲーム雑食だよな。こないだまでスマホのRPGゲームにはまってたじゃん」
「課金しないとレベルアップしないから無謀なことはやめた」
「それよりバスケしようぜ。お前、筋はいいのにもったいねーよ」
「あほ。俺そんなに背高くねーし。ていうかヤダ。しんどいのやだ。帰宅部でいいよ俺」
188の長身である大志と違って俺は175の平均的な身長である。もう伸びる気配もない。父さんもそんなに身長高いわけじゃないしこれ以上伸びないだろう。
身長が物を言うスポーツなんて不向きだし、好きというわけでもないからね。
幼馴染の勧誘を流し、ゲーム雑誌を眺めながら俺は夏休みにバイトでもしてゲーム資金貯めようかなとぼんやり考えていたのだが、大声ではしゃいだ様子の沢渡に呼ばれた。
「あっちゃーん! 隣のクラスの女の子が呼んでるよー!!」
「…は?」
隣のクラスの女子?
知り合いなんていないんだけどな。こちとら彼女いない歴年齢のフツメンなんだから。
ついてこようとする本橋に
あ、この子乙女ゲームのライバル役じゃなかったっけ?
「急にごめんね。田端君」
「あぁうん」
「私、隣のクラスの三栗谷っていうんだけど、田端君、陸上部に入らない?」
「入らない」
陸上部所属のスポーツ少女で、攻略対象・養護教諭ルートのライバル役だ。
いきなりの勧誘に俺ははっきりお断りした。
以前勧誘を曖昧に濁していたら入部一歩手前までいったことがあるのでこういう事ははっきりしたほうがいいと学んだのだ。
「えぇ!? そんなぁ、田端君足速いのに勿体無いよ!」
「ごめんごめん俺帰宅するのに忙しいからさ」
「何言ってんの!?」
合宿楽しいよ! 記録伸びると嬉しいよ! 部員皆仲いいんだよ! とアピールされたが俺はもう一度はっきり断った。
「俺、帰宅部なんで」
「そんなキメ顔で言うセリフじゃないよ?」
私諦めないからね!! と三栗谷は捨て台詞を残して立ち去っていた。
うちの高校って陸上部そんなに強くないけど、三栗谷は確か去年県大会で上位に食い込んだらしい。何かで表彰されてたし。
なんで女子陸上部員が俺を勧誘すんのかねしかし。
席に戻って読みかけの雑誌を読もうとしていると、ステイをそのまま守っていた本橋が俺に声を掛けてきた。
「あっくん、夏休み何するの?」
「んーバイト? ガッツリ入ろうかなーと思ってる」
「えぇーデートしようよ」
「やめて~俺これ以上敵作りたくないのー」
7月になっても俺に謎のアタックをしてくる本橋。クラスの男子は慣れもあってか当初の親の仇を見る目はなくなったけども、他のクラスはそうでもない。こんな美少女と外なんかに一緒に出た日には俺、視線で殺されちゃうじゃないの。
本橋の誘いを断った俺は、期末テストも終わったし、ぼちぼちバイトでも探そうかなとスマホを触っていると
「あっくんのいけず!」
「いてぇ!」
本橋に脇腹をつねられた。
止めて下さい暴力反対。
☆★☆
成績を落とすとゲームを没収されるので(経験済)俺は勉強に関してはガチで頑張る。こう見えても努力家なのよ俺。
なので今回もいい点数を維持できた。ついでにバイトの許可も学業優先ということで許可をなんとかもぎ取った。
一方弟の和真は今まで勉強らしい勉強をせずとも出来る子だったので今回もそれをせずに、下の中まで成績が落ちていた。
一応テスト前に勉強しろよとは言ったんだけどね。中学の時に比べて科目も増えたし、うち進学校だからマジで勉強しないと厳しいって。
だけどあいつは何もしなかった。
それを親に注意された和真は今までにないくらい落ち込んでいた。
経緯は省くけど結論を言うとグレた。
夜遊びによくわからないお友達との付き合い。たまに弟の服からタバコの香りがするので捕まえて怒ったりしたけど反抗されてしまう。
遅くに来た反抗期かとお兄ちゃんはびっくりしたぞ!
いや、知ってたんだけどね。グレること。
俺の言うこともだけど親の言うことにも無視してキレてなんかねー。
あまりにひどい時は俺も怒鳴り声をあげてしまうんだけども和真は向き合う気配もなく。
どうしたもんかなと考えあぐねていた。
「母さん」
「なあに?」
「父さんの洗濯物と俺の洗濯物、一緒に洗わないで」
「敦!?」
久々に反抗期らしい発言をしてみると父さんがすごいショックを受けていた。
「まぁ和真もこんな感じだよ。俺ももうちょっと和真と話す努力するからあんまり心配しないで」
「敦…」
「今まであいつ何もしなくても出来たから初めて挫折したんでしょ」
母さんが目に見えて落ち込んでいたからちょっとしたお茶目で年頃の娘がいいそうなセリフを言ってみたんだけどあまり和まなかったらしい。
父さんが涙目で俺を見てくる。
冗談だってば。
そんなこんなで和真の反抗期は継続中だ。
それはそうと無事夏休みのバイトも決まり、終業式を迎え、いよいよ夏休み本番になった。
「…あれ、副委員長ではないですか」
「…田端?」
「学校帰りですかー?」
「いや予備校帰りだ。受験対策で通ってるんだ」
「ああそうか。受験生ですもんね」
バイトに行く途中で風紀副委員長に遭遇したので俺は声を掛けてみた。
夏休みなのに制服姿ってことは部活とか委員会かなと思ったら予備校とな。受験生は休んでられないね。
「他人事みたいな言い方してるが…お前だって来年受験だろうが」
耳の痛いことを言われたので俺は目を逸らした。
本当のことなんだけどまだ現実は見たくない。知らないったら知らない。
目をそらす俺を呆れた目で見てくる副委員長は肩をすくめて尋ねてきた。
「お前は何してるんだ?」
「バイトですよ。本当は今日休みだったんですけど、夕方欠員出たらしくてピンチヒッターで」
「そうか。お疲れさん」
「あ、これあげますよ。20%割引なるんで。ウチ平日の空いてる時間帯に勉強しに来る人結構いますよ。それ3人分まで割引できますから」
従業員が貰える割引券を副委員長にたくさんあるから一枚あげると彼はお礼を言って受け取っていた。
「そんじゃー」
「あ。田端、その…お前の弟のことだが」
副委員長が言いにくそうにして何かを言おうとしていたが、俺はすぐに何が言いたいのか分かった。
和真は服装がいきなり派手になったし、風紀委員として目をつけていたのかもしれない。今のあいつの髪の毛なんてアッシュだぞ。なまじイケメンだから似合ってるんだよこれが。
俺が染めたら絶対に浮くこと確実なのに。遺伝子の馬鹿。
「…あー…もしかして良くない輩と付き合ってる件ですか?」
「知っていたか」
「あまりにも目に余る行動してるんで俺も親も注意してるんですけど、あいつ聞く耳持たなくって。話そうとしてもシカトこくんですよね」
「…そうか」
副委員長はそれならこっちに言えることはなにもないと判断したのか口を閉ざし、「大変だろうが…なんとか粘ってくれ」と俺に言い残すと帰って行った。
頑張りたいんだけどねー。あっちが対話に応じてくれないから…何をどうして欲しいのかさえわからん。
しばらく弟のことを考えてもやもやしていたが、バイトはちゃんとしないといけないので頭を切り替えて尊い労働をしたのである。
「おーい田端ー! 上がっていいぞー」
「はーい! お先失礼しま~っす!」
俺が選んだバイトはファミレスだ。
色々候補はあったんだけど、ここが一番安定してるかなと思って。近いし、週5入れるの確実だし、まかないあるし(重要)
まだ明るい20時ごろ、俺はのんびり帰宅をしていた。
なんか来月末の花火大会、本橋に誘われたけど俺、沢渡にも先に誘われたんだよなぁ。だから断ったんだけど。
ていうか男二人で花火大会行って何が楽しいの。沢渡よく見たらイケメンなんだからすぐに彼女作れるだろ。頑張れよ。
帰ったらホラーゲーム実況動画でも見ようかなと考えながら近道の裏通りを歩いていると「いやっ離して!!」と何処からか女性の悲鳴が聞こえた。
辺りを見渡したが人影はない。気になってしまったのでその声が聞こえる方に歩を進めると、いた。
「…本橋?」
「…! あっくん! 助けて!!」
本橋がガラの悪い兄ちゃん方に捕まっていた。
何してんだコイツ。この辺は人通りも少ないし女子が歩くには危険だろうに。
「すいませんその子離してもらえます?」
「あー? ガキは引っ込んでろ」
対話での平和的解決は無理なようだ。
俺、喧嘩できないんだよなぁ。人殴ったのは子供の時の喧嘩の時しか無いし。
でもここで見捨てるのも目覚めが悪いので彼らにサッと近づいて、力技で本橋を引っ張り出した。
本橋が悲鳴を上げていたので痛かったかもしれないが致し方ない。
「逃げるぞ!」
「えぇ!?」
本橋の手を引いて俺は走り出した。
ダサいとか言うな。俺は腕っぷしに自信がないんだよ!
「テメ…! まて!」
待てと言われて待つ馬鹿がどこにいますか!
「あっく、足痛っ」
「我慢しろ!」
恨むならお前の危機管理能力を恨みなさい!!
角を曲がって曲がって逃走した俺たち。
なんとか不良を撒いて人通りの多い通りに出ると俺は背後で苦しそうに息を切らしている本橋を振り返った。
「このバカタレ! 女子が遅くにあんな人気のない場所通るな!」
「だ、だって」
「だってじゃない! 自分の身を守れないんだから多少手間でもこの大通りを通れ!」
何かあって困るのは女だろうが。日本はもうそんなに安全な国じゃないんだからな。自分の身を守るために出来ることはするべきである。
俺は言い聞かせるように本橋に注意した。
本橋は俯いてしまったので、反省したかなと思った俺は駅まで送ると声を掛けた。
すると何を思ったのか本橋は俺の胸に抱きついてきおった。
おほう、女子の体柔らかいでござる…
…じゃない! 俺は変態か。
「怖かった…! あっくん、助けてくれてありがとう…!」
「…あ、いや、ていうかお前は反省しろよ」
「うんっ」
本橋はしばらく俺から離れてくれなかった。
ホントやめて。俺、健康な男子なんだから。
変な気分になりそうだったので本橋の肩を掴んで引き剥がしておいた。
男にこういう事しないほうがいいと注意したら「あっくんだからいいの」とまた訳のわからないことを言ってきた。
あっくんの匂い好き…と言って再度抱きついてくる本橋。人によっては変態発言に受け止められる発言をしてきた。
バイト後だから汗臭いに決まってるのにコイツの嗅覚大丈夫か?
俺ちょっとそれには引いたわ。
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