眠る町を歩く

鈴木かくひと

第1話

朝の眠る町を歩く。


歩道には人がおらず、国道には車が走っていない。


人家には明かりがついておらず、空には朝日はまだ昇らない。


時刻は午前六時。季節は冬。


吐く息は目の前を白く舞い、吸う息は鼻孔だけでなく身体の芯まで冷たくする。


ニット帽を被っているのに耳が痛く、手袋をしているのに指先が痛い。


歩く動きを大きくすれば暖まるかもしれない、と思った。


腕を大きく振って、足も歩幅ひろく、大げさに。


どうせ誰も見ちゃいない。


いっちに、いっちに、小さくかけ声をかけてみる。自分の声しか響かない。


さすがに気恥ずかしくなり止めると、今度は靴が地面を踏む音がする。


ジャリ、ジャリ、ジャリ。


歩道の砂利を踏む、その音だけが響くなか、無心で歩みを進めてる。


気づけば町の果てに着く。踵を返し、来た道を戻る。


すると歩道の向こうから人が歩いてくるのが目に入る。


ジャージ姿のおじさん。ぺこりと会釈すると、ぺこりと会釈を返してくれた。


ブロロロロロとエンジン音。国道に車が一台走っていく。


人家にはチラホラと明かりが付き、聞こえてくる生活音。


空には朝日が昇り始め、ほんの少しの暖かさを感じながら


起きようとしている町を歩く。

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眠る町を歩く 鈴木かくひと @yomu_kaku

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