キッチン

フライパンとタマネギが飛び交うキッチン。


その片すみで祖母がタマゴを必死に溶いている。


目の前をナスやホタテが掠める真っ只中、必死にステーキにかじりつこうとする父。


しかし、特大のパンプキンパイの登場に思わず食器棚に身を隠す。


小柄な兄は慌てて流し台の下に潜り込むと息を潜めて好機を待つ。


隙を見て冷蔵庫からよく冷えたマヨネーズを引っ張り出す私。


一進一退の攻防が続く。


パンプキンパイを振りかぶる母がエプロンの肩紐を気にした瞬間、

兄の投げたシイタケが母のふとももの辺りに直撃する。


呻き声をあげると、母はゆっくりとその場に倒れ込む。


調子づいた兄はさらに父を倒しに逆サイドへと向かう。


父の怒号が響いたと思うと、マシンガンのように梅干しが飛んでくる。


それらを紙一重で交わしながら、兄は電子レンジの元へとたどり着く。


すかさずソーセージを投げ込むと、加熱する。


そんな中、私が放ったマヨネーズが緩やかな放物線を描いて父の頭上に降り注ぐ。


鮮やかなコンビプレイの前に父は無残にも敗れ去る。


これによりこの戦いはもはや兄と私との一騎打ちとなる。


お互いの手の内を知りつくしあうふたりだけに膠着状態が続き、持久戦の様相を呈した。


ソーセージがチンされる前に勝負を決めたいと、思い切って飛び出した私だが、急に何物かに足をとられた。


もんどりうって倒れた私の回りには、兄の仕掛けた無数の大豆が転がっていた。


勝ち誇った兄の笑い声がキッチンに響く。


誰もが兄の勝利を確信したそのとき、部屋中が黄色に染まった。


慌てて振り返る私達、特大のステンレス製のボウルを持った祖母の姿がそこにあった。


悔しげな唸りと共に崩れる私達を残し、祖母はひとりテーブルに広がる御馳走を頬張る。

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