才能なんて必要ない

クレハ

第1話

【才能なんて必要ない】


一話


未来を切り開くのは自分自身だ!なんて台詞は飾りである。結局は努力したって1パーセントの才能がなければどうにもならない。

「もうだめだ……」

ここは能力者の集う才能学園。俺にもちょっとした能力が使える。でも……それは超能力とかそういう凄い類のものでは無い。

ここでは力が全てだ。成績上位者ってのは大体がチートレベルの能力を持ってる。でも、俺にはそんな力はない。

俺はよく知ってる。強いものが俺のような弱者を食い、才能あるものが力ないものを統治し支配する。

「どうしたの?」

放課後に廊下に張り出された成績表の前で一人、呆然と俯いてると、話しかけてきた奴がいた。

顔を上げると、大きな明るめのブラウンの瞳に、桜色の髪をおろした小学生にも見えるちょっとバカっぽいが可愛げな少女がいた。

「……お前も俺と一緒ならわかるだろ?成績最下位タイの小桜まつり」

「あはは……ビリか。でも、あと二年あるんだし、落ち込んでなんかられないよね!」

見た目どおり馬鹿らしい。ここでの最下位ってのは何者よりも劣る証であり、それと共に成績最下位の俺は、教師や成績上位者(トップランカー)の雑用やらを聞かないといけない。

そんなの嫌だが逆らうには力がいる。だからもっと強くならないと……

とりあえず、寮に帰ったらいつもより多く自主練しとかないとな。

「どこいくの?」

「あ?寮に帰るんだよ」

「その前にちょっと手合わせしない?」

「なんで?」

「実践の方が練習になるかなぁって!」

馬鹿っぽく見えてなかなか頭が冴えるらしい。

能力だって近いだろうし、このくらいなら問題ないだろう。

「廊下でもいいのか?」

「問題ないでしょ!」

「じゃ、このコインが地面に落ちたら開始ってことで」

親指でコインを弾くとそれは上に上がり自由落下を始めた。

こいつなどんな能力だ?対戦したことはあるはずだが、覚えてない。その程度ってことなのか?

チャリーンという鉄の音が開戦の合図となり、その刹那、頬をナイフが掠めた。

なんとか躱したとはいえ、なかなかの腕だ。これで俺と互角だってのか。

「あははおしい!つぎいくよ!」

笑ってナイフの腹を小桜は舐めた。

視界がどんどんと薄くなっていく。

これは……眠い。

「動きが鈍いね。どうしたのかなぁ?」

く、くそ……さっきのナイフに睡眠剤でも塗られてたか?そういえばこいつの能力って唾液に睡眠効果あるとかそんなやつだったか?

ゆ、油断した。あれくらいなら躱しきれたはずなのに……

「……降参だ。だからこれ、解いて……くれ……」

「ごめんね。私、まだ能力調整うまく出来ないんだ。だから、九時間ほど眠っててね」

「な、なんてこった……」

俺の意識はそこで途切れた。


*****


俺が目を覚ますと、そこには白い見知らぬ天井があり、体を起こそうとをすると、腕になにかむにょっとしたものが絡みついてきた。

「な、なんだ?」

「ん〜逃げちゃダメ……」

桜色の髪を咥えながら奴は俺の腕を抱き枕にして寝ていた。

「嘘だろおい……」

ゴクリと生唾を飲み、腕をどかそうとすると間抜けな顔が月光に晒され、白いシャツの胸元からちらりとピンクのが見えた。小さいくせに生意気な……クソ。視線が離せねえじゃねえか。

「……んぁ?起きたの?」

「あ、あぁ……」

もう片手で自分の頬をぶん殴って視線をギリギリで逸らした。

あっぶねぇ……なんという能力だ。女ってのは産まれ持ってあんな凶器を。怖いぜ……

「あれ?私も寝てたの?」

「そ、そうみたいだな……」

なんでこいつは胸元直さねえんだよ。このままじゃ寝違えちまうだろうに。

「あっ!ご、ごめん……」

奴は離さなかった俺の右腕を解放し、部屋のドアまで逃げていった。

「ま、まあいいさ。というかここは何処なんだ?」

辺りに目をやると、ベットには変なぬいぐるみが数個に、テレビ台にもピンクのくまのぬいぐるみ。小さな本棚には少女漫画の類のものが三段ほどに時計もピアノっぽいデザインのものでカーテンももこもこしてる。一言で言えばファンシーな部屋だ。

「私の部屋だよ!ちなみに!男の子上げるのは初めてなんだよ!」

「そんなこと聞いてねえよ……」

「そう?」

「そうだ!」

少し俺はイラつきながらもそう答えた。

「もしかして、嫌だった?」

チラッとやつを見やると、暗くてよくわからなかった。でも、これで安心だ。見えないしな色々と!

「別にそういう訳じゃないけど」

「ならよかった!これから毎日稽古しない?私のためにもなるし、松岡くんのためにもなると思うよ!」

「そう……だな」

「というか、俺寮帰っていいか?」

「え?もう夜中の三時だし入れないんじゃない?」

時計を見やると小桜の言う通り三時だった。

「……うそん」

寮に帰れないとなると、ここで泊まるしかなくなる。多分ここは女子寮だと思う。この学校は完全寮制だし……ってことはかなりまずいことになった。

女子寮は男子禁制で破ったら、国内最強と呼ばれる校長からの強烈なお仕置きがあるらしい。それだけは避けないと……

「なんか目が覚めちゃった!あ、そうだ。お菓子食べる?」

「ああ……うん」

「はい紅茶!」

「ありがとう……」

電気がつき、より一層ピンク色のものが目につくが、そんなことはどうでもいい。

紅茶を啜りながら小桜の様子を伺うが、にっこりと笑うだけでマドレーヌやらが彼女の口の中に吸い込まれ、眩しいほどの笑顔。

「……美味いか?」

「うんっ!」

なんか、実家の猫を思い出すな。ご飯あげた時の嬉しそうな顔によく似てる。

「……食べないの?」

「むしろ俺のために食べてくれ」

「あれ?甘いのダメだった?」

「いや、そういうわけじゃないけどな」

「へーんなの!」

彼女は笑ってパクパクと食べていき、みるみるとそのひと袋あったマドレーヌは無くなっていった。

「よく食べるな」

「甘いものは別腹でしょ!」

「そういうことじゃないと思うがな……」

「あ、そうだ。お風呂入ってないんだった!入ってくるね!」

そういうと、小桜はすぐ横の部屋に入っていった。シャワーの音が引き戸越しにだが、聞こえてくる。

あの扉の奥には小桜が……ゴクリ。

って、違うだろ!ただ、風呂に入ってるだけ。全然別に特になんでもない。日常に溢れてるもんだろ。行動としては!冷静になれ。

というか、あいつには恥とかないのか?人が寝てるベットで寝てるわ異性いるのに堂々と風呂入るわ……

一日くらいは風呂に入らなくてもいいだろう。さっさと寝よう。うるさいのが風呂からあがる前に。

床で眠りにつこうとするが、全く眠れねえ。

こうなれば使いたくはなかったが、やるしかねえ。

俺は小桜の使っていたマグカップを手に取ると口をつけたその瞬間に、その場に倒れ込んだ。

小桜まつり。唾液で睡眠とはいい才能じゃねえか。

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