蛇神ヨルムの逆襲(仮)

@makura1217

第1話



冒険者という仕事は意外と大変である。


世の中、というか人間社会では信用というやつがものを言うために、勇者のせいで本体を封印され、趣味で作った美少年(推定17歳くらい白い髪、赤い瞳)の依り代は残念なことに何にも力を持たないために我は本当に苦労している。


「わーヨルムさんじゃないですか、今日も依頼を受けに来たんですか?」


可愛らしい受付嬢は笑顔で我に声をかける。最上級の笑顔とはこういうやつなんだろうと我も人間社会で学んだ。そのためか


「ちっ、あのやろう顔が整ってるからって調子に乗りやがって」


「おうとも、兄弟、みんなの癒したるミラちゃんとイチャイチャするのは万死に値するぜ、ここは教育せんとな」


「ふ、若者に世間を教えるのも先輩の役目だ」


「みんなしてボロ雑巾にするのは可哀想よ、新人をいじめるのはよくないと思うわ」


「おい、カマ野郎、こう考えるんだ。ボロ雑巾になったら無抵抗でやりたい放題って」


「まあ、素敵ね、私もその話のるわ」


そう不穏な会話が繰り広げられているのだ。


冒険者は大変なのである。


こんな大変な環境に身をゆだねることになったのにはわけがある。


そう、あれは半年以上前の話だ。涙なしでは語れぬ話だ。


我は、神代の時代から生きる大蛇にして、世界の名を冠する唯一にして至高の存在であった。


豊穣を授け、破壊を巻き起こす、古き名を持つ神と崇められてた過去もある偉大な存在として、三食昼寝付きの週1時間の労働に励む勤勉な神の一柱であった。


しかし、悲劇は突如とやってきた。


そう、勇者の襲撃である。


我は偉大なる存在故に、我調べの中でクソ野郎代表で、いつか絶対に下剋上してやるランキング一位たるクソ主神様から、千年ぐらい前に異界から侵略してきた魔王が使っていたゲート(異界とこの世界を繋ぐ扉)の鍵を守護しろ、戦争に三十年遅刻したからその罰だとのたまいやがり、厄介な仕事に従事していた。

我は一週間に一回この面倒な鍵がちゃんとあるかどうかの確認のために、起きるという仕事をしていた。

眠気と暖かい寝床と涙を飲みながら、あるかどうかの確認をするという苦行を一週間に一回するのである。いつか必ず復讐してやると心に誓い、仕事に向かう我はまさしく神の中の神であろう。

そして悲劇が我をどん底に投げ込んだあの日は唐突に、やってきた。


あの日は三年もサボっていた鍵の確認をやると心に決め寝床と別れを済ました日のことだった。


鍵を安置した神殿に依り代に向かわせたところ、守護獣の反応がなくなっていたのだ。


「不埒者たる侵入者がいる。それも我の力作たる守護獣を倒すほどの」


我はおそるおそる、隠れながら安置場所に近づくと五人組の人間がいたのだ。


「薄汚い盗人どもめ、我の住処に侵入するとは万死に値する」


我は激怒した。すぐさま、人間どもを抹殺するために、我自身の長く太い自慢の尻尾を操作し、人間どもを抹殺することに決めた。


壁から自慢の尻尾が人間どもを襲撃し、人間どもが悲鳴を上げるという未来を想像しながら尻尾を待っていたが早くも、30分が経っていた。


「おかしい、なぜ我の尻尾はあの薄汚い侵入者たちを襲撃せんのだ。なぜだ!」


地団駄を踏みながら怒りに震えていると「ふふふふふ、お困りのようっすねヨルム様」とどこかで聞いたことのある使えないくせに人一倍報酬を要求し不利とあらば裏切ることを厭わない我の中でリストラしたい代表のお調子者子分ナッツルーラーがいた。

人間社会に紛れ込んであざとい性悪な小僧の格好をし、しょうもない悪さをしていると風の噂で聞いていたが、背丈に似合わない大斧を背に抱えて薄汚い格好をしているとは、創造神に造られたという誇りすら揺らいでいるらしい悲しい奴だ。


「全部聞こえてるっすよ、ヨルム様」


「ナッツルーラー、我の心を読めるようになっただと?小癪な奴め」


「ヨルム様、ひどいっす。ひどい言い様っす、オロオロオロ」


「嘘泣きはやめよ、それでナッツルーラーお前は我の尻尾が惰性を貪っている訳を知っているのか?」


「ヨルム様の子分ナッツルーラーはヨルム様の心無い一言に傷ついたっす。ナッツルーラーは特別手当を貰わない限りは働きたくないっす。」


「小僧のくせにいい度胸だなナッツルーラー、我少々大人気なく本気出しちゃうぞ」


「冗談っすよ、ヨルム様、この不肖ヨルム様の一の子分ナッツルーラーのお茶目な悪ふざけっすよ、いやだーな、本気にしちゃー」


「それで、なぜ我のプリティーでキュートでチャーミングかつセクシーポイントの塊である尻尾は動かん?」


「ヨルム様、ヨルム様、ヨルム様の尻尾は凶悪なだけっすよ。それ何かの間違えっすよ」


「ナッッッツーーーーー貴様、主を称えんか主を、太鼓持ちにならぬ部下など我が手で処分してくれよう」


「申し訳ないっす、言葉を誤ったっすヨルム様、凶悪ではなく、ド凶悪で醜悪で、おぞましい尻尾の間違えだったす。申し訳ないっす。」


「きさまぁぁぁぁぁぁ」


「そんなことより、ヨルム様のプリティーでキュートでチャーミングかつセクシーポイントの塊である尻尾がなぜ動かないかっすよね?」


「貴様バカにしてるだろう?」


「バカにしてないっすよ、そんなことをするのは恐れ多いっすよ」


「本音は?」


「ええアホだと思っているっす!バカとは思ってないのでセーフっす」


「な訳あるかー、そこへなおれ!八つ裂きにしてくれる!」


「ヨルム様の偉大なる長き力ある尻尾、グレイトロングストロングテール様は」


「貴様、黒歴史を蒸し返すな、やめろ、心が疼く、悶えてしまう、暇すぎて暇で暇で過去に犯した過ちの数々が激流となって我の頭の中を回るではないか」


「ふふふふ、勝利っす!ブイっす!」


「許さんぞ、許さんぞナッツルーラーーーーー、うおおおお我怒りをその身で受けて滅ぶがいい」


「落ち着いてほしいっすヨルム様、まずいっす、本当にまずいっす謝るからお怒りを沈めて欲しいっす」





俺はアルト、神殿から古代の遺跡を発見したから調査してこいと使いパシリにされたしがない勇者だ。

今は戦士ロッド、野伏のグレッグ、神官アーニャ、魔法使いのエレンと旅をしている。


古代遺跡の調査というものはとても魅力的だ。なぜなら太古のロマンというやつを風で感じられるし、未知との遭遇は冒険しているという気持ちにさせられるからだ。


今回の調査はなかなか手強いボスはいたものの最深部までたどり着けたので大成功といえよう。


「これは古代の文字ね、魔術学院で習ったわ」


好奇心の強い魔法使いのエレンは壁画に夢中だ。


「なにが描いてあるんだ?エレン」


「解読してみるわ、ちょっとまって、世界は広いといえど世界を冠する蛇は一柱のみ、蛇の王オルムガンドは山を砕き地を拓き、我ら人に地を与えた神なり。」


「蛇の王?そういえば子供の頃におとぎ話で聞いたことがあるぜ」


「どんな話なのロッド」


「んーよくは覚えないけどよ、爺さんが言ってたのは天に轟くほど大きな大蛇が、居眠りをしてたら、神さまが怠け者の蛇に大層お怒りなさって、蛇を天罰を与え山に変えてしまったという話だ。」


「待て、いやな予感がする」


「どうしたのよ、グレッグ」


「神殿は封印のアーティファクトが必要になるかもしれないと言っていた。そして、この壁画には過去に信仰されていた古き神の名が刻まれている。そして蛇らしい蛇はこの遺跡の中で見てはいない。モンスターは皆防衛としてのゴーレムだけだ。遺跡の主と思わしきボスモンスターは主でないとしたら?」


「蛇がいるっていうこと?」


「そういうことだ、ここから早く出た方がいい、手遅れになる前に」


「グレッグの推理はよく当たる。撤退に賛成だ」


「俺はヘビを倒して英雄になるに一票だな」


「ロッドさん、あんまり調子に乗るようなことを言うのは良くないと思います、私は撤退に一票です。」


「遺跡の調査のためにもう少しだけ残りたいけど、、あれ、なんか音が聞こえない?」


「し、静かにしろ」


グレッグはそう言って床に耳を当てる。


「なにかが来る」


それと同時に、壁画をぶち破り超巨大な蛇の顔が現れると同時に咆哮が鳴り響く


「みんな、戦闘準備を」


「おうよ」


「至高神よ、弱き我らの祈りを聞き届け、悪しきものから我らお護りください。プロテクション」


「ナッツルーラーーーーーー」


蛇が吼えると同時にアーニャのプロテクションが粉々に砕ける。


「大丈夫か!?」


「ダメみたいだ、ここまで強いなんて聞いてない」


「撤退だ、神殿から借りたアーティファクトを使うしかない。」


「どうか、神よ我らに加護を、、、」


「ナッツルーラーーーーーーー」




光の柱が遺跡から伸びゆくように輝いた。




「ふうーまずいことになった。」


我としたことが、つい大人気ないなりふり構わず、ナッツルーラー殲滅計画を実行したら、勇者どもと鉢合わせ、焦った勇者どもが太古の戦争で使われた魔王封印のアーティファクトを持ってるなんて不意打ちにもほどがある。


あれに封印されると、封印を破るのに二百年ぐらいかかる代物だ。あのクソ神に実験台にされ、二百年間封印と格闘してたら天変地異が起こり、人間どもが山と見なしていたのにはおどろいたがな。


そんなことよりも、封印されて身動きがとれない、これやばい。


不幸中の幸か、意識だけは依り代に脱出させることに成功したが、この趣味250パーセントで作った人間型美少年108式に戦闘能力なんてものは積んでない。


すなわちやばい。六文字でいうとすごくやばい。


「ふっふっふっ、お困りのようですね、ヨルムさま」


ニヤケた顔のナッツルーラーが現れた。先制の目潰しを食らわせくれる!


「きぇぇぇい、くたばれナッツルーラー」


「ふっふっふっ、何にも力のないヨルムさまの攻撃など、効きなど、ぐへぇ!」


ナッツルーラーが目を抑えながらゴロゴロと身悶えている。実にいい気味だ。


「バカな、ヨルムさまより現在は圧倒的なスペックを誇るはずなのに、なぜこんなチンケな依り代のヨルムさまに傷を負わされるとは、不覚」


「黙れ、おしゃべりやろう!」


ナッツルーラーの膝に一撃を加え、ゆらりとブレたやつに王者の技たる関節技を仕掛ける。」


「ああああばばっばば痛い痛いっす、ギブっす許してほしいっす。」


「我を愚弄した罪ここで裁いてくれよう。地獄に落ちろ!」


「あばばばっばば本当に痛いっす、もう無理っす、許してほしいっす。あばばばばば」


「はっはっはっ、反省するのだな愚か者、そして死ねぇ!」


「もうお嫁にいけなくなるっす、やめてほしいっす。」


折檻は三時間近く続きました。


「もうお嫁にいけないっす、グスン」


「ふふふふ、我大勝利だ、ブイ」


「ヨルムさま、そんなこと言ってて良いんですか?本体封印されて、まずいんじゃないですか?」


「う、」


「これからどうするんですか、ヨルムさまが封印されたせいで、眷属たるナッツルーラーも力が十全に使えないっす。」


「と、とにかくだ。封印を解かなくてはならん。早急にだ。さもなくば」


「さもなくば?」


「クソ神からネチネチとこの件をネタにいびられる。」


「しょうもないっすね」


「貴様、しょうもないとは何事だ。面倒なんだぞ、あのしつこくて陰鬱でいやらしいいびりは

本当に」


「そりゃ、わかるっすけどー」


「あー想像しただけで我、憂鬱になる、めんどくセー」


「封印を解くとなると大変っすねー」


「本体の方が内部から封印を解くために遠隔操作を指定はいるが、二百年かかる計算だ、この依り代を使いうまく封印を解く方法を考えねば」


「下等な人間に封印されて封印が解けない、もう下等な人間に解いてもらった方が早いんじゃないっすかー?」


!!!!!!!!


「それだ、それだナッツルーラー。やつらが使った封印のアーティファクトには解除用のキーがあったはず。そいつを手に入れれば二百年も封印と格闘しなくてもすむ」


「ということは、人間社会に溶け込むってことっすかヨルムさま」


「そうだ、それしかなかろう」


「了解っすーヨルムさま。この不肖ヨルムさまの一の子分ナッツルーラーお供するっす」


「よし、いくぞ、我らの冒険はこれからだ!」


※この後彼らは山の中で遭難し、輝かしい冒険譚の始まりは汚点による始まりとなったのだ。

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