最終話 新たな世界樹へ


 ◆


「と、言うわけで、改めて点呼をとるぞ」


 晴れ渡る空のもと。

 アビゲイルはこほん、と空咳をしてから言った。


「なーにが点呼よ」

 マキが呆れたように言った。

「今までどこ行ってたのよ。せっかくカイルが見つかったと思ったら、今度はアビちゃんいなくなっててさ。帰ってくるなり、何事もなかったように点呼はないっしょ」


 アビゲイルが逃げ出してから数十分後。

 俺たちは再び、モーテル前に集合していた。


 あの後走り去ったアビゲイルは、コトトたちがカイルを探した後も帰ってこなかった。

 全員で町中を探した結果――

 彼女は、路地裏で体育すわりをしていた。


「す、すまん」

 アビゲイルは素直に謝った。

「迷惑をかけたな。もう大丈夫だ。もう切り替えた」


「ったく、ほんとですよ」

 俺は言った。

「しっかりしてください。大佐があんなんじゃ、先が思いやられますよ」


 するとアビゲイルはまた顔を赤くし、

「う、うるさい! お前が言うな、ユウスケ。そもそも、一体誰のせいだと思ってる」

 そういって、またそっぽを向く。


(……あんた、大佐になんかしたの?)

 コトトが小声で聞いてくる。


(全っ然わかんねえ……)

 俺は後頭部を掻いた。


「あ、あの」

 と、アリスが言った。

「よくわかりませんけど、せっかく本当のアビゲイル様が帰って来たんですから――今日は喧嘩はやめませんか?」


 アリスはそう言って、少し悲しそうに胸の前で指をもじもじさせた。


「そうだね」

 カイルが前髪をかき上げる。

「アリスの言うとおりだ。これからが、大佐の本当の旅立ちだろ? すっきり行こうじゃないか」


「そ、そうだな」

 俺は言って、アビゲイルにぺこりと頭を下げた。

「なんかわかんないっすけど、すんません。俺が悪かったです」


「あ、ああいや、その」

 アビゲイルはあたふたし、それから項垂れるようにぺこりと頭を下げた。

「そ、そうではない。悪いのは私だ。すまん」


「いや、大佐は悪くないっすよ。俺、昔からデリカシーってもんがなくって……よく分かんないんすけど、多分、なんか失礼なことやってるんっすね」

「いやいや、お前は悪くない。私がおかしいのだ。今日の私は――本当におかしくてだな」


 いやいや俺の方が。

 いやいや私が悪い。

 俺たちはそうして、お互いに謝り続けた。


 そして何度もぺこぺこしているうち――

 アビゲイルが突然、ぷっと噴き出した。


 それを見て、俺も釣られて思わず噴き出す。


 その直後、俺たちは互いに二人で顔を合わせ。

 一瞬のの後――大笑いした。

 何が面白いのか、自分たちでもよくわからなかったけど、とにかく可笑しくて笑い続けた。


 コトトとカイルが互いに目をあわせ、呆れたように肩を竦めて首を振った。

 多分、どうして笑っているのか理解できないんだろう。


 無理もない。

 俺も大佐も、自分でもなんでこんなに笑ってるのか分かってはいなかった。

 俺たちはそれでも構わず、ただ、笑った。


「もうよしましょう」

 俺はまだ笑いながら言った。

「キリがないっすね」


「そうだな」

 アビゲイルが人差し指で涙を拭きながら言った。

「もうやめよう。もう、全てを水に流そう」


 散々笑った後、俺ははあ、と息を吐いた。

 なんだかとてもすっきりした。

 ふと見ると、目の前のアビゲイルも、俺と同じく、とてもすっきりした顔をしていた。


 そう。

 大佐の言う通りだ。

 色々あったし、まだまだこれからも色々あると思うけど――

 

 全てを水に流そう。


 そんな風に思った。


「こーら!」

 と、俺たちの間にマキが割り込んできた。

「なーに二人で通じ合ってんのよ! 私も混ぜなさい!」


「すまんすまん」

 アビゲイルは言った。

「なんでもないよ。少し――笑いたくなっただけだ」


「それはいいんですけど」

 せっかちなコトトが懐中時計を見ながら言う。

「大佐、そろそろ行きましょう。そうやってぐだぐたやってたら、先に進みませんよ」


「そうだな」

 アビゲイルは頷いた。

 そして、目の前に顔を向け、意気揚々とこう言った。

「それじゃあ、次の世界樹に向けて出発だ!」

 

 オオォー! と、俺たちはみんなで手を天に突き上げた。


 今日から、新生アビゲイル・チームの旅立ちだ。

 次は一体、どんな国に行くんだろうか。

 そしてそこでは、どんな出来事が待っているんだろうか。


 きっと、色んなことがある。

 大変なことも、辛いことも。


 でもきっと、大丈夫だ。

 俺は、みんなの後ろ姿を見ながら思った。

 こいつらと一緒なら、どんな出来事も楽しいものになる。

 そんな予感に、思わず口がむずむずした。


 俺はすー、と息を吸い込み、大空を見上げた。


 少し乾いた秋風が頬を通り過ぎる。

 空には雲一つなく、どこまでも澄み渡っていた。

 




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チートスキルで世界樹ガチャを引きまくれ! 山田 マイク @maiku-yamada

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