第30話 戦況を変える咆哮と雄叫び 下

 クラウトは、システィナに気力を分けると、最前線にいる4人へと視線を移す。と、「クラウトさん?…あれ、ケイティさんでは?」とシスティナが指を指す。


 炎で出来た道を駆けてくるケイティが目に入って来た、そして、大声で何かを叫んでいる…誰かケガでもしたのか?とクラウトが思っていると、「…た…ち?」とシスティナが、その言葉に耳を凝らす。

 戦場の交戦音の中にケイティの声が聞こえてくる。

 「な~が~た~ちぃ~~~」と…。


 その言葉に弾かれたようにクラウトは、そばにある長太刀を手に取ると傾斜を降りた。

 壁の門から出たケイティはクラウトの元に駆けよる、そして、息を切らしながら言葉にする。

 「アサト…、な…なが…たち…が……、ひつ……よお……なん……だって……へぇ~」と息を切らし切らし言葉にすると、その表情を見て、「ありがとう、助かるよ、ケイティ。」と言い、長太刀を渡した。

 手にすると、おっと!と言いながら、その長い太刀をまじまじと見て、へぇ~~と言葉を漏らした。


 クラウトが腰につけていた水を渡すと、動物のようにむさぼりつくケイティ、そして、ニカっと笑みをみせるともと来た道へと向かい進み始めた。

 「ケイティ…さん…」とシスティナが言葉にすると、立ち止まりシスティナを見る。

 「が…頑張ってください!」と、両手を胸の所に持ってきて握りこぶしを作って見せる、すると、大きな笑顔で「おぅ!」と、言葉を残してその場を後にした。


 タイロンが巨大鬼オーガを目の前にしていると、アリッサがタイロンの後方へと回った。

 「最後の砦か?」とタイロンが入り口を目の前にして、巨大鬼オーガを見上げてうっすらと笑みを見せた。


 タイロンが倒したオークの首に太刀を刺して、そのタイロンが対峙している巨大鬼オーガを見上げるアサト。

 太刀を抜くと、布で刃についている血を拭き取り二人の後ろについた。

 「わたし…右のあしへと行く。」

 「?囮になるのか?」とタイロン。

 その言葉に微笑み「…違うわ、狩るのよ…あなた達が…」と言い、振り返りアサトを見た。


 「じゃ…僕が左に行き…腱を斬ります」と言うと、アリッサは頷く、そして…

 「行きましょう!」と声を上げて、オークへ向かって右側に駆け出した。


 巨大鬼オーガは、タイロンの後ろから飛び出してきたアリッサをみると、大きくアリッサが向かった方の足を上げて踏みつけようとする。

 それを見たタイロンが「マヅ!」と言い、向かって左側の足へと駆け出した、その後ろからアサトも追随すると…!

 アリッサを狙っていた足がタイロンを狙い始めた、向かって左側の足を軸にタイロンへと反転してくる。

 アサトは立ち止まる…そして…。


 「ジャンボさん!」と声にすると、その声にタイロンが左側からくる足に気付いた、と同時に盾を出して踏ん張る…と、その衝撃がアサトにも伝わった。


 タイロンが数メートルほど飛ばされ、転がり、仰向けで倒れ込んだ。

 「…アリッサさん!後ろに回って!」と言うと、アリッサは頷き巨大鬼オーガの後方へと進んだ、と同時にタイロンを蹴り上げた足を地面について、踏ん張った姿勢をとった巨大鬼オーガがアリッサを捉えた。


 …まずい!とアサトが思っていると、オーガがアリッサに向けて右の拳を手前に上げ、背後にせまるアリッサへと振り子のように振り下ろした。


 そのまま当たれば…アリッサが高く叩き上げられる…


「!」と思った瞬間。


 オーガの頭上に光が集り、そして、水滴が浮いてくるのが見えた。

 アサトは広場のはずれの森に目を走らせると、クラウトに肩を抱かれながら立っているシスティナが、ロッドを巨大鬼オーガに向け、振りかぶると素早く降ろしていた。


 その瞬間、水滴が一か所に集まり大きな水の塊になり、勢いよく落ちると共に巨大な下降気流がその場に吹き降りてくる。

 その風を受けた水の柱が氷の柱となり、アリッサを狙っていた右の肩に突き刺さると、断末魔のような声を上げ巨大鬼オーガは天を仰いだ。

 アサトは、その巨大鬼オーガを見ると駆けだし、オーガの足元に屈みながら入り、そして、右足の内ももを斬る、その流れで半回転をして左足の内ももを斬りながら巨大鬼オーガの前に抜け、巨大鬼オーガを見上げるともう一本の太刀を鞘から抜き構えた。


 「アリッサさん!ジャンボさんを!」と言葉にすると、アリッサは頷き、そのままタイロンの方へと向かってかけて行く。

 巨大鬼オーガはそのまま膝から崩れるように倒れ、アサトの目の前で手を付いた。

 そこでアサトが2本の太刀を使って顔を斬りつける。


 巨大鬼オーガは大きな悲鳴をあげながら顔を押さえて上体を浮かした。


 それを黙って見ていてから振り返り、周りを囲んでいるオークに刃を向けて睨む。

 両内腿から大量の出血をしている巨大鬼オーガは、体を前に倒しながら地面に大きな音を伴ってひれ伏し、そして、ゆっくりと息絶えた。


 意識が遠くになってゆく感じがしているタイロンは、暮れてゆく空を見て思った、…あぁ…骨…いったな…と。

 痛みの感覚が無く、近くにある音も遠くになり、何もかもがゆっくりと消えて行くように見え始めると、…どこからともなく、暖かな光が視界を覆い始めるのを見た…。


 もう…死ぬのか?と思っていた。


 死は恐ろしいが、こう動きの取れない今ならわかる、これで意識を失ってしまい、そして、再び意識が戻った時には別の世界があるんだ…それは…死後の世界…あぁ…前の仲間に会える…やっと、謝れるな…。

 そうだ…アサト…クラウト…システィナ…ごめんな…おれ…先に…と思った瞬間。


 「起きて!もう治っているでしょう!」とアリッサが、タイロンに群がっているオークを蹴散らしていた。

 その周りにも見知らぬ狩猟者らや獣人の亜人ら、ゴブリンらが気を失いかけたタイロンを守っていた。


 「光の癒しが届いたはずよ!さっさと起きて!こっちは大変なんだから」とたたみかけるように言葉にした。

 タイロンは上体を起こして体を触り、どこも異常のない事を確認すると、拓けた場所の外に視線を送る、そこには笑みを見せているシスティナとロッドをタイロンに向けているクラウトがいた。


 その2人に向かい、親指を立ててニカっと笑うと立ち上がりオークと対峙した。

 「死んだと思った」とアリッサに言うと、「…死なれては困りますよ」と笑みをみせた、そして、「みんなが…特に彼がね」とアサトに視線を移した。

 そのアサトは、オークに威嚇をしている。


 刃を向けたまま一歩、一歩と遺跡に近づく、その後方には獣人の亜人らや狩猟者らがオークを討伐していた。

 見ると兵士らの姿もある。


 アサトはゆっくり一階屋上にいるガックバムを見ると、ガックバムは右手の人差し指を小さく動かし、嘲笑を見せながら、アサトに招きの態度をとった。


「…あぁ…行くよ。いま、そこに!」と小さく呟くと…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る