眠り姫

綿麻きぬ

駅名「眠り姫へ」

 ガタンゴトン、電車が揺れております。まるで私を夢の駅に連れていくみたいに。


 でも、ダメダメ。まだ、夢の駅には行きません。だって、ふかふかベッドに着いてないもの。ふかふかベッドは電車じゃなくてお城にあるのだから。


 自己紹介が遅れましたわね。私は眠り姫。惰眠を貪り、惰眠に溺れる者。


『眠りは極上のものを』をモットーに生きております。ですが、最近は極上のものじゃないのです。環境は変わらないのに。


 なぜでしょう?


 ガタンゴトン、ガタン、電車が止まりました。私の思考を遮るように。


 あら、降りなければならないですね。


 停車駅は「眠り姫へ」というもの。あらまぁ、私にぴったりではありませんか。その駅は荒野の中にポツンと建っています。何もない荒野です。


 でも、どこかで見覚えがあるのです。どこでしょう?来たことはないはずですが。


 そこに私は何故か素足で駅に降り立ちました。地面は温かく、私が足を踏み出した後には草花が生えてきました。


 何もない所に草花が生えることが楽しくてたまらなく、あちらこちらを歩きます。


 足が疲れるまで、いいえ、この荒野が草花で埋め尽くされるまで歩こう。そう、思っていました。


 なぜならこの乾いた荒野に、緑を、潤いを、与えるのが私の仕事に思われたのです。


 私は歩き続けます。足がヘトヘトになっても、喉が乾いても、視界がぼやけても。


 ですが、私は後ろを見ていなかったのです。乾いた荒野です。水などはありません。私が生やした草花達はどんどん枯れていきます。


 それを見た私は叫びました。


 それは重なります。何を頑張ってもダメな私に。上司に怒られ、同僚に呆れるわたしに。


 あれ?でも、私はここにいるではありませんか?重なった私は誰なのでしょう?


 私は電車に乗っているただの眠り姫なのに。


 ただの?いいえ、私はおかしな狂った眠り姫。惰眠を貪り、惰眠に溺れる眠り姫。夢を探すために夢を見る者。


 そんな中、私の足下は埋もれていきます。気づいた時には膝まで埋もれていました。必死に私は足を抜こうとします。


 ですが、足は抜けないばかりか余計に埋まってしまいました。


 腰が埋まり、胸が埋まり、首が埋まり、口が埋まり、鼻が埋まり、私はもがきますが埋まっていきます。息すらできなくなっていき、私の意識は消えます。


 次に目を覚ました時には電車の中にいて、手に何かを握っていました。手紙です。




 眠り姫へ


 この駅はどうだったかい?苦しかっただろう。


 だけど、惰眠ばかりを貪り、溺れていると現実は堕ちていく。それと同時に夢の質も堕ちていく。


 そんな君の状態に車掌の僕は心配になった。だから、いつものように停車駅に降りて夢を見てくる君にメッセージを送りたかった。


 だからこんな形をとらせてもらった。許してほしい。


 君はつらい現実の中に生きている者だ。その辛さは僕にも分かっているつもりだ。だけど、休めるはずの夢に......はっきり言おう君は依存しすぎだ。


 君はいろんな夢を見て楽しんでいた。そんな君の過去に戻ってほしい。


 この夢は君が最初に見た夢だよ。最後は変わっているが。


 さぁ、もう、目を覚ましな。こんなに夢を見てはいけない。




 目を開けたそこは電車の中でした。外は真っ暗、目を開けると目の前には男の人がたってました。


「お嬢さん、ここはもう終点だぞ。」


「あっ、すみません。すぐ降ります。」


 私は急いで立つとヒラリと紙が落ちました。それを拾うとそこには文字が書いてありました。


 そこには見覚えのある言葉が。

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眠り姫 綿麻きぬ @wataasa_kinu

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