隠レンボ・捌
「なんだか意外だな」
「なにがだい」
子供達と別れたあと、ビー玉を指で摘み弄っている鴉取に三毛縞が声をかける。
「君はもっと金にがめつい人間だと勝手に勘違いしてた」
「くくっ……人聞きが悪いな。取るべきところからはきっちり徴収するが、子供から金を巻き上げるほど嫌な人間ではないつもりだよ」
鴉取は上機嫌そうに紅いビー玉を空に掲げる。
いつの間にか顔を出していた月がビー玉の中に映り込んでいる。
「子供の宝物というものは時に金よりも価値がある。あの子達がそんな宝物を俺たちにくれたというのは……実に光栄なことだと思わないか?」
「そうだな。感謝されるのは気持ちがいいよ」
誰かに感謝をされるというのはやはり心地が良いものなのだろう。
目元は長い前髪に隠れてよく見えないが、その口元は嬉しそうに緩んでいた。
「ビー玉を見るなんて子供の頃以来だけど——綺麗なものだな」
「ああ。とても美しい」
月光に輝くビー玉はきらきらと光輝いて見えた。
鴉取は嬉しそうに微笑みながら、ビー玉をポケットの中にしまう。
「……さてそろそろ日も暮れるしなにか食べて帰ろうか。それとも花街に戻って遊んで帰るかい?」
「さっきまで子供に純粋だとかいっていたやつと同じとは思えない言葉だ」
「なに、遊郭に行くというわけじゃない。別に良いだろう。ほら、ミケは何が食べたいんだい」
鴉取の声はいつもよりも軽い。
「じゃあ洋食を食べよう」
「ああ、たまにはいいかもな。さて、東都までもうひと歩きだ」
くつくつと笑う鴉取はやはり上機嫌で。
彼がこんなに楽しそうなのも珍しいものだと、三毛縞もつられて笑いながら鴉取と並んで歩くのであった。
隠レンボ・完
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