さんすけの日々【織田信長が少年だった頃】
たんたん
第1話
1544年。
尾張愛知郡。
名も無き湖のほとり。
齢十の少年がひとり。
顔は薄汚れ髪も乱れ。
浮浪児にしか見えぬ風貌は、しかし眼光だけが異常にするどい。
その少年が―
自分の性器を丸出しにし、今まさに小便を発射しようとしている。
亀頭の皮をクリっとむき、力を込める。
小便が勢いよく飛び出した。湖を越える橋のごとく、尿が飛ぶ。
放物線となった小便が太陽の光に反射し、小さな虹ができる。
小便で虹を作るなど、なかなかの風流。
しかし少年は、虹に目もくれない。
ただひたすらに、自分の性器より発射される水流を見つめている。
放水の勢いはじょじょに弱まり、やがて小便は終わった。
少年はふうとため息をつくと、その場にヘナヘナと座り込んだ。放尿がそんなに体力を消耗することなのか? 昼寝でもするかのようにその場に寝込む。
静寂が少年の周りをつつむ。
やおら起き上がり、
「やった!!」
鳥が鳴くような甲高い声で叫んだ。木立のカラス達が「カーっ」と反応する。
「とおくに飛んだ!!一番だ!今まで一番とおい!!」
どうやら少年はこの湖で毎日尿を飛ばしていたらしい。どこまで飛ぶか、彼なりに記録しながら。
今日の飛距離が「最高記録」だったのか。
「とんだ!!とんだ!とおくにとんだ!!」
その事実がよっぽどうれしかったのか、少年はその場でぴょんぴょんと跳ね始めた。
リズムがつき、妙な踊りになる。
体の動きに合わせて、しおれたちんこも一緒にゆれる。
「このさんすけ、一番とおくに小便を飛ばしたぞ!!」
少年は自分の名を太陽に向かって叫んだ。
ちなみに。さんすけ、と名づけた者はいない。あだ名の類とも違う。
勝手に自分でそう名乗っているだけで、“自称さんすけ”なのだ。
八歳のある日、「自分はさんすけだ」と唐突に名乗りだした。
少年は後年、ずいぶんと凝った派手な名前を得る。
織田弾正忠平朝臣信長。
なにやら大層な名前だが、なにはともあれ、今は“さんすけ”である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。