異境(いさかい)-神奈川vs東京ー
七四六明
神奈川vs東京
開戦
神奈川vs東京
真夏の都市部は暑い。
ヒートアイランド現象。
地球温暖化。
コンクリートジャングル。
理由はなんでもいいが、とにかく暑い。
夜になっても変わらない。
だがこの日この時、日本の夏を熱くしているのは、単に気温と温暖化現象だけではなかった。
人々はエアコンや扇風機の恩恵を受けながら、TVの前に陣取って静かな熱気に焼かれていた。
「えぇ……マイク、マイク。あ、あぁ……トゥ、ツ、ズ、トゥ、ツ、ズ……」
「カメラ! カメラ!」
マイクテストを行なっていたスタッフがカメラからはけていく。
多少の放送事故も仕方ない。
今日この日の生放送は突如決まったし、突如決まるものですらある。
制作側も視聴者側も、待ちに待った待望の生放送。焦る気持ちは皆同じ。
ほどなくして調整を終えたマイクを持って、お馴染みの進行役がカメラの前に現れた。
「皆様、大変長らくお待たせいたしました。まもなく、開演でございます」
額から鼻の頭まですっぽりと覆い隠している面の真ん中に、大きく描かれた陰陽魚。
相撲の行司か陰陽師を模したような、軽装の白黒意匠に身を包んでいる。
どこかの局のリポーターというわけでもなく、解説者というわけでもない。
イベントの行方を公平にジャッジする審判にして、進行役。本名含め、正体の一切が不明。
判明しているのは彼にはとても似合わない、フェアという英語の名前だけである。
大々的にTV中継までされるというのに、彼だけは空気を読めていないのか、荘厳な儀式の一つとでも思っているのか、静謐なままに進行する。
今となっては定番だが、当初こそは戸惑ったものだ。
「此度の
簡単なルール説明も静謐のままに終わる。
ずっとボソボソ言っているため、聞き逃してしまいそうだ。
何よりこの男、聞き逃したからといって、言い直すなんて親切はしてくれない。
あくまで誰にでも平等に、かつ不平等に進行するのみである。
「それでは早速、東京都側七名。及び神奈川県側七名。計一四名の代表に、ご登場願う。盛大な拍手にて、皆様お迎えくださいませ」
粛々とした登場コールとは相反して、盛大に上がる花火。
五〇人は下らないオーケストラの生演奏が、入場曲として奏でられる。
東京都代表の七名。
神奈川県代表の七名。
計一四名の代表者が揃った。
双方四名の制服を着た学生と、変わった意匠に身を包んだ三名の構成である。
変わった意匠に身を包んだ三名に共通している部分はほとんどない。
どこか世界観が違うような、小説や漫画の世界から出て来たかのような異質な存在感を放っていることだけが、共通している部分である。
「それでは今より十分後に、開始いたします。代表の皆様はスタート位置に集合の上、待機を」
七人の中でも代表格の大将同士が握手を交わし、各々スタート位置へと向かう。
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