Req2

Eye5 西崎

 今日は外が騒がしい。横殴りの雨が窓を叩き、強い風が音を立てて吹き荒れる。当然だが喫茶店に客はいない。それはそうだろう、こんな嵐の日に出歩くのは危険極まりないからだ。

 とりあえず早めに窓のシャッターを閉め、予報によれば強くなるという嵐に備える。多分「仕事」の依頼も今日は無いだろう。


――ゴオオオオォ


 入口の方から風の音が聞こえる。なんとお客が来たらしい。


「おい、二見! 今日やってるか!」

「……やってますよ、西崎さん」


 はぁ、この人か。毎回突然だし、こんな日に限ってやって来る面倒くさい客だ。そして、私の名、「二見」を知る珍しい人物である。


「依頼があるんだよ、受けてくれるか?」

「どうせ私の力がないと解決できない事なんでしょう?」

「うぐ……そうなんだが」

「仕方ないですね。資料下さい」

「毎回すまないな」

「もう慣れましたよ。貴女からの依頼は」


 この西崎は女性の刑事だ。口調やら何やらが男勝りで部下からは怖がられているらしい。そして彼女からの依頼は迷宮入りしかけた事件の犯人探しや、現在捜査が難航している事件の手がかり、一向に見つからない行方不明者の捜索などである。


「またまた多いですねぇ」

「今回は行方不明者が多くてな。しかも最近は面倒くさいタイプも増えてきてね」

「探したらダメなヤツですか?」

「ああ、そうだよ。勘弁してくれ……」


 手渡したバスタオルで髪を拭きつつ彼女はそう言う。面倒くさいタイプ、それは捜索願を出した人間が行方不明者に対して何らかの問題行為をしているというものだ。例えるなら子供を虐待していた親から逃げ出した子供を、虐待していた親が捜索願を出して探し出すというパターンである。確かに子供を探し出さなければいけないのは事実だが、この親に返すというのはそれはそれで良くない。もちろんこれは親子に限らず、夫婦、恋人などといったものにも共通する。

 そして、刑事の仕事とは違うものでも抱き込んで解決しようとするのが彼女だ。


「私達じゃ、判断出来ないんだよ。出来たとしても時間がかかり過ぎる」

「限界というものですか?」

「悔しいが今はそうだ。特に子供関係はな……チンタラやっててもダメなんだ」

「……西崎さん、眼を視せて下さい」

「ああ、決まりだったな。はいよ」


 西崎の眼を「識眼しきがん」で視る。信用していない訳ではないがこれをするのは誰であろうが決まりなのだ。そして彼女に嘘偽りは無い。


「大丈夫です。お受けしましょう」

「すまない……助かるよ」

「解析に一晩はかかりますが」

「相変わらず早いな。泊まってってもいいか?」

「この資料を残して帰る訳にはいかないんでしょう? いつもの部屋を使って下さい」


 彼女はここに資料を持ってきた時、基本的には泊まっていく。私を信用していない訳ではないだろうがこの手の資料は持ち出すだけでも手間だし、離れるのもよろしくないのは分かっている。私は店を完全に閉め、店の二階にある自宅に彼女を案内する。


「シャワーなんかはご自由にどうぞ。ただし……」

「部屋に入る前にはちゃんとノックしろ、だったな」

「はい。それでは後ほど」


 彼女から資料を貰い、自室に入る。


「はぁ、疲れそうだな」


 明日は左眼の視界がボヤけるだろう。それくらいには量があるし、「千里眼」の体力消費はそこそこ多い。


 長い夜になりそうだ。

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