第3話 打ち明け話
深広は少女の手を引いて、路地の突き当たりにある公園に行った。中央で細い投光機が光っているので、ぼんやりと明るい。猫の額ほどの土地に、ゴムボートサイズの砂場と、腰より低い滑り台と、二人がけのベンチがある。砂場には雑草が生え、滑り台は所々に苔が生えている。
深広はベンチに捨てられていた雨にぬれ、また乾いて分厚くなった成人雑誌を、手の甲でさっと払い落とし、ベンチの座面にハンカチを広げた。
ハンカチの上に腰を下ろす。
「あなたも座って!」
隣のベンチをとんとんと叩いて、少女に着席をうながす。
「でも……」
少女は汚れたベンチを見てしばらく迷ってから、
「分かりました」
「それで、どうして泣いてたの?」
少女が隣に座ると、深広はひざ先を少女のほうに傾けて、彼女の顔をのぞきこんだ。
「お姉さんは、タバコを吸ったことありますか?」
深刻そうな表情をしながら、少女は深広にたずねた。
「昔はね。ストレスがたまったときなんかに吸ってたけど……」
「私は一度も吸ったことがありません」
「そうでしょうね。高校生だし、いかにも真面目そうだから」
「でも、カバンに入ってたんです」
そこまで言うと、少女は目に涙を浮かべた。
「吸わないのに、タバコなんて持ち歩いてたの?」
「私が入れたんじゃありません!」
少女はある日の出来事を語りだした。
「その日は、陸上部の朝練あって、私は七時には学校にいました。私たち三年生はもう引退していたんですけど、私は短距離走の選手として大学への推薦が決まっていたので、大学に行ってからも活躍できるようにって、コーチが練習を見てくれていたんです」
「あなた一人だけだったの?」
「後輩たちはいましたけど、三年生で部活をしていたのは私だけでした。他の子は受験勉強で忙しくて部活動どころじゃなかったので」
「それは、ちょっと妬まれそうね」
「そう思います。でも、私だって一生懸命でした。ストレッチをしてから軽く走りこんで、先生にフォームを見てもらいながら百メートルを数本走って。このところタイムが下降気味だったんで、ちょっと怒られて。後は、ひたすらフィジカルのトレーニングをして汗を流しました。八時四十分にはホームルームが始まるので、八時二十分くらいに練習を終えました」
「そのまま教室に行ったの?」
「いいえ、汗が気持ち悪かったので、カバンと着替えを持ってシャワーに行きました。うちの学校には部活用のシャワールームがあるんです。何人かシャワーを浴びている子がいたけど、一つだけシャワーが空いてて、ラッキーって思ってシャワーを浴びたんです」
きっと、この時だと思います、と少女は悔しそうに唇を噛んだ。
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