第46話 薄氷

黒熱毒蛇業グラディア!」


32個もの、封印されし禁呪が発動。

漆黒の炎がオセを包み・・・


「ほほう・・・?」


だが、それすらも耐えるオセ。

レミアですら、苦しげな表情を浮かべているのに?!


余裕こそ見せないものの、その黒炎を防ぎきる。

俺の精一杯を、防ぎきる。

俺の全てを・・・いや・・・現界を遥かに超えたそれを・・・


「強化」


64個なら・・・?


ごぷ


俺の口から、血の塊が出る。

膝をつく。


「そのレベルで世界への反逆チートを実施するとは・・・誠に面白い。そなたが、そなたの職に相応しく、闇に魂を染めていれば・・・是非友人になりたかったものだ。ことによると、魔王よりも面白かったかも知れん・・・だが・・・」


俺が放った黒炎は、8割方、既に中和されている。

オセの目が光る。


「私は、そなたを殺す。まずは、この娘を殺す。手塩に掛けて育てたヴァルナ嬢も殺す。そう私は決まったからだ」


オセの力が一段と強くなり、レミアが更に後ずさる。

やばいやばいやばい・・・


動け・・・俺・・・


ジッ


腹を貫く、蒼い光。


雪原の神狼グラ・フェリオ!」


オセの顔に初めて浮かんだ、焦り、驚き、非難。

渾身の秘奥義を放ったのは・・・フィン!

神器・コキュートスから放たれる、神滅の一撃。


オセ自身の魂を媒介に、更に強い冷気がオセを侵す。


「馬鹿な・・・あり得ない・・・何故・・・の神器が?!」


・・・フィンの事までばれていなかったのか。

ヴァルナの事も見通して無かったし・・・何か制限が有るのだろう。

助かった・・・俺達の最後の隠し手・・・それが・・・機能した。


「ぐおおおおおおおおおおおおおお」


天を向き、氷像と化し・・・砕け散る。


「・・・倒した・・・のか・・・?」


俺は、膝をついたまま、呟く。


「その筈です・・・オセは化身を失い、世界から排斥されました。無論、本体は健在ですが・・・本体そのものが此処にくる事まではしないでしょう。御神への敵対行為になりますし、そもそも、矮小な存在に本来の力を出すと言う事は、極めて不名誉な事の筈です」


あれでも、本来の力のごく僅か。

超常の存在。

それでも・・・


俺達は勝ったんだ。


「レミア・・・ヴァルナ・・・フィン・・・有り難う・・・」


そして。


「マリン・・・!」


犠牲は大きかった。

大きい、とかそんなレベルじゃない。

俺は・・・俺は・・・


ひた・・・ひた・・・


何かが近付いてくる気配・・・まさか・・・



豹頭の騎士が、暗闇から現われる。


あり得ない、あり得ない、あり得ない・・・


魂が凍る。

世界が悲鳴を上げる。


何でだよ・・・何で・・・来るんだよ・・・?


「勇者よ、残念であったな。お疲れ様、私は戻ると決めてしまった」


淡々と告げる。


魔将軍オセ。


いや・・・


大悪魔オセ。

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