第25話 五声(1)
もう夏休み期間ということで、追試は午後からだった。
朝はゆっくり起きてトールに朝ご飯を作ってもらい、時間になるまでマミは論文をまとめていた。学生向けの論文発表会があり、そこに出場するための原案作りだった。
研究者になるための登竜門であり、大学生が基本的に参加する。上級学生になれば参加できるのだが、そんなに簡単なことではない。毎年大学生が入賞する。それでも参加したいから今こうして作っているのだ。
元々作っていたので、それにトールやクレアから得た疑問点を加えている状態だ。
早目のお昼ご飯もトールが作ってくれた。寮の食堂で食べても良かったのだが、トールが作る物は美味しい。
本当に悔しいが、美味しい。作ってくれるというのなら食べたくなる味なのだ。
「じゃあ、そろそろ行ってくるよ」
「ああ。練習通りでいいからな。あと、力を入れすぎて暴走させないようにな」
「わかってるよ。先生を驚かせてくるから」
「ふむ。その意気で頑張れ」
「うん」
マミはそう言って部屋から出ていった。部屋の鍵をするのを忘れない。こうしていて、窓の鍵も閉めているのにどうしてトールは部屋から出ることができるのかわからない。実体はあるのに、意図的に粒子になったりすることができるのだろうか。
そんなことを考えているとは思わないトールは読書をやめて窓の外の風景を見ていた。夏らしい快晴の空。雲一つなく、天気が荒れそうもない空色。返って快晴すぎるからこそ、嵐が来そうな雰囲気があった。
部屋にある時計とカレンダーを見て、トールは立ち上がった。
「無事に終わると良いが……」
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