座敷わらしの進化系

勝利だギューちゃん

第1話

近くにお寺がある、

古ぼけた寺。


つまり、廃寺だ。

アルプスの少女という、親父ギャグがあったが・・・

こういう親父ギャグを、堂々と言える歳になりたいものだ。


この廃寺は、大勢に人で賑わったようだ。

「夏祭りには、大勢の人でごったがえした」と、祖父に聞いたことがある。


しかし、さびれていった・・・

そして誰も、いなくなった。

アガサ・クリスティのミステリー小説とは無関係だ。


しかし、誰もいないからこそ、隠れ家にはもってこい。

木を隠すには森の中、人を隠すには人の中というが、忍びではないので、その必要はない。

ていうか、見つけたもらわないと意味がない。


この廃寺には、妖怪が住んでいる。

俺は、今日もその妖怪に会いにここへ来た。


「やあ、昨日ぶり」

「大袈裟に言わなくてもいいだろうに・・・」

「それも、そうだね」

廃寺に住んでいる妖怪は、笑う。


この廃寺に住んでいるのは、座敷わらし。

幸運をもたらすという、あの妖怪。

その名の通り、子供の格好をしている。

本来は・・・


でも、ここに住んでいる座敷わらしは、どう見ても、女子高生。

それも、今風の・・・

「瑞奈と呼んで」と、言われているが・・・

なぜ瑞奈なのか、わからん。


「瑞奈は、どうしてここにいるんだ?」

「だって、居心地がいいんだもん」

「座敷わらしなら、普通は家々を回り、幸運を授けるんだろう?」

「普通はね、でも・・・」

「でも?」

「そんな価値のある人がいなくなって、私も少しだけ歳を取ったの」

「妖怪でも、歳とるのか?」

「うん。意図的にだけどね」

突っ込まずに納得しておこう。


「私は妖怪だから、飲食は平気だし、夜露をしのげる場所があればいいから」

「そうなんだ」

「それで、ここを選んだんだけどね・・・」

「いつ?」

「数百年前かな・・・」

「随分と。おばあさんだな」

「人間と同じにしないで」

瑞奈は笑う。

でも、寂しそうに見えるのは、気のせいではあるまい。


「ひとつ訊いていい?」

「何?」

「君は、幸せ?」

「まあな」

「断言できる?」

「うん」


眼の前の、かわいい妖怪と出会えた。

ある意味幸運だろう。


「ありがとう」

瑞奈は、俺の心を見透かしたようだ。


でも、この廃寺は取り壊される事になった。

となると、瑞奈はどうなるか?


俺は切り出せないでいたが、彼女はご存知のようだった。


「でも、お別れね」

「え?」

「理由は、わかるよね?」

俺は頷いた。


出会いあれば別れあり、これは世の常。

受け入れるしかないだろう・・・


取り壊された後、わらしがどこへ行くのかはわからない。

でも、どこかで幸運を招いていると、信じよう。


だけど、運命とは時に皮肉で、時に気まぐれだ。

希ではあるが、いい事も起こしてくれる。


廃寺が取り壊されて、数日後・・・


「やあ、数日ぶり」

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座敷わらしの進化系 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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