乙女ゲーム転生。〜転生したのは背景の脇役でした

ひかげ

第1章 ねぇ、国壊そうか

国を壊す日


リースレット王国にある、リズリス王宮。


そして、王宮が誇るバラの庭園に、二人の男女がいた。



「アルテス様…わたくし、ずっと前から…」

「リティア嬢…」

「アルテス様を、お慕いしておりました!」

「リティア嬢…実は、私も…リティア嬢のことを、お慕いしておりました…!」



二人が良い雰囲気になっている中、庭園の隅からその光景を盗み見る者がいた。



「(ふぉぉぉぉっ!!!良いわ良いわ!そのまま行きなさい!言うのよ!)」



霞んだ銀髪に、金の瞳。美人とは言い難いが、それなりの容姿を持っている少女。


そんな少女が、庭園の隅にある木から中央付近にいる二人の告白シーンを盗み見ている。



「ではっ…!」

「はい。どうか、私の妻になってはいただけないでしょうか」

「っ…喜んで!」


「(よっしゃぁぁぁぁ!!!)」



声には出さず、心の中で荒ぶり、無表情のままガッツポーズをする少女。


この少女の正体は…



「姫さまぁー!!」

「!?」

「「!?」」

「ハレイシア様ー!」



リースレット王国、第七王女。ハレイシア・レイ・リースレット、十六歳だ。



「お、おぉ、これはすまぬ。大事な時に」

「いや、いいのです。大臣殿」

「それより、また姫さまが脱走を?」

「そうなのです。踊るのが嫌だと言い…」



告白していたアルテスとリティアも話に入り、一向に出づらくなる。


ハレイシアは「ヤバッ」と思いながら、息を潜め、大臣たちが去っていくのを待つことにした。



「…」



一人だけ、自分の方を見る視線に、気づかぬまま。





「では、離れの方も探してみましょう」

「そうですな。いやはや、申し訳ない」

「良いのです。大臣殿」


ザッザッザッ


「…………ふぅ」

「姫さま」

「ひゃあ!?」



突然後ろから声をかけられ、飛び上がるハレイシア。



「あ、あああアメジスト!後ろから声かけないでって、何度も言ってるでしょ!」

「何度もいなくなる姫さまがいけません」



そう言って、ハレイシアの“唯一”の侍女であるアメジストは、ポケットから時計を取り出す。



「ほら、そろそろダンスも終わった頃です。戻りますよ」

「い、言われなくても戻るわよ」

「まーたいつもの盗み見ですか?」



呆れているアメジストを横に、ハレイシアは瞳を煌めかせながら言う。



「夜の星七つの鐘が鳴った後、あのバラのアーチの下で思いを告げると、その思いが実るって言う噂、あるじゃない?」

「あぁ、ありますね」

「あの二人がそれを実行したのよ?見ないわけにはいかないじゃない」

「はぁ、そうですか」



アメジストの返答に「え!?興味無いの?」と驚くハレイシア。



「ありませんね。そんなことより、私は、姫さまを連れ戻す方が最優先ですから」

「うぐっ」



ピシッと固まるハレイシア。



「さぁ、大広間に戻りますよ」

「…はーい」






大広間


「全く。どこに行ってらしたのですか」

「…」

「姫の身に何かあったらどうするのですか」

「…ごめんなさい」



大臣の説教を大人しく受け入れるハレイシア


その姿に、周りは「おぉ…」と、どよめく。

それ程までに、ハレイシアが素直に説教を受け入れる姿は珍しいのだ。



「わ、わかればよろしいのです。うむ」

「今後は気をつけます」

「ならば良いのです。お戻り下さい」

「はい」



しかし、大臣たちは気づかない。

この時、アメジストとハレイシアが同じ微笑みを浮かべていたことに。







パチンッ


これで交代、とでも言うように、手を交わすアメジストとハレイシア。



「後任せたよ、アメちゃん」

「りょーかい、ハレイ」



互いの愛称を呼ぶ。ハレイシアは壁の方へ行き、アメジストは王座の前へ行く。



「国王陛下」

「何だ。アメジスト」




「一つ。王妃さまについて、お話がございます」




この王国が壊れるまで、後、多分、一日。

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