第4話 憔悴
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拝啓
時下ますますご隆盛のこととお喜び申し上げます。
さて、この度、遠藤様のお嬢さんである望海さんを預からせていただきました。
こちらの三つの要求に応じていただければ、望海さんは無事にお返しいたしますし、それとは別に、一億円の現金を進呈させていただきます(こちらの誠意を示すために、百万円を同封させていただきました)。
これは遠藤様にとって、きわめて魅力的な提案だと自負しておりますので、必ず応えていただけると信じています。
しかし、当然のことながら、警察に知らせた場合、即座にこの提案は破棄され、望海さんの命は失われるものとお考えください。
なお、一億円の支払い能力がある証拠を同封してあるので、ご確認ください。
敬具
整然と印字されたその手紙を、ソファにぐったりともたれながら香穂は読んだ。頭がうまく働かず、目が文章の上を滑るので何度も読み返さなければならなかった。
人生とは、こんなにも一瞬で変貌するものなのか。香穂は疲労感が大きくて、まったく動く気がしなかった。普通に生きていただけなのに、こんな目に遭うなんて。この期に及んでも香穂はまだ、何かの冗談ではないかという希望にすがりつきたかった。
けれど、やはりそれはないだろう。小学二年生にはこんな文章は書けないし、狂言では絶対にありえない。それとも誰か、大人が協力している? いや、だったら、この三つの要求というのは何なのだ。一億円というのは? 誰が、こんな冗談を思いつくというのか。
冗談といえば、文面もふざけている。装われた丁寧な言葉遣いに、香穂は途轍もない悪意を感じた。この誘拐犯は、おそらくまともではない。
「それは、そうね。一億円くれるとか……まともなはず、ないか」
呟いてから、額に手の甲を当てた。涙が零れそうになるのを、必死になって堪える。
階段を下りるゆっくりとした足音が響き、幹也がリビングにあらわれた。
「番号は一致していたよ。一等、三億円だ」
幹也は宝くじのカラーコピーを手にしていた。サマージャンボと書かれ、ひまわりと子供の絵が印刷されている。封筒に入れられていた「一億円の支払い能力がある証拠」が、これだ。夫は二階の部屋にあるパソコンで検索して、当選番号を確認していたのだった。
「そんなのコピーなんだから、いくらでも偽造できるでしょ? 当てにならないわよ」
「その通りだ。これは、嘘に決まっているよ」
そういって、幹也は紙をくしゃくしゃと丸める。自信ありげな物いいに香穂は戸惑った。
「え?」
「だって、犯人が自分から特定されてしまうような情報を渡すわけがないからね。もし本当に当たったのなら、賞金の受け取りに身分証明が必要だから、わざわざ偽名を使うなんて面倒なことはしないだろうし。きっとジョークのつもりなんだろうな」
「……なんだ」
「だけど──その百万円は、本物だ」
幹也は、ロウテーブルの中央に置かれた札束を指さした。すでに、帯封を解いて確認してある。確かにそれは、贋札ではなさそうだった。けれど……それが何?
「だから、何だっていうのよ」
「望海を誘拐してまで何かをさせたいんだから、犯人は真剣なはずだ。ということは、宝くじは冗談だとしても、一億という提示は本気なんじゃないかな。騙す気なら、もっと現実的な金額を書きそうなものだろ?」
「それで? あなた、まさか要求に従う気なの?」
香穂はヒステリックに、声を高くした。
「そうしなければ、望海は帰って来ない」
「馬鹿馬鹿しい、警察に行くべきよ。それが普通でしょ?」
「お前、ちゃんと頭を使えよ。金を要求されたら、受け渡しの際に犯人を逮捕することもできるさ。だけどこの場合、いつ誘拐犯を捕まえるんだ? 交渉の余地がないんだから、警察に連絡したのがバレた時点で望海は殺される」
「……」
香穂は、強く膝頭を握って沈黙した。
「それに、要求ったって、全然難しくないじゃないか。さっさと済ませて、望海を返してもらうのが一番賢明だろ?」
封筒にはさらに別の紙が入っていて、二つの要求の内容が記されていた。最後の三つめは、後日連絡してくるそうだ。
「三つめが伏せられているじゃないの。だって、一億円と引き換えなんでしょ? きっと、とんでもない要求をされるわ。たとえば……人を殺せとか。もし、そうだったらどうするの? あなた、他人を殺せる?」
喋っているうちに、興奮が喉を支配した。「そうよ! わけのわからない二つの要求も、百万円も、私たちを逆らえないようにするためなのよ。つまらない内容で大したことないと安心させて、金を受け取らせて警察に行きにくいようにして。全部、計算してるんだわ! 従ったら駄目なのよ!」
「落ち着けよ」降りてくる声は低かった。「たとえ相手の計算であろうと、現時点で俺たちにはどうすることもできない。逆らいようがないんだ」
「……」
憎らしいくらい、夫の言葉には説得力がある。反論できなくなり、香穂はうつむいた。
「『人を殺せ』っていう指示だったら、もちろん無視するさ。その時は警察に電話しよう。金は使わずに取っておけばいい。『娘を殺すと脅迫されたから、警察に連絡しませんでした』といえば、いい訳が立つし」
いい訳ってなんだ。そんないい方をしたら、まるでお金が、一億円が目当てで警察への連絡を控えていたみたいではないか。そう詰りたかったけれど、香穂は黙っていた。
勝手に腕が伸びて、テーブルの茶封筒を取り上げた。どこにも消印が見当たらない。ということは、犯人はこれを直接遠藤家の郵便受けに入れたのだ。なんて大胆な奴なのか。それだけでも、一筋縄ではいかない相手のような気がする。こんな犯人の指示に、唯々諾々と従っていいものだろうか。
ふと顔を上げると、幹也が姿を消していた。やがて、再びリビングにやって来た彼は、ビデオカメラを手にしていた。寝室の押入れにしまいこんでいたものだ。
「何よ、それ」
「充電したんだよ。完了してないけど、元々いくらか残っていたし、撮影はできるよ」
「まさか、あなた、やる気なの?」
驚愕に、声が上擦った。
ひとつめの要求──それは、香穂が話す望海へのメッセージを、ビデオカメラに収めることだった。それ自体はどうということはない。だが、なぜ今やろうとするのか。こちらは娘を誘拐された衝撃から、全然覚めていないのに。期限など決められていないのに、なぜ夫はやる気満々なのだろう。
そういえば、犯人からの手紙を読んでいる時こそ動揺しているみたいだったが、今の幹也は目の奥に鋭い光を宿らせているようだ。香穂は初めて、疑惑を覚えた。
夫は、本当は一億円がほしいのではないだろうか。
犯人の要求に応えれば、労せずして一億が手に入る。そう無邪気に信じているのではないか。馬鹿な。そんなに、うまくいくはずがない。なのに……この人は、こんなにも頭が弱かったのだろうか。
「どうだ、話せるか?」
「……ええ」
大声で幹也を詰問したかったが、それは八つ当たりかもしれないと気づき、香穂は唇を引きしめた。とりあえず犯人に従う、という方針をとるのであれば、これは避けては通れない道だ。だったら、ここで夫と喧嘩しても仕方がない。
ロウテーブルを挟んで、幹也は立った。それからビデオカメラを構え、「いいぞ」と声をかけてくる。けれど、レンズに向かって、誘拐された娘に語りかけなければならない異常な状況が、しばらく身体を凝固させていた。
唇を舌で湿してから、香穂はようやく口を開いた。
「望海」
名前を呼びかけただけで、胸にぐっと熱くこみ上げてくるものがあった。
「望海、今あなたは大丈夫? 痛い目に遭ったりしてない? ごはんはちゃんと食べられてる? あなた、好き嫌いが多いから、ママは心配だわ」
いったん、ぎゅっと強く瞼を閉じた。
「あのね、わかってはいたの。私は、あまりいい母親じゃないって。あなたが生まれても、煙草は止めなかったし、あなたを放っておいてジムに通ってばかりだし。自覚はしていたのよ。でもね、私があなたを愛しているのは本当。それは、決して嘘じゃない」
両目に、涙が滲んだ。
「ねえ、お願い。私たちは何の問題もなく暮らしていたの。一億円なんていらないのよ。そんなもの、いらない。だから……お願い。望海を返して」
メッセージは、いつしか犯人に向けられたものに変わっていた。
「お金はいらないから。警察にもいわないから、望海を返してよ。お願いだから」
抑えていた感情がついに決壊した。頬を涙が伝い、香穂は肩を震わせる。口を手で押さえて、溢れる嗚咽を零すまいとした。
気持ちが悪くて、身体を起こしているだけでも、きつく感じる。深い闇の色をした絶望感は、経験したことのない恐怖を携えて、強く香穂の胸に食い入っていた。
泣き崩れる妻の姿を、夫は無言で撮影しつづけていた。
その晩、香穂は一睡もできなかった、
まんじりともせずソファに座り、娘の身を案じては涙ぐんだ。犯人の容姿を根拠もなくイメージし、怒りを燃やした。「少しは休んだら?」という夫の気遣いにも、まったく反応しなかった。
望海の声が聞きたい。そう、香穂は切実に願った。すでに、娘は殺されているのではないか。そんな心を冷たくさせる想像から、どうしても逃れられない。こんな場合、せめて声を聞かせて生存を確認させてくれるのが、最低限のルールなのではないのか。お金を払うわけではないから、そんな要求をする権利すらも、こちらにはないのだろうか。
犯人に、望海を殺す理由がない。その言葉を、夫はしつこいほど使った。最後に何をさせられるのか知らないが、要求を実行して、こちらが金を受け取れば共犯みたいなものなのだから、あとで警察に駆けこまれる心配がない。だから、望海に顔を覚えられても、関係がない。犯人は望海を殺さない。
一見、筋が通った理屈も、安心を与えてはくれなかった。大体、一つ目の要求、あれは何だ? さらわれた娘へのビデオレターなんて、笑えない最悪のジョークとしか思えない。どうもこの犯人は、常人とは違うセンスを持っているようだ。ただの犯罪者、では決してない。そんな人間を、普通のものさしで計れるだろうか。いくら論理的に犯人の行動を推測したって、そんなのはまったくの無駄ではないのか。
両手で顔を覆い、香穂は呻いた。自分が何か悪いことをしたのか、と思う。こんな仕打ちを受けなければならないようなことをしたのか。これは、天から下された罰なのか。
手を離して顔を横に向けると、夫が舟を漕いでいる。ずっと隣で香穂を慰めてくれていた夫は、やがて力尽き、眠ってしまったのだ。昨晩、会社を休む旨の連絡を入れているので、三時の液卵チェックにも行っていない。
香穂は、幹也を疲れた目で眺めた。
今なら、夫が眠っている今なら、警察に連絡できるのではないか。香穂の胸に、電話へと走りたい衝動が湧き上がった。夫は犯人との接触の機会がないから、捕まえられないと主張していたけれど、それは違う。犯人は、こちらへ三つ目の要求をしなければならない。そして、それをまた直接郵便受けに入れに来ることだって考えられる。もしそうなったら、警察に待機してもらっていれば、簡単に逮捕できるではないか。
実際、香穂は腰を浮かせかけた。けれど、犯人が金を要求していない事実が、この場合、足枷になる。向こうの目的はこちらに何かをさせることなのだから、それが無理だと判断すれば、すぐさま望海を殺すだろう。もし、この家を見張られていたら、一発でアウトだ。それを考えると、迂闊な行動はできなかった。
「ん……」
夫が薄く瞼を開き、目を擦ってから壁の時計にのろのろと視線を向けた。
「もう五時か。腹、減ったな」
「カレーなら、あるわよ」
かすれた声で、香穂は応じる。
「そうか、お前も食えよ」
「私はいい」
「おいおい。そんなんじゃ、身体がもたないぞ。少しでも食っとけって」
強くいわれて、香穂は渋々腰を上げた。昨晩つくったカレーの入った鍋を温め、皿に盛ったご飯にかける。こんな時なのに、夫は旺盛な食欲を見せ、いつものようにさほどの時間をかけずに胃に収めた。香穂は三分の一ほど、食べただけだ。
洗い物を終えてリビングに戻り、なんとなくテーブルの上のビデオカメラを手に取った。動画を一覧表示させ、夫に撮影された自分の姿を再生する。最初、まだ落ち着いて喋っていた香穂は途中で泣きだし、最後の方は言葉が出て来なくなっていた。
香穂は不思議で堪らない。一体、犯人はこれをどうするのだろう。いつか受け取って、望海に見せる気なのか。だったらこの要求は、娘が生きている証拠になる。そう考えると、微かに希望を持てた。ただ、これを犯人も見ることになるのかと思うと、非常に腹立たしい。香穂は、誘拐犯などという卑劣な相手に涙など見せたくはなかった。
ACアダプタを持ってきて繋ぎ、香穂はメモリーカードに記載されている動画を、次々と再生した。一つ目は一歳数か月の望海がテーブルにつき、スプーンを持って食事をしている映像だった。喃語を発しながら、なかなか器用にチャーハンを口に運んでいる。カメラを持った香穂が話しかけると、いちいち笑顔で応えるのが可愛かった。
二つ目は三歳の時、場所は遊園地だった。父親と一緒に回転木馬が引く馬車に乗り、望海は甲高いはしゃいだ声を上げている。この後、回るコーヒーカップにも乗った。けれど、この日は望海がお漏らししてしまい、慌てて帰ったのだった。
三つめは植物園で、四つ目は運動会だった。小学校の校庭を、紅白帽を被った望海が素晴らしい速さで走っていく。八十メートル徒競走で、娘はダントツの一位だった。ゴールテープを切った望海がカメラを構えている香穂の前に来て、嬉しそうに「やったよ!」と叫んでいる。液晶モニターを眺めていると、涙がまた溢れだしてきた。
「パパー、釣れたよ」
「おー、パパも釣れたぞ。まだ、パパの勝ちだな」
「違うよ、さっき竿を交換したじゃん。それは望海の竿だから、望海が釣ったことになるんだよ」
「どういう理屈だ」
最も新しい動画は、今年の七月、中の島公園に釣りに行った時のものだ。最近の夫は仕事で疲れているのか、休みの日は寝てばかりで、家族サービスをしてくれるのは珍しかった。この日、香穂はサンドイッチをつくり、父と娘が休日を楽しんでいるのを後ろから撮影しながら、微笑んで見ていた。
あの日々から、どうしてこんなにも遠ざかってしまったのか。
最後の動画を観終わると、また最初に戻る。数えきれないくらい繰り返して動画を眺めているうちに、十二時が近くなった。幹也が空腹を訴えるので、香穂は重い腰を上げ、簡単にサラダスパゲッティをつくった。たくさん泣いたせいで多少落ち着いたのか、今度は香穂もちゃんと食事することができた。
ソファに戻ってからは、疲労がどっと出てきて、香穂はうとうとしはじめた。瞼が勝手に下りてくる。こんな状況でも人間は寝てしまうのかと考えているうちに、いつしか眠りに落ち、意識がはっきりとした時には二時をとっくに過ぎていた。
隣に夫がいない。
どこへ行ったんだろう。訝しんでいると、玄関の方から話し声が聞こえた。
訪問客がいる? そうか、ドアベルの音で、私、目を覚ましたんだ。
もしかしたら、娘の友達が遊びに来たのかもしれない、と香穂は思った。高志君か、もしくは鉄平君が、もう望海がここにはいないことも知らないで。
だったら、夫は適当にごまかして戻って来るだろう。香穂はしばらく座ったまま、待っていた。が、一向に会話は終わらない。どうも、望海の友達ではなさそうだ。
誰と話しているのか気になり、確かめるために香穂は廊下に出た。
「……」
見ると沓脱には、大きな肩幅を持った一人の男がいた。四十代ぐらいの中年男性だ。驚いていると、幹也が振り返った。
「ああ、香穂、こちらは警察の方だよ」
ぴんと背筋が伸びた。警察が来た。ということは、夫は通報してくれたのか。妻が眠っている間に、彼は方針を変えたのか。
香穂は希望に目を輝かせた。ところが──口を開く前に、幹也が早口でいった。
「隣の家に今日の昼前、泥棒が入ったんだ。藤村さんが買い物に出かけている間に、扉をピッキングして侵入したんだってさ」
突然の意外すぎる展開に、香穂は茫然とした。
──泥棒ですって? なぜ? こちらはこれ以上ない非常事態なのに、どうして、さらに隣で事件が起きなければならないの?
異常な状況に麻痺してしまった香穂は、ぼんやり突っ立っているしかなかった。すると、強い視線で何かを伝えている幹也に気がついた。
余計なことを喋るなよ。夫の目はそう語っていた。そうか、今なら、無理なく警察の手が借りられる。この刑事にこのまま、この家に留まってもらえないだろうか。
しかし、その判断が正しいのかどうかわからないため、香穂は行動に移せなかった。刑事が「奥さん、ちょっとすみません」というので、力の入らない脚で前に進む。
「今日か、あるいはもっと前でもいいんですが、何か気づいたことはありませんかね。見慣れない人物がうろついていたとか」
「さあ。思い当たりません。今日は、ずっと家にいましたし」
「お隣の藤村さんとは親しくされているんですよね?」
「はい、娘をよく預かってもらっていまして」
「娘さんはどちらに?」
「実家に遊びに行かせてるんですよ。たまには夫婦水入らずで過ごしたくてね」
香穂が答えるより早く、幹也が口からでまかせをいった。
「なるほど。それでご主人は今日、お休みで」
「ええ。たまには、奥さんサービスもしないとね」
「ああ、そうですよね。私なんかずっと放ったらかしなんで、女房は怒り狂ってますよ」
刑事は明るい声でいう。その口ぶりに、香穂は眉をひそめた。なんだか、軽い。たかが窃盗ぐらいでは、警察は本気になれないのだろうか。ドラマなどでは刑事は二人一組と相場が決まっているのに、この男は一人だし。
それとも彼は、話しやすい空気をつくって、情報を引きだそうとしているのか。
「あの、被害額はどれくらいなんですか?」
気になったので、香穂は訊いた。年金生活だから、聡子の暮らしぶりは決して裕福ではない。タンス預金を根こそぎやられた、みたいな事態だったら、相当な打撃であるはずだ。
質問を受けた刑事は、困ったように眉を下げた。
「金額は出せないですねえ。なにせ、猫ですから」
「え?」
「親猫と子猫の合わせて二匹。盗まれたのは、これだけなんですよ」
「……」
猫。香穂は言葉を失った。猫を盗んで、それでどうするというのだろう。金目のものがなくて、怒った泥棒が腹いせに持ち去ったとか? まさか。
もしかしたら……刑事は泥棒が立ち去った後に隣家の子供が猫を連れていったのかも、と推理した上で、この家を訪れたのかもしれない。
彼はさらにいくつか質問してから、何か気づいたことがあれば、警察にご一報くださいといい残して、去っていった。刑事の姿が消えた後も、香穂は立ちつくしていた。
あれだけ猫を可愛がっていた聡子だ。きっと今ごろ、かなり落ちこんでいるだろう。その点に関しては、香穂は同情した。けれど、あまり心は動かされない。なにせこちらは、我が子をさらわれているのだ。人間と猫では、どうしたって比べものにならない。
それよりも、気になることがあった。
子供が誘拐された隣の家で、猫の親子がさらわれる。これは、偶然なのか。こんな偶然が、あり得るのだろうか。この二つは、関連していると見る方が自然ではないのか。
しかし、誘拐と猫の窃盗がどう繋がるのか、香穂にはさっぱりわからなかった。
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