幕間「前代未聞の依頼」

「ここが冒険者ギルドです」


 昼より少し前、ダイヤとスペードの案内で俺達はトーイスの冒険者ギルドの前に立つ。酒場と同じ建物らしいけれど酒場は絶対に離したほうが良いというのが俺の感想だ。


「やっぱり俺は来ないほうがよかったんじゃ」


 酔っぱらった冒険者に絡まれてゴブリンであることがバレたらどうしようかと怯えながら口を開くとスペードが肩を叩く。


「そん時はダイヤの『ワープ』でささっと逃げちまえばいいんだよ」


「はい、お任せください」


「そういうものかなあ」


 胸を張るダイヤとスペードを訝しげに見ながらも俺は扉に手をかけて冒険者ギルドへの道を開いた。


「……ここが冒険者ギルド」


 クローバーが目を輝かせて辺りをキョロキョロと見わたす。冒険者を目指していた彼女にとってはこのギルドは正に憧れていた場所なのだろう。かくいう俺もこの身体で来ると知る前まではそうだった。ギルドに向かって依頼を受けて……という生活を夢見たりしていたが今ではどちらかというと敵のアジトに乗り込むというかそんな気分だ。

 誰かいないかと辺りを見回して見慣れた男女が目について凍り付く。すると向こうも入ってきたばかりの俺達に興味があったようで目が合った。


「よう、元気にしていたか」


「ま、まあ」


 コールだった。コールは真っ先に俺まで向かってくると腕を首に回してそう挨拶をする。マズいところで出会ってしまったlもしコールがポンと兜を飛ばしたらそれだけで終わりだ。いや、彼はそういうことはしないか。と不意に安心する。


「皆無事で何よりだよ」


「レイズさんもお元気そうで」


 クローバーが少し照れているけれど向こうも上手くやっているようだ。気が付くと4人は酒場について食べ物を注文していた。


「で、わざわざ正体ばれたらマズいってのにここまできて何の用なんだ」


「それは、まあ彼女達に俺も来いって言われたからでそのつもりはなかったんだけど」


 彼の質問に半分答えたところで女性陣に呼ばれた俺達は招かれるまま着席して早めの昼食をとることとなった。


 ♥♢♤♧

「それで、何しに来たんだよ」


 近況報告が終わった後、旅行の資金を稼ぐためギルドに戻ってきたらしいコールが尋ねる。


「依頼をしに来たんだ」


 俺が答えると目を見開く。


「はあ? 依頼? そんな手強い奴がいるのかよ」


「ああ、皆の力が必要なんだ」


「どんな奴なんだい? 」


 俺は2人に囁くと2人は固まってしまった。それと同時に開かれる何やら騒がしい音、どうやら混み始めたみたいだ。


「悪いけど、ちょっと受付に行ってくる」


 そう言い残すと俺達は念のために代金を机に置きながら席を立った。



 ♥♢♤♧


 それから20分ほど並んで俺達の出番がやってくる。


「こんにちは……あ、貴方達はこの間の」


 受付の女性がスペードとダイヤをみて驚いて見せる。


「おう、覚えていてくれたのか」


「忘れるわけありませんよ」


 確かに、俺のせいとはいえギルドに来て戦いを始めて終わったと思ったら依頼も受けずに帰るというのはなかなかインパクトがあっただろうな、と同意を示す。


「それで、本日はどういったご用件で」


 女性が見知らぬ俺とクローバーを興味深そうに見つめてから尋ねるので俺は一歩前に出た。


「腕のあって命を懸けられる冒険者を大勢集めて欲しい、場所はバラバラだけれど彼女が現地へは連れて行く」


 それを聞いて一瞬放心状態になった女性はハッと我に返り業務を続行するために口を開く。


「えっと、腕利きの冒険者に命懸けの依頼、それも複数となると依頼料金が凄いことになりますが……」


「そこは問題ありません」


 俺はそう言うとバッグからありったけの金貨を出す。それに続いて彼女達も金塊や金貨を机に置いた。生活できるくらいは残してそれ以外はここで使い切るというのは皆で話して決めたことだった。


「これで足りるでしょうか」


 しかし、依頼が莫大になる可能性も考えて不安になり尋ねると彼女が声を裏返して答える。


「こ、こんなに……た、足りないなんてものじゃありませんよ。このような報酬が用意される依頼なんて前代未聞です……し、失礼致しました。それで、ご依頼内容。いえ討伐対象は何でございましょうか」


 そこまで言って興奮気味な様子の彼女は俺達を見直すとそう尋ねる。


「魔王です、依頼は魔王討伐です」


 俺は彼女の目を見てハッキリとそう答えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る