16‐10「禁断の魔法」♢

 最期の瞬間、私の持っている伝説の杖が少しだけ力を貸してくれた気がした。こんな形になってしまったけれど伝えられたかな? それならもう思い起こすことはないといえばウソになるけれど十分だった。私の意識は段々と薄れて無になった……はずだった。


 突然、眩しくて暖かい光が舞い込む何かは分からない、私は何もない空間でその光を掴んだ。


「ん……あれ……私は……」


 突然無くなったはずの感覚が蘇る。どうしてだろう? と目を開けるとそこには黒いけれど空が広がっていてそれを遮るように大賢者様が立っていた。


「気が付いたようじゃの」


「大賢者様、どうしてここに。助けて下さったのですか。でも私は確かに……」


「ああ、そうじゃのう」


 大賢者様は目に涙をためながら虚ろ気にそう口にするとバランスを崩した。


「大賢者様! ? 」


「すまないのうダイヤ、この魔法は教えるわけには行かなかったのじゃ。何せこの魔法の代償は己の命、ダイヤよ。これから先辛いこともあるだろうがお主なら世界を平和にできる。自慢の弟子じゃ。頼んだぞ」


 大賢者様はそう口にすると目を閉じ目覚めることはなかった。


「大賢者様、大賢者様」


 彼の身体に触れ『回復の魔法』を使おうとした時だった。


「老いぼれめ、最期の最期に無駄なことを。今更力も残ってない女を生き残らせてどうするつもりなのか」


 声がしてそちらを見ると魔王が私を見下ろしている。魔王は先ほどの一撃で倒せていなかったんだ。


「まあ、どのみちこれで終いだ。消えうせろ! 『デモンズペイン』! 」


 禍々しい球体が魔王の掌で形成されたかと思うとそれが私達目掛けて向かってくる。


「すまねえ、ダイヤ。頼む」


「はい、『シルド』! 」


 私はすかさず『盾の魔法』で周囲を覆うとけたたましい音と共に魔法同士がぶつかり合う。


「わりいな、色々と気持ちの整理がつかねえだろうに突然でよ」


「いえ、私こそ申し訳ございません。あの一撃で魔王を倒しきれなくて。大賢者様まで……」


「……それは謝ることじゃない。それなら命を使ったことを謝って」


 クローバーさんにキッパリと言われてしまいシュンとすると彼女が小さく「ごめん」と呟いた。


「まあ、その手の話はあとだ、このピンチを切り抜けて皆で大賢者を埋葬して……って言ってもオレは体力がほとんどねえんだけどよ」


「……ボクも」


「ったく、早く起きろっての」


 スペードさんがトーハさんを軽くたたく。魔王の攻撃を防いでいる最中で緊張感に欠ける気もするけれどこのやり取りは私に力を与えてくれた。


「はああああああああああああああああああああああああ! 」


 力を込めて盾を強化すると程なくしてひび割れたものの魔王の攻撃は消滅した。


「ほう、なかなかやるではないか。であれば先程の続きと行こうか。『デモンズペイン』! 」


 魔王は何気なくもう1つ巨大な球体を作り上げる。


「ふはははは、貴様自身もう盾を張りなおす力はないだろう。その盾は我の魔法を何発まで防ぐことができるかな? 」


 愉快そうに口にすると魔王は魔法を私達に向けて放つ。その時だった。ふと背後で人の動く気配を感じて私は『盾の魔法』を解除する。


「ほう、もう諦め死を選択したか」


 向こうからでは自身の攻撃で視界を遮られて魔法しか見られなかったのだろう、魔王が勝ち誇る。でも、実際は違う。私の魔法が彼の邪魔になってしまわない様に消したのだ。


「助かったよダイヤ」


 背後で聞こえる聞きなれた声と共に黒く美しい攻撃が魔王の攻撃を両断し消滅させる。その衝撃は遂には魔王の右腕を切り裂いた。


「が……あ……貴様……どうしてこんなにはやく」


 魔王が右腕を押さえて背後にいる彼に語り掛けると彼はカシャンカシャンと音を奏でながら前進して私よりも前に出て右手に握った紫色のオーブを纏った黒剣を構えながら私の頭に手を置く。


「どうしてだろうな。言っても多分魔王、お前には分からないよ」


 そう言いながら彼は私の頭を撫でる。こんな時なのに私の顔は熱くなってしまう。というか、どうして彼は恥ずかしげもなくそんなことを口にできるのだろう。そんな気持ちも込めて彼の名前を口にした。


「トーハさん」


「ありがとう皆、後は任せてくれ」


 私達に向かって振り返ると彼は宣言する。


「ふざけるな、ふざけるな。あと一人。あと一人なのだ! あと一人、貴様等人間が転生者を異世界から呼び出せば、我はその世界との繋がりを使って2つの世界で君臨することができるというのに……こんなところで終わってたまるかあああああああああああああああああああ。『ワープ』! 」


 魔王は絶叫した後そう言い残すと姿を消してしまった。


「……あれ? 」


「トーハさん」


「トオハ」


「……タアハ」


 あれだけ力強く彼が決めようとしたのに決められなかったことに思わず同情してしまう。でも今はそんな場合ではない


「トーハさん、大賢者様が」


「そっか……」


 彼は大賢者様の姿を見て少しの間動かなくなった後「大賢者様のためにも必ず勝とう」と口にした。


「それじゃあ、皆。魔王は他の人に任せて俺達は確実に倒すために魔王にこの剣を当てる最後の作戦を考えよう」


 彼がそう口にしたので情報を共有する。私も知らなかった魔王は細胞が1つでも残っていると再生するという情報を聞いて彼は何か考え込んだと思ったら突然「ああっ」と声を上げたかと思うと以前手に入れた不思議な5つの丸い窪みと1つの球体があるものを取り出した。


「なんで今それが出てくるんだよ」


 私も考えていた疑問をスペードさんが口にすると彼は自信満々に私達の顔を見て告げる。


「これが魔王を倒す最後の鍵なんだ」

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