15-22「透明な敵を追い詰めろ」

 試合会場を僅かに離れて人間の王様が抱えている宝箱をじっと見つめているとガサガサと音がした。何だろうと顔を向けるとそこにはスペードさんの姿があった。


「ダイヤ、いるか? 」


 彼女の問いに「はい」と答えるとともに目標にしていた草原には似合わない小石を拾い上げる。すると石はたちまち私と同様に姿を消した。


「スペードさんよく抜け出せましたね」


「まあな、皆トオハとクローバーの試合に釘付けだしよ、まあモンスター軍に近寄ったとなっちゃ大騒ぎになりそうだが。それよりダイヤはどうだ? ここにいるってことは……」


「はい、モンスターの方の鍵の入った小箱は一瞬だけ消えてしまったので既にすり替えられてしまったかと」


 スペードさんに先ほど起こったことを伝える。一瞬のことで注意していないと気付かなかっただろうけど小箱がほんの僅か一瞬だけ消えてしまった、恐らく透明になったヤギリさんが本物を取って素早くニセモノを置いたのだと思う。


「そっか、となると残るは宝箱だけか、でも透明になる魔法を使えるなんて骨が折れそうだな」


 困り果てた彼女の言葉に同意を示そうとした時だった。ふと宝箱が一瞬姿を消しまた現れた。まさに今話していたすり替えが目の前で行われたので「あっ」と声を出す。


「スペードさん」


 彼女も見逃さなかったのだろう「ああ」と答えて剣に手をかける。


「追いましょう」


「でもどうやって」


「地面を確認してください、触れた草が消えてしまうので不自然に消えている場所を探しましょう」


「了解」


 私達は言葉を交わすと不自然な後を見つけてその後を追っていった。


 後は会場を離れながら進んでいくそこで困ったことになった。草原終わり森の中へと向かうつもりだったのだ。森の中では木の葉も土も枝もバラバラで見分けるのが難しくなってしまう。


「クソ、こうなったら一か八か声をかけるぞダイヤ、後は任せた……」


 そう呟くとスペードさんが叫び声をあげる。


「おい何処いくんだヤギリ! お前が宝箱を盗んだところを見たぞ! 」


 すると彼の足がピタリと止まる。その隙をスペードさんは見逃さなかった。


「宝箱は返してもらうぜ」


 スペードさんが不自然な草原を目印に走り出して剣を振り下ろす。


「『シルド』! 」


「甘えよ! 」


 スペードさんが盾を出したのを見て素早く回り込むと背後を狙う。


「甘いのはどちらですか『シルド』! 」


 するとたちまち彼の全方位に盾が展開され彼女の一筋は弾かれてしまう。


「クソっ」


「ハハハハハ残念でしたねクイーンさん、私の盾はそこらの魔法使いとは違って周囲に張ることも出来るのですよ! さあどうなさいますか」


「でもそれじゃお前も出れねえよなあ」


 スペードさんがニヤリと笑って掌を翳す。その意図を理解して私は彼女の側へと足早に向かう。


「はい? ああなるほど、ではこういうのはいかがでしょう、叛逆者クイーン宝箱と鍵を盗んだ所を見事に見抜いたヤギリが取り戻す。如何ですか? あと少しでもすれば誰かがこの事態に気がつき貴女はおしまいですよ? 私の方が信頼されているでしょうからねえ」


 ヤギリさんが少しでも皆に気付かれるようにか大きな声で高笑いをする。その隙に私はスペードさんに近付くと彼女の裾を引っ張ると彼女はニヤリと笑った。


「ちげえよ」


「は? 」


「オレが言いたかったのはなオレ達が強力な攻撃をしても逃げられねえってことだよ。『スァンダ』! 』」


 スペードさんが呪文を唱えると雷の球体がヤギリさん目掛けて突き進む。


「オレ達? ハハハハハ何かわかりませんがこの程度の攻撃で私の盾がやぶられるとでも? 」


「『マキシマァム』! 」


 すかさず『大きくする魔法』を唱える。するとみるみるうちに彼女の魔法は巨大化した。


「…………は? 」


 事態が飲み込めずキョトンとした様子のヤギリさんに球体が襲う。そのままヤギリさんは盾も虚しく私達の魔法を受け試合会場の方へと飛んで行った。




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