15-5「二手に分かれて」
「それともう一つ、厄介なことに人間側には強力な侍がいるのです」
「侍? 」
首をかしげる。侍というのは実力者であろうことは彼女の口ぶりからも分かるけれど、それはそれで人間側勝利という結果であれ戦争を終わらせることのできる貴重な戦力ではないのだろうか?
その旨を尋ねると彼女は目を逸らした。
「これまでは兵士達は王を立てるために戦っておりましたが、共に以前は暮らした仲、互いに王が心を入れ替えてくれることを信じて譲り合ったりして戦局を調整はするものの命のやり取りはしたことがありませんでした」
「……だから、戦争が長く続いたんだ」
「その通りです。でも、いえだからこそ痺れを切らしたラトランドは1週間ほど前に人間であることを利用して強力な侍を雇い入れたのです。侍は部外者ですからモンスターに情もなく斬り捨てて回りました」
「つまり、国を巻き込んだ兄弟喧嘩で死者が出る様になってしまったのですね」
俺が尋ねると彼女は頷く。
「お話は分かりました。どうやら一番早く安全な解決法は我々がどちらかの勢力につき侍を拘束する。これが第一になりそうですね。問題は人間側に着いた時に侍と戦う口実ですが……」
「んなもん、手合わせがしたいとかでいいんじゃねえか? 」
「ですがラトランドの方ですと彼は用心深いので手合わせも難しいでしょうし拘束は猶更厳しいと思われます」
フミさんが申し訳なさそうに述べる。元乳母で彼等のことをよく知っている彼女が言うのであればそうなのであろう。そうなると可能性が高い手段はモンスター側につくことだけれど人間であればラトランドに味方するのが自然だ。モンスター側に味方となると怪しまれて良くて追い出されてしまうのがオチだ。
……でも、それは身体が人間であればの話だ。
「心配いりません、私がモンスター側に付きます」
「えっ貴方がですか? 」
目を丸くするフミさんの前で俺は甲冑を取りゴブリンである素顔を晒す。と彼女はアッと声を上げそうになる。
「安心してください、これは変装ですよ。私はこの手のものが得意でして右に出るものもいないほどなのです」
「なるほど。そう言うことでしたかはしたない声を上げてしまい申し訳ございません。あまりにも真に迫っていたもので、その手のが得意な方がいてそういう道具があるというのは存じておりましたが実際に見たのは初めてで……流石は王様からご紹介された冒険者さんですね」
嘘に対して褒められたのでむず痒くなる。とはいってもこのような嘘にも説得力を持たせるなんて王様からの紹介というのは凄い効力だ。思わず感心してしまう。
「それじゃあ俺が1人でモンスター側につくから3人は人間側に、僅かな可能性でも0じゃないから侍を狙いながらも上手く戦局を調整して欲しい。鉢合わせたら上手いことやろう」
「……それはあまりにも危険」
「クローバーの言う通りだ。なるべく早く名を上げて侍と戦う場所を作るまではできるがそこまでだ。そのあとはトオハが侍と1人で戦う羽目になるんだぞ」
「といっても他に方法が……」
彼女達の言う通りで無謀なのは分かっている。しかし他に方法がないのだから仕方がない。
……いや、1つだけあった。
思わぬ発想に顔を上げた時だった。ダイヤと目が合う。彼女も気がついているのかもしれないけれどどこか迷っている様子なようで彼女は視線を逸らし俯いた。
この方法は彼女の苦労が多くなるかもしれない。言うべきだろうか?
沈黙が訪れたことを幸いして考える。その末に俺は口を開いた。
「ダイヤ、一緒に来てくれないかな」
結局、彼女に話すことにした。断られてもいないのに諦めるのは早いと以前スペードに言われた通りに。すると彼女の表情がパーッと明るくなる。
「私は構いませんけれど、足手まといになるかもしれませんが宜しいのですか」
「勿論だよ。ダイヤがいると心強い」
お願いしているのは俺だったのにどういうわけか彼女ははにかんで見せる。
「ダイヤがいるなら安心だな」
「……うん」
どこかニヤついた様子で2人が口にする。意味を問いただしたい気持ちになるもダイヤがいると頼もしいのは事実なので代わりに「2人は大丈夫なのか」と尋ねると2人とも頷いて見せた。
「んじゃ、決まりだな。オレとクローバーが人間側のラトランド、トオハとダイヤがモンスター側だ」
「えーっとあの方はともかくダイヤさんは大丈夫なの? 」
フミさんが俺とダイヤを交互に見ながら首を傾げる。
「大丈夫です、実は彼女王様に認められて『透明になる魔法』が使えますから」
「なるほど、流石王様ですね」
彼女がウンウンと頷く。
ダイヤは王直々に魔法の許可を頂いたことがあるから嘘ではないとはいえこの件も王からの紹介という肩書きでクリアとは本当に王様は凄い。
「それと宜しければ夜にでもダイヤとクローバーで情報交換をさせていただきたいのですがこちらの場所をお借りしても宜しいでしょうか」
「構いませんよ」
満面の笑みで彼女は答える。
「それでは4回ノックされて姿が見えなくてもしばらくドアを開けたままにしておいてください」
「承知しました」
方針は決まった。二手に分かれて侍を倒す。俺達はお互いに生きて再会できることを祈りながら顔を見つめあった。
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