15‐4「2人の国王」
「さて、飲物を用意できたことですし、お話をしましょう。まずはこの国について」
彼女は俺達の前に温かい飲物を入れたコップを置くとソファに腰かけそう言った。彼女から聞いたこの国の歴史は以下の通りだ。
この国、エウトスには1人の国王がいた。代々王族の血を引くものが王位を継承してきたのだけれど問題が起こった。王位を継承するはずだった女性、エイダさんが家族で山へハイキングに出かけたところを盗賊に襲われその混乱の最中、行方不明になってしまったのだ。
山道での戦闘だったのでどこかで道を踏み外してしまったのだろうと兵隊の探索が始まったのだけれど見つからないまま一夜が明けた時だった。女性が戻ってきたのだ。ただ、これが奇妙な話だった、というのも彼女を連れて共に来たのは1体のゴブリンだった。
ゴブリンが人間を助けたばかりかわが身を顧みずに女性を送り届ける。このことは人々を大きく震撼させた。そこからエイダさんがゴブリンと結婚したいとなったのを人々は当然と考えるようになった。というのもゴブリンが彼女を兵隊の元へ送り届けたその時、武器を構え狙いを定めた兵士たちを前に立ち止めたのが彼女だったからだ。
それから、ゴブリンは監視状態にあったけれども問題も起こさず彼女と結婚し2人の子供が生まれた。生まれた子供は1人がゴブリンで1人が人間だった。兄であるゴブリンはファーガス、人間である弟はラトランドと名付けられた。
2人は種族が違うものの仲良く2人で玉蹴りをしたり勉強をしたりした。この頃には一部のモンスター達も王族の件から勉強をして人の言葉が話せるようになっていたらしい。
問題が起こったのはゴブリンとエイダさんどちらも死去した後だった。15歳という幼さもあってかどちらだ王位を継ぐかで2人は激しく争った。兄であるファーガスの言い分としては兄である自分が王になるのは当然として弟であるラトランドの言い分としてはゴブリンに国を任せることはできないというものだった。
こうして戦争が始まった。それが丁度俺がこの世界に来る数か月前の話だった。
「以上がこの国の歴史です」
フミさんは飲物を飲み終えると最後にそう締めくくる。
モンスターと人間の共存、それはどんなに素晴らしいことだろう。しかし、それはもう叶わないのか
「1つよろしいでしょうか」
種族が違っても手を取り合える世界を知ると同時にその平和が壊れたことを知り嘆きながらも1つ気になったことがあるので尋ねようとすると彼女は「どうぞ」と許可をくれた。
「この戦争の終わりはこの国のモンスターもしくは人間が倒れたら、ですか」
「それでも戦争は終わりますがもっと穏やかな方法がございます。宝箱です」
「宝箱? 」
「ええ、実は兄は城を出る際に宝箱を持ち去りました。しかし、その宝箱には鍵がかかっていたのです」
「お兄さんが宝箱を、弟さんが鍵を持っているということですね」
ダイヤが指に手を当てる。
「でもよお、そんな宝箱1つで解決するか? 」
「普通はそう思われるかもしれません。しかしあの宝箱は違うのです、エイダ女王様は2人が大きくなった時の贈り物として宝箱にある品を入れました。その品物が何かは存じませんが女王様が中身も明かさずに2人に託した者なのです。それを一方の方が揃えた時、もう一方は降伏することでしょう。いわば2人にとってあの宝箱の中身こそが王位継承の証なのです」
「……もし、箱の中身がオーブだったら」
クローバーが呟く。
確かに箱の中身が魔王を倒す可能性を秘めたオーブだという可能性は高い、ただそうなると気になるのは兄弟どちらも敵に回す恐れもあるということだ。俺達は大賢者様とオーブが4つ揃った時に再会を誓った。場合によってはそんな大切な物を盗むような形になるかもしれないというのは想像するだけで心が痛む。いや、そもそもそんな形でオーブを手に入れても大賢者様は俺達を歓迎してくれるのだろうか?
物思いにふけっているとクローバーがフミさんに尋ねる。
「……随分と詳しいけど、貴方は一体」
「私は以前、お2人の
「乳母」
衝撃の事実に先ほどまで考えていたことが頭から吹き飛び思わず呟くと彼女はニッコリと微笑む。
「はい、それなのでこの国の方たちは仰るのですよ。この町が戦禍に巻き込まれないのは私がいるお陰だって。本当にそうなのかは分かりませんけれど」
彼女が俯く。この町が襲われないのは彼女のお陰だろうか? どちらがこの国を治めることになっても港は重要な場所だという考えから荒らしたくないのかもしれない。
でも、俺はそのフミさんの考えを信じたかった。そうだったらいいなという期待を込めながらフミさんを見つめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます