15‐2「到着、最後の国」
吸血鬼との戦いから一か月後、俺達は船に乗って西の国を目指していた。
時にザザーっと水面を船が横切る音がする船の一室でベッドの上で3人がガールズトークをしている間ディールと店長に頼んで作ってもらった自身のベッドの上で黒い大剣を磨く。黒い輝きが眩しい。新しい剣というのが嬉しくてついついニヤニヤしてしまう。
「何ニヤついてんだよ」
目ざとくスペードがこちらに歩み寄る。しかし彼女はニヤリと笑った。
「なんだ、まだやっていたのかこれで何回目だ。まあ、気持ちはわかるけどよ」
ポンと肩を叩く。実を言うと彼女も新しい剣を手に入れていた。彼女がお父さんに造らされていたというのが彼女の新しい剣だったのだ。彼女が雷系の必殺技を名乗るので刃が通電性が良い剣を創ったということだ。
それで彼女もたまにこうして俺みたいに剣を眺めているときがあったのだ。
「悪かったよ」
そういうと俺は剣を柄に収めてバッグの上に置くと彼女達の顔を見る。
「ったくしっかりしてくれよな。もうすぐ西の国に着くから復習をしてたんだぞ」
スペードがフンと鼻を鳴らす。
何ということだ、先ほどまではどの服が可愛いとかそんな話をしていたのに話題がそこまで変わっていたのか。
「それではもう一度おさらいをしますが王様から頂いた情報によると私達が港に到着したらまず向かうのはフミさんのお家です。彼女のお家は港から近く戦禍に巻き込まれることはないそうです」
ダイヤがメモを片手に数日前に王様からもらったという情報を口にする。フミさんというのはかなり年のいった女性のようだけれどどういうわけかその人の所に向かうのが最善ということらしい。どうしてなのかはダイヤも気になり尋ねたそうだけれど行けば分かるということでその理由は聞けなかったそうだ。
「……でも、ほとんど国全体が戦争ってなると最後のオーブはどこにあるんだろう」
クローバーが顎に手を当てて口にする。彼女の言う通りで西の国は今人間とモンスターが戦争を繰り広げているらしい。それが国全体の規模ということなので並々ならぬ事態だ。そしてその中でオーブを見つけるとなるのは至難の業だろう。
スペードが剣に手をかけて口角を吊り上げる。
「簡単だ、相手はモンスターだっていうのなら思い切り戦える。全員ぶっ倒しちまえばいい」
「確かに、それが一番早いかもしれない。でも……」
「でも? 」
皆が俺の顔を覗き込む。気恥ずかしくなるのでコホンと咳をして続きを述べる。
「でも、西の国で何か起きているということは俺達が旅を出る前から聞いていた。それからかなり時間は経っているのに戦争はまだ続いている。一筋縄ではいかなそうだ」
「そうですね、戦争が終わらないということはモンスター側にも強いモンスターがいて拮抗状態にあるということでしょうし」
ダイヤが口にする。彼女の言う通りだ。戦争が長引いているのは強力なモンスターがいるのだろうとしか考えられない。それと驚きなことにモンスター側にも優秀な指揮者がいるということだ。そもそも、人間とモンスターの戦いでピリピリしてこれまで以上に警戒が厳重になっているであろうところにゴブリンである俺が行って無事で済むのだろうか? フミさんから聞いた国の現状によっては俺はどこかで待機という形になるのかもしれない。
そこまで考えて船が停まっていることに気が付いた。
「……到着したみたい」
「それではフミさんのお家に向かいましょうか」
「だな、話はそれからだ」
彼女達がそれぞれバッグを手に取り外に出る。そうだ、情報が足りない今、全てはフミさんの話次第だ。俺は一度深呼吸をすると鎧を身に纏い大剣を背負うと自分のバッグを手にして彼女達を追いかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます