15‐1「黒い大剣」
花騒動から1カ月ほど経過した日、俺はダイヤに花屋で購入したお見舞い用の花を渡すとすっかり日課となったスライムの洞窟へと向かった。街を出て森に入ると葉の合間に差し込む太陽の光に温められながら洞窟を目指す。洞窟の場所は以前と変わらない伏せないと進めない場所だけれど今は少し状況が違う。
「おはようっすゴブリンさん」
洞窟の目の前でトリコカラーの服にマゼンタのブレスレットを身に着けたディールが迎える。約1カ月ぶりの再会だ。この国に戻っていたディールとニンビギで再会できたのは幸運だった。お陰で新しい剣については彼らに任せることになったのだ。
「おはようディール」
「どうしたんすか、ゴブリンさん声がいつもより元気ない感じっすけど」
兜の隙間から覗き込もうとしたのかぐいと顔を近づけながら彼女が尋ねる。鋭いものでディールの服の色とりどりのカラーから花騒動を連想し沈んだ俺の気分を彼女はあっという間に見抜いたのだ。
「色々あってね」
「ふうん、色々ってなんすか? 差し支えなければ教えて欲しいっす」
「実は……」
商人のテクニックというやつだろうかスッと尋ねてくる彼女に対してスラスラとこれまでのことを話した。
「はあ……直接はともかくダイヤさんに花をお願いすればいいのになんでそんな面倒なことを」
全ての話を聞いた彼女は額に手を当ててため息を吐く。
「いや、サファイアさんに何かしたいって思って花を送ろうって考えたんだけどそれでダイヤに引かれたら嫌だなって」
「でもそれでもっとややこしいことになったんすよね」
ズバリと指摘される。確かにダイヤの反応を見たわけではないけれどそれでもそれで引かれてしまうのが怖かったのだ。さして重要なことでもないのでバレないだろうと考えたのだけどかえってダイヤ達に心配をかけてしまった。
「返す言葉もないよ」
がっくりと肩を落とす。改めてこれからは気をつけようと誓うのであった。
「いや、もう反省してるみたいなのにこちらこそ悪かったっす。おおそうだ、早く始めましょう! 店長さんの準備は出来てるみたいっすよ」
突如ディールがそういうと俺の手を引っ張って向こうへと向かう。
「それじゃあ最終確認だ、これがご注文の品だ」
私がそういうと店長は黒色の太く長い大剣を手渡す。刃の長さが2メートル程だ。蒼速の剣がなくなった今新たな剣が必要だった。
「ありがとうございます」
剣を受け取る。するとそれを見計らったかのようにベストタイミングでスライムがピューイ、と出てきた。あの小さかったスライムは今では一回りもふた回りも大きくなっていて1.5メートルほどの高さで洞窟の出入りは液体化して移動しているようだ。
「スライムさんもやる気っすね」
「今日もよろしく」
識別用に鎧につけていたペンダントを見てピューイ、と俺に近寄るスライムを抱きしめる。柔らかくひんやりとした感触が身体中に広がる。心が痛むけれどスライムはコアを破壊しなければいいので試し振りにはもってこいだった。彼はそれを自ら提案してくれたのだった。お陰で剣作りは順調だ。
「それじゃあ行くよ」
スライムと数メートル離れると大剣を構え走り出す。1歩……2歩……と距離を詰めていってまだ木1本分の間がある段階で剣を振り下ろした。
「ピュイ! 」
スライムの一部が俺の一振りで削られる。大剣のお陰で以前と比べてリーチは比べ物もないほどになった。加えて常人よりも優れているゴブリンのパワーで振り回すので人が使うより速く動かせるため隙が少ない。今の俺に打ってつけの武器だ。
「ありがとう、お陰で最高の剣が出来たよ」
試し振りが終わった後、スライムを撫でる。もう再生は終わったようで元の身体の大きさに戻ったスライムは「ピューイ」と俺の胸元に飛び込んでくる。再び柔らかい感触が広がった。
「よかったっすね」
「それと、これが頼まれていた奴だ」
店長はそう言うと一本の剣を手渡す。それは蒼速の剣の柄に新たな刃をつけた剣だった。狭い場所では大剣が触れないというのもあるけれどこの剣だけは持っていたいという想いからお願いしたのだった。
「ありがとうございます」
「気にすんなって、お代は頂くけどな! 」
店長が快活に笑う。
これで西の国への準備は整った。恐らく最後のオーブがあるであろう西の国ではどのような冒険が待ち受けているのだろうか。黒剣を見つめる。しかし、黒剣に反射している光をみると頬を緩ませて顔を上げた。
何があろうと俺達ならきっと大丈夫だ。
木々の隙間から差し込む陽の光を見ながらそう思った。
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