14‐20「ゴブリン登場」

「これは一体……」


 視界に入る光景に思わず驚きの言葉を口にする。確かに、ここは以前来たことのあるトータスだ。しかし、以前襲撃前に見たようなのどかな様子はなく空には無数のコウモリが跳び、周囲にはコウモリの死骸とともに倒れる人々、遠くてはっきりとは見えないが前方にコウモリと戦っている2人組。一体何が起きているんだろう。


「……本当にここがダイヤの村なの? 」


 同じ感想を抱いたのだろうか、クローバーが不安気に尋ねる。


「とにかく、後方の人達は大丈夫みたいだから前方の2人組を助けよう」


「……あ、タアハ前の2人……え? 」


 クローバーが信じられないものを見たとでも言うように声を上げたその時だった。


「やれやれ貴方までご登場ですかキキッ」


 頭上から声がする。見上げるとそこには吸血鬼がいた。ようやく事態が飲み込めた、この吸血鬼がダイヤの村を襲っていたのだ。


「正直貴方は何をしでかすか分からないので……早々にご登場願いますよ! 」


 突如として吸血鬼は俺目掛けて滑空するとともに掌を翳す。地面に降りてから放たれると後方に人がいることを考えると避けられない一撃だ。ならばスピード勝負だ!


 俺は吸血鬼が魔法を繰り出すよりも先に剣を振るうべく吸血鬼目掛けて走り出すとともに剣を抜いた。いつもより軽く、早く鞘から剣を引き抜けた。


「あ……」


 抜いた剣を見て思わず声を漏らす。この修羅場でド忘れしていたけれど俺の剣は折れていたのだ。


「はっはっは、なんですかその剣は。しかしこれで終わりにしてあげましょうキキッ」


 吸血鬼は一瞬動揺した様子だったがすぐさま再び俺地面に立つと詠唱を始める。


「ファイ……」


 詠唱が始まった。

 こうなったら、やるしかない。リーチが少し短くなっただけだ。


 俺は剣を握り締めて再度加速したその時だった。


「『秘剣迅雷斬』!」


 聞きなれた声が聞こえた後にあっという間に吸血鬼が真っ二つになる。コウモリはバラバラになりかろうじて初撃を免れたコウモリは逃げだそうとするもあっという間に全てのコウモリが切り裂かれたようで血まみれで地面に落ちて行く。

 吸血鬼の最期だ。

 厄介な吸血鬼を見事に切り裂いた赤いオーラを纏いながら笑みを浮かべた女性が俺に向かって笑みを浮かべる。彼女は、間違いない。


「スペード! ? 」


「おう、って再会を喜んでいる時間はねえ。ダイヤが村の中の家の側にいるらしい、迎えに行ってやってくれ」


「ダイヤが村に? 」


 言われて村を見る。中の様子は壁に阻まれ門からでしか見ることはできない。ここからではダイヤの家の様子は分からないはずなのだが、彼女の身の危険を知らせる様に丁度彼女の家があるであろう場所からモクモクと黒い煙が上がっている。もし、あの場所に長い間いたとしたら……


「分かった。ここは任せた」


「待て、その剣じゃ不安だ。こいつを持ってけ! 」


 彼女は門へと向かおうとする俺に一本の剣を投げた。その剣は彼女の愛用している「爆炎の剣」だった。


「ありがとう」


 俺がそう言ったその時だった、彼女の隙が生まれるのを待っていた、とばかりに地面に倒れ伏していたコウモリが勢いよく空へと浮かぶ。


「うおっ、生きていたのかあいつ」


 スペードが慌てて剣を振るも手遅れだった。なんという執念だろう。あのコウモリは味方を盾にした挙句亡骸と血液すら自分が生きるために利用したのだ。その甲斐あって、恐らく吸血鬼の本体であろうコウモリは近くのコウモリの群れと合流した。たちまちそのコウモリの群れが1体の吸血鬼の姿となった。


「ああ、惜しかったですね、しかしまああの状態の小娘1人救ったところで何も変わらないとは思いますが、そちらの思い通りになるのも癪なので邪魔をさせてもらいますかねえキキッ」


 そういうと吸血鬼は手を宙に掲げる、恐らくあれが吸血鬼のコウモリに対する何らかの合図なのだろう。


「さあ、コウモリ達よあの男をブッ……」


 突如吸血鬼の頭が勢いよく後方へ向いたかと思うと吸血鬼は力なく落ちて行く。今のはまさか……


「……命中」


 やはりクローバーだった。空を飛び魔法を無効にする吸血鬼でも矢の前では無力なのだ。


「……司令塔は潰した、少ししたら生き返るだろうけど時間は稼げる。タアハ、今のうちに」


「ありがとう、クローバー」


 俺はスペードの剣を手に持ちながら道を開けてくれる兵士たちに感謝の言葉を述べながら村の中へと入っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る