14‐19「炎を斬る雷」♤

「なんでお前がここにいるんだよ」


 目の前にいるダイヤの兄ちゃんの姿をしたモンスターに剣を向ける。そんなオレの手を兵士達が掴んだ。


「何すんだ」


「やめてください、この方はトパーズさん、ダイヤさんのお兄さんで味方です」


「いや、その男はダイヤの兄ちゃんなんかじゃ……」


「だよなトパーズ、おお担いでいるのはサファイアさんか、助けてくれたんだな」


 兵士はオレの説明をかき消すような大声で同意を求める。言われて目をやると1人の金髪の女性を肩に担いでいる、サファイアってことはダイヤの母ちゃんだろうか? 2人とも血まみれだがよくみると出血をしている様子はない。嫌な予感がする。


「ダイヤの姿が見えねえが、ダイヤをどうした」


「ダイヤは……この奥にいる。彼女は心を閉ざしてしまった、連れて行こうとしたけれども動かないんだ。僕はダイヤと父さ……オパールさんにサファイアさんのお陰で吸血鬼の支配から逃れ自由になることができたんだ。今はこの村のために戦いたい、そう思っている」


 男はキッパリと言う。その目に嘘はなさそうだった、けれど油断したところをズバッとやられるかもしれねえ。


「それをオレが信じるとでも……」


 そう言いかけたその時だった。


「おやおや、裏切り者が戻ってきましたかキキッ」


 人を小馬鹿にしたような声が聞こえる。振り返り見上げるとそこには吸血鬼がいた。吸血鬼はオレ達目掛けて手を翳す。


「もう少し遊ぼうかと思っていましたが、貴様をこれ以上視界に入れるつもりはない。この村ごと消え失せろ……『ファイエア』! 」


 吸血鬼が呪文を唱えるとともに巨大な炎の玉がこちらに向かってくる。


 何だあの大きさ、嘘だろ……クソ、これが直撃したら終わりだ。


「やってやる、シル……」


「いや、ここは僕に任せてもらおう」


 杖を構えた兵士の詠唱を遮りダイヤの兄ちゃんに化けたモンスターが前に出る、橋を渡り平地で1人火球に向かい合う彼を見て吸血鬼は口角を吊り上げる。


「自分のために村を助けろとでも命乞いですか? ですがそれは無駄なことですよ」


「そんなことはしないさ、僕はその魔法を撃ち破る。『テンペストブレード』」


 吸血鬼に堂々と言い放つと彼は天に剣を掲げる。ゴロゴロという雷鳴と共に剣に落ちた雷は巨大な刃となる。それは以前、オレが洞窟で見た剣と同じ、いやそれ以上の大きさだった。


「すげえ」


 思わず感嘆の声を上げる。あの雷はオレの戦闘スタイルとは合わないけれど、オレが良く技名につける「雷」の威力に注目したとすると申し分のないものだ。


「なんだ、その剣は……私が以前見た者よりも……くっだからどうした! くらえええええええええええ」


 吸血鬼が炎の玉を放つ。玉は空気を燃やしながら彼に、村へと近づく。近付く熱気にこのまま燃やされるのかと不安が過ったその瞬間、


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 」


 彼が雄たけびと共に雷の剣を振り下ろす。たちまち、炎の玉は雷により一刀両断されたちまちに消滅する。


「くっ、き、貴様あああああああああああああああああ」


 吸血鬼が消えた火の玉を見て怒りの声を上げるとともに左手を振り下ろす。それが合図だった。


 バサバサバサバサ


 けたたましい音とともに何十匹というコウモリが彼に向かってきた。


「させるか、テンペスト……ぐっ」


 彼が再び剣を空に掲げるも疲労からか剣を下ろす。無理もない、あれだけの大技なのだ。魔力を大量に消費したんだろう。吸血鬼も様子を見ると体力を消費したようですぐに2発目はなさそうだった。しかし、残酷なのはこの数の差だ。


 キィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ


 力を使い果たした彼に無情にもコウモリ達が迫る。


「くそっ」


 堪らずオレは駆け出すと彼の前に立った。彼に襲い掛かろうとするコウモリを次々と切り裂く。


「どうして……僕なんかよりもダイヤのところへ」


「うるせえ、あんなもん見せられて見捨てられるかよ」


「そうか、救援感謝する。まずはこのコウモリを追い払おう」


 彼が剣を構えると近くのコウモリを切り裂いた。


 このコウモリ達は2人なら何とかなりそうだが気になるのはダイヤだ。只でさえ数が足りねえのにオレが向かうわけにもいかねえ。こんな時にトオハとクローバーが来てくれれば……


 弱気になりチラリと兵士たちが武器を構えコウモリを迎え撃とうとしている門を見たその時だった。どういう理屈かは一切分からねえが見慣れた2人組が姿を現した。1人は鎧を顔まで装着している背の高い者でもう1人はフードを被った女性と呼ぶにはまだ若い少女だ。


 マジかよ、本当に来やがった……


 オレは顔をほころばせながら右手だけで剣を持ち左手を空けると、その左手で刀を抜いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る