12‐8「人間嫌いの理由」
「フィーネ、さんですか」
「村長には先ほどあっただろう? 彼女の娘でそれはまあ可愛くて弓矢の腕も一流のいい子だったよ。俺達も誰が彼女を嫁に貰えるか、なんて恐れ多くも話したりしてさ」
「本当にかわいい子だったな」
「ああ、そんなだからユーキが来たときはヒヤヒヤしたよ」
「ユーキさん?」
エルフ達の会話に突然見知らぬ人物の名前が出たので尋ねる。
「ユーキってやつが来たんだ。随分前にさ、村長がフィーネと出かけているときに彼女が攫われるってことがあったらしいんだが、その時に颯爽と現れたのが奴だ。その時の剣捌きが見事だったみたいでさ恩もあるってことでここに連れてきたんだが、不思議な奴だったよ」
「あの時はフィーネにちょっとでも色目を使うと睨みつけてくる村長がニコニコしながら連れてくるものだから、ここで見張っていてびっくりしたよな」
「そうだな」
エルフが森の入り口であろう箇所に視線を向けて答える。
「正直ユーキを一目見た時に負けたって思ったよ、たぶん村の全員がそうだと思う」
「とはいえ、村長も他にも力が強そうな大男と可愛い女の子の魔法使いを連れていたのを見たから、そういうつもりはなかったのかもしれないけれどな」
話を聞く限り、ユーキという人物はかなり凄腕の冒険者だったみたいだ。
「ユーキがフィーネを連れて行きたいって時は村長も面食らっていたなのをみるとな、とはいえどこか誇らしげでもあったから実際はどっちだったんだろうなあ」
「見送りの時は盛り上がったよな、ドンドコ引っ張り出してパーティーをしたりしてさ。でも……」
エルフが口を紡ぐ。そして沈黙が訪れる。その沈黙が彼女の身に何が起きたのかを物語っているようだった。
「……と、すまねえな。まだ生きてるかもって望みはあるんだ。ただユーキ達と一緒に約束してた数か月前の村長の誕生日に帰ってこなかったってだけで」
「そうだ、今頃村長のことなんて忘れて……どこかで……」
1人のエルフが言葉に詰まる。残念ながら、聞く限りによるとフィーネとユーキ、どちらの人物も約束を破るような者とは思えなかった。何か不測の事態が起きたと考えるのが普通だろう。
「そう、でしたか」
「今まで人間が果実を求めて森に忍び込んで盗んでいくってのはこういっちゃなんだが前からあった。それに対して厳しく処罰をするようになったのは誕生日以降だ。あれ以来、村長は人間のことを信じられなくなっちまったんだろうな」
「……でも、村長はタアハを助けてくれた」
「ああ、それもある。多分ユーキ達も彼女と必死に戦ったんだってことも人間を嫌悪するのが間違っているとも分かってはいるんだろう。ただ、割り切れないんだろうな」
「村長さん、誕生日を楽しみにしていたのでしょうね」
「でも、人間を恨むってのは……」
ダイヤとスペードが呟く。エルフが人間を嫌悪するようになった理由、それは俺達にはどうすることもできない問題に思えた。拳を握り締める。
それでも、少しでも何とかできないものか……何か……何かきっかけだけでも。
「と、長々と話して悪かったな。何でゴブリンが喋るのかはともかくとしてちょっとユーキに似てるからかな。でもこう見えて俺達も忙しいんだ。悪いけどそろそろ下に行ってくれねえか」
「すみません、お忙しいところありがとうございました」
俺達はそういうときたときと同じように梯子に足をかけると緑色の地上を目掛けて下って行った。
♥♢♤♧
「あれ? 村長は」
梯子から降りると村長の姿が見当たらなかったので辺りを見回す。
「あ、あそこだ! あんまり待たせるのも悪い。急ごうぜ」
「はい! 」
スペードとダイヤが歩を速める。その先には長い髭を垂らした村長の姿があった。俺も続こうと脚に力を入れたところでベルトを何かに引っ張られる感触にあう。
何だろうか? と後ろを向くとそこにはクローバーの姿があった。
「……いきなりごめん」
「クローバー、どうしたの? 」
「……その、タアハ達ならボクの時みたいに村長に何かしてあげられるかもしれない。だから、お願い」
彼女が言う。それがどれほど必死なことかは潤んだ瞳をみれば明らかだ。彼女の黒いフードを被った頭にポンと手を置く。
「わかった。でも俺とダイヤとスペードだけじゃできないかもしれない。だからクローバーにも力を貸してほしい」
「……うん、勿論」
フードの隙間から彼女が微笑むのが見えた。
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