12‐7「フィーネ」

 俺達は老エルフの後をついて森を進んでいく。すれ違うエルフ達は俺達のことを好機と嫌悪が入り混じった視線を向けている。しかし、ゴブリンである俺にとっては住民が騒ぎを起こして逃げ惑ったり討伐しようとしてこないで見つめているだけであり新鮮でありそれ故に俺はそれが引っ掛かっていた。


「すみません、どうして僕はゴブリンなのに皆さんは襲ってきたりしないのですか」


 俺が目覚めて以来の疑問をぶつける、すると老エルフは顔色一つ変えずに答える。


「それは人間もゴブリンも変わらんということじゃ。どちらも変わらず侵入した場合は迎撃するもこのように救われれば祝福する。そういうことじゃ」


 どちらも同じくらい警戒しているということか。合点がいった。そして俺にとっては人間もゴブリンも平等というこの空間は人間であると少し異質に感じるかもしれないと思いつつも有難かった。


「それで、どうしてそこまで人間を憎むんだ? 」


 スペードが尋ねる。俺も知りたいことだったけれど、老エルフは何も答えなかった。


 ♥♢♤♧

 老エルフについて集落を10分ほど進むとこれまでの木よりも大きく赤い果実な実っている樹木の幹までたどり着く。その手前にある珍しく木の上にない小さな家屋の前で彼は立ち止まった。


「ここが兵士たちの武器庫じゃ、私物も混じっておるがここにあるじゃろう」


「入ってもよろしいですか? 」


「構わんよ」


「ありがとうございます」


 許可が下りたので戸を開けて中へと入る。中には様々な剣から槍に弓矢から防具と飾られておりその数に圧倒されてしまう。その膨大な数の装備品の中に一つ、落とし物置き場とでも言うような開け放たれた木箱の中に見慣れた鎧と剣とバッグがあった。俺はたまらずにそれに飛びつく。


「よかった、少し穴は開いているけれど無事だ」


 鎧を調べ確認するとすかさず身に着ける。ここではゴブリンのままでも良いのだけれど再会に喜ぶ俺にはつけたいという気持ちが勝っていたのだ。更に剣を装備しバッグを背負うと俺は武器庫を後にした。


「あの梯子を上ると見張り台じゃ」


「へえ~行ってみてもいいか? 」


「ああ構わんよ、といってもワシにこの梯子を上ることはできんのでここで待たせてもらうが」


 武器庫を出るとスペード達が老エルフと何やら話をしている様子で聞く限りあの大きな樹木の梯子を上ると見張り台があるようだ。


「僕も見たいです」


 すかさず立候補をする。


「へえ~トオハも興味あるんだな」


「まあね」


「……ボクも見たい。興味がある」


「高いところは景色も素晴らしそうですよね」


「若いのは元気があっていいのう」


 老エルフが笑う。こうして、全員で見張り台へと上ることになった。


 ♥♢♤♧

「お忙しいところ失礼します、許可を頂いたもので」


 突如人間とゴブリンが現れたことにより見張り台の空気が張り詰めるのを見た俺は咄嗟に声をかけるも老エルフの名前を知らないことに気付き、これでは不法侵入と変わらないのではないかと額に汗を浮かべる。

 しかし、俺の心配は無駄だったようでエルフ達は俺達に駆け寄る。


「おう、誰も殺めないどころか子供を守るなんて見直したぜゴブリンに人間」


「見ていたのですか? 」


「ああ、ここからな」


「ここからって、何も見えねえぞ」


「ええ、森の入り口らしきところは見えるのですが、それ以上は……」


 スペードとダイヤが必死に目を凝らしながら先ほどまで俺達がいたであろう入り口付近を見て言う。その横でクローバーが俯いている。


「もしかして、クローバーも見えたりなんかは……? 」


 俺が尋ねると彼女は首を縦に振る。


「……大体は」


「すごい……」


「そこの嬢ちゃんなかなか目が良いようだな、まあそんなわけで俺達がいくまでもねえって判断したんだが。まあそれは当たっていたのか外れていたのか」


 気まずそうにエルフの兵士が耳をポリポリと掻く。


「そのことなのですが、どうしてエルフは人間のことを? 数か月前までは友好的な関係だと耳にしましたが」


「ああ、そのことか」


 エルフ達は目を合わせる。俺達に話すべきか悩んでいるのだろう。実のところ俺が見張り台に来た理由はこれだった。あの老エルフは見たところによるとこの集落の長であろう。その長が理由について語らないという方針なのはスペードへの対応で分かった、しかしそれでも気になった俺は彼と離れてこうしてエルフと会話をできる時を待っていたのだった。

 といっても、ここでエルフ達も語らない方針であるならば俺の作戦も意味はないのだけれど。俺が息を呑み返答を待つと結論が出たようでエルフが口を開く。


「分かった、じゃあ話すよ。村長の娘フィーネのことを」

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