11‐16「それぞれの道」

 俺達は岩肌に沿ってひたすら洞窟内を進む。もしかしたら合流しているかもしれない、というコールからの提案で俺達は分かれ道をレイズさんではなくダイヤ達がいる俺が落ちた方向へと向かって歩く。分かれ道に出てからどれほどの時間が経っただろうか、今まで静かだった洞窟内に声が響いた。


「ごめん、ボクがしっかりしていれば……」


「いや、それをいうならオレもだ。すまねえ、トオハ」


「トーハさん……」


「大丈夫だよ、コールとコールを退けた男だ。きっと帰ってくるさ」


 聞こえてくる声はダイヤ達の者だった。どうやら皆無事でレイズさんもいるようだ。これ以上心配させるのもまずい、と俺はコールと目を見合わせると足を速めた。


 数分後、俺達は4人の元にたどり着く。ダイヤは膝をつきスペードは壁に手を付け項垂れクローバーは涙を流していてレイズさんとクローバーの肩に手を当てていた。


「……」


 いざ、こう場を見てみると第一声に困った俺は膠着する。「やあ」は軽すぎるし「おはよう」なんて滅茶苦茶だ。「生きてるよ」も……考えるも何も出てこない俺は助けを求めてコールを見る。すると彼も気まずそうな顔をしていた。こうなれば俺が何とかするしかない。意を決して何かを発しようと息を吸い込んだその時だった。


「……」


 ダイヤと目が合った。


「……」


「……やあ、どうも、生きてます」


 焦って直近に浮かんだ先ほどのNG集とも言うべき挨拶を俺がし終えるかし終えないかした時だった。ふと背中が軽くなった感触と共にダイヤが近付いてくる。


「トーハさん、良かった……本当に良かったです」


 ギュウウと思いきり抱き締められる。鎧越しだけれど暖かい熱が伝わってくるのか身体が熱くなる。


「うおおおおおおおおおトオハ」


「タアハ」


 更に2人が駆け寄って飛び掛かってくる。その姿が見えた次の瞬間、俺は3人の重さに耐えきれず倒れた。


「この野郎、心配させやがって」


「ごめん、ボクがもっとしっかりしていれば本当に無事でよかった」


 ダイヤもスペードもクローバーも嬉しさの余りと言うべきかそんなことはお構いなしに俺から離れない。


「ち、ちょっと3人とも」


 心配させたとはいえコールの前だ。こういうのは恥ずかしい。そう思いコールを探すと微笑を浮かべながら背後で見下ろしている彼が見えた。


「おうおう、モテる男は羨ましいねえ」


 コールが冷やかすように言う。既に立てるくらいは回復していて近寄っているダイヤを見て気を利かせたのか離脱したということだろう。そんなコールの元にレイズさんが近づいてきた。


「コール、アンタにしちゃあ遅かったね」


 そう声をかけられてコールは先ほどとは違う笑顔を浮かべるのであった。


 ♥♢♤♧


 数時間後、御者の待機している宿の前に向かった俺達は王宮に向かうため再び馬車に乗り込もうとする。その様子をコールとレイズさんは見守っている。


「本当に来ないのか? 」


 馬車に乗る前にコールに声をかける。コール達の活躍もあって倒せたのだからそれを説明すれば問題ないだろうと何度か誘ったのだけれど彼らの答えはいつも同じだった。


「ああ、女王様のところなんてオレ達には恐れ多すぎるよ」


「そうそう、女王様の用意した料理なんて今食べたらねえ、フェンリルの肉で十分さ」


「げっ、姉さんフェンリル食う気かよ! ? 」


「そのつもりじゃなかったのかい? まあ、何かあっても即回復してやるから物は試しだよ」


 冗談なのかフェンリルを食べるといいコールの肩を叩くレイズさん。コールもレイズさんには頭が上がらないんだなとしみじみと考えているとダイヤがクローバーを励ますように彼女の肩に手を置いているのが見えた。


「クローバーさん、今しかありませんよ」


 ダイヤがそう言うとクローバーは頷き右手を前に出すその手には小さな箱が握られていた。


「……これ、よかったらつけてくれないかな」


 そう言いながらクローバーはレイズさんとコールに箱を向けたままプロポーズをするかのように左手で上部を掴み開いて見せた。中には赤とピンク2種類のブレスレットが入っている。


「これは……」


 目を見開くレイズさんの質問にクローバーが笑顔で答える。


「仲間の印、コールさんが赤でレイズさんがピンク。ダイヤと2人で選んだんだけど……どうかな」


 クローバーが上目遣いでそう言うとレイズさんは彼女を抱きしめる。


「ありがとう、大切にするよ」


 お礼を言った彼女は箱を受け取りピンク色のブレスレットを手袋を外してつけて見せた。ブレスレットをつけるレイズさんもそれを見守るクローバーも幸せそうな表情を浮かべている。


「コール、アンタもつけな」


「いやいや姉さん、オレにはそういうのはガラじゃねえって……のもいいけど赤色にこういうのも悪くねえか」


「そうかい、そいつは良かった」


 コールが頬を赤く染めて手袋を外しブレスレットをつける。最初は断ろうとしていたのにどういう風の吹き回しだろうか? もしかしたらこちらに背を向ける形になったレイズさんの表情がきっかけなのかもしれない。

 なんて考えているとクローバーが俺の前に立っていた。その手にはブレスレットが入っているであろう木箱が握られていた。こう1つ1つもしくは2つ梱包というと本当に指輪みたいだ。いつの間にか2人には渡していたようでダイヤは白の、スペードは黄色のブレスレットを手に取っている。と、ここで俺の中にいたずら心が芽生えた。


「俺の色が何色か当ててみようかクローバー」


 大人気ないながらも箱の中を開ける前に色を当てたくなったのである。クローバーは少し驚いた様子だったがすぐに頷いた。


「いいよ。でもチャンスは1回だけ」


「1回貰えれば十分だよ。色はずばり……青だ! 」


 ズバリと推理を披露する。それはメジャーなカラーの中でないものから自分のイメージと合致する色を導き出すという簡単な消去法だった。


「ハズレ、ちなみに水色がセイ女王」


 クローバーが楽しそうに言う。残念ながら違ったようだ。それにしてもセイ女王の分も購入しているなんて気の回るいい子だなあ。

 と彼女の気配りの良さを有難く思いながら箱を開封すると。中には黄緑色のブレスレットが入っていた。


「……? 」


 思考が止まる。もしかしてこの緑ってゴブリンからきているのかな? 気に入るかどうかドキドキと感想を身構えている彼女にそんなことは尋ねられない。俺が動くよりも先にクローバーが慌てて木箱を引っ込める。


「ごめん、これボクのやつだった。タアハはこれ」


 そう言いながら渡されたもう一つの木箱を受け取って中身を空ける。中には意外にもオレンジ色のブレスレットが入っていた。


「オレンジは、嫌だったかな? 」


「ううん、でもちょっと意外だったなって。俺は寒色系のイメージだったから」


「そうなんだ、タアハはどちらかというと暖色系のイメージだったけど」


 彼女がキッパリと言う。その表情は真剣なものでお世辞とか冗談とかそういった類のものは一切感じられなかった。しかし暖色系と言われても悪い気はしない、むしろオレにはそう言ってもらえたのがうれしかった。


「そっか、ありがとう」


 俺が心からの感謝を述べるとクローバーは満面の笑みを浮かべた。


 ♥♢♤♧

「それじゃあ、また会おう皆」


「はい、、この度はありがとうございました」


「またお会いしましょう」


「また一緒に風呂入ろうぜ」


「……元気で」


 レイズさんとコールに見送られながら馬車に乗り込む。3人が乗り最後に俺が乗り込もうとするとコールと目が合った。


「安心しな、モンスターいたら倒しといてやるからよ」


 彼が歯を見せにやりと笑う。今回の戦いでコールの実力を知った。レイズさんも加われば本当に2人でモンスターを倒すことができるだろう。


「ありがとう。頼もしい仲間が増えて嬉しいよ」


「その言い方はやめろ。お前はオレが倒すからな」


 おえっと吐く真似をした後にコールはキッパリと言う。その言葉の真意は分からない。


「元気で」


「お前もな」


 最後にそう言葉を交わすと俺は馬車に乗り込んだ。俺が乗り込むとすぐに御者が手綱を引き馬が鳴き声を上げ馬車が出発する。


「皆さん、みてください」


 ダイヤの声で窓を見ると雪景色の中後方に手を振っているレイズさんと照れながらも片腕を上げているコールの姿が見えた。2人の腕にはブレスレットが輝きを放っている。


「良かったですね、クローバーさん」


 クローバーは頷くと嬉しそうに腕に着けたブレスレットが見えるように窓から腕を出し振る。俺達は3人で顔を見合わせるとそれに続いて手を振った。

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