11‐15「赤いオーブ」

 フェンリルの胴体に近付く。首無しで生きているというのは恐ろしいのだが、と恐怖を感じながら剣を構えピクリとも動かないのを確認してはぁーっと安堵のため息をつく。どうやらフェンリルを倒したみたいだ。


「やったぞコール、フェンリルを倒した」


 俺が声をかけると同時にコールがドサリと倒れた。


「コール、大丈夫か? 」


「まあな、『強化の魔法』はデメリットがキツいからな、姉さんがいねえから抑えたとはいえこの様だ」


「でも、そのおかげで勝てたよ」


 俺はそう言うとしゃがみ込みコールを背中に乗せた。先程浴びたフェンリルの血で生暖かさが残る身体にダイヤの魔法圏外で氷に伏せた彼の体が当たりヒンヤリとする。


「すまねえな、しかしこのあとどうすんだ。帰り道とかあんのか」


「そのことだけど、アテはある。この洞窟にオーブがあるってことはこの先にだろう。そしてオーブをここに置いた恐らく魔王の手下か本人かは分からないけど、その者が出ていくための出口があるはずだ」


「じゃあ、そこにオーブがなくてそもそもその噂自体が罠だとしたら」


 コールの言葉と共にここで力尽きたのだろう人間の骨がバラバラに散らばっているのが目に入った。


「女王様が言うんだからあるはずだけれど……」


 俺達がこの広間に入った場所とは真逆の出口があろう方向に歩を進めながらコールの鋭い指摘にモゴモゴと答える。これに関しては確信がないのだ。魔王が透視とかオーブを感じることができるような人がてその人に嘘だと見破られ噂を広められないように本物を置いた可能性もあるし嘘だという可能性もあった。もしなかったら、コールの回復を待って崖のぼりをすることになる。


「お」


 とりあえず一つ俺の読みは当たっていたようで広間の出口らしき幅2メートル程の細い道がランプにより照らし出される。俺は一歩一歩ゆっくりと進んだ。すると数十メートル進むと再び左右の壁が消え再び広い空間に出る。そこは小さな神殿のようになっておりその頂点ともいえる場所を照らすとキラリと何かが輝く。階段を上り中へと入るとそこには炎のように赤いオーブがあった。


「本当にあったのか」


「うん」


「分からねえもんだな、魔王を倒す可能性のある力を持ったオーブなんだろ? それをみすみす手放すなんてな」


「そこは、確かにそうだけれど魔王にとってはこうして基本1人でしかフェンリルに挑めない仕掛けを作った時点で本物のオーブを餌に確実にオーブ探索者を葬れる手段を取ったんだと思う」


「そういうもんか……確かにお前の奇策がなければあのスピードにやられていたかもな」


「ああ、偶然だけどあの紐が手に入ってよかったよ」


 グレイプニルの名を冠した紐、あれこそが今回のMVPともいうべき道具だ。あれを手に入れていなかったらと考えると恐ろしい。


「いやまあ、そういう意味じゃなくてだな……紐もだけれどお前もよくやったって話をだな」


 コールがバツが悪そうな顔をして呟く。もしかして、俺のことを褒めているのか……あのコールが?


「やめてくれ気持ち悪い、ただでさえフェンリルの血で密着感凄いんだから」


「なんだと、いや確かにオレの柄じゃなかったかもな」


「なぜそこでシュンとなる! ? 」


 と力を使い果たしたせいかどこかしおらしいコールを背負いながら神殿内を進むと階段が目についた。これまでのように2人で並ぶ幅はないが幸い今は彼を背負っているため問題はない。


「この先が出口みたいだ」


「用心しろよ、何があるか分からねえから」


 側でコールが呟く。確かにまだ安心はできない。俺は神経を張り詰め階段を一歩一歩用心して上る。

 背後から聞こえる荒い息遣い、すでに温かみを無くしたフェンリルの血と俺を温めるコールの体温。


「気色悪いわ! 」


「なんだ急にどうした」


 俺の突然の叫びにコールが慌てる。恥ずかしいことに向こうは全く意識していなかったようだ。それが分かるとかえって恥ずかしくなるもそもそも俺にもその気は全くないのだから慌てて振り払うように頭を振る。


「なんだなんだ、仲間に会えるのがそんなにうれしいのか? 」


 別の解釈をしたであろうコールが茶化すように言う。しかし、なぜ今その単語かとふと正面を改めてみると気が付かない内に頂上に到着していたようで目の前には大きな壁があった。


「まさか、行き止まりってことはねえよなあ」


「まさかね」


 俺はそう答えると壁に向かって剣を伸ばす、剣が壁に触れたと思った瞬間、壁がグルんと回転し光が差し込んだ。


「うわっ……」


 眩しさに思わず目を閉じる。これは新手の罠だろうか? いや、ここにきてそれはないだろう。とすると……

 恐る恐る瞼を上げる、すると辺り一面に純白の世界が広がっていた。


「こんなとこに繋がってやがったのか」


 コールが悔しそうに舌打ちする。なんのことかと振り返ると片膝立ちで体を起こしながら洞窟の入り口から数メートル離れた岩と睨めっこしていた。何と出口は入り口の直ぐそばにあったのだ!

 ふとダイヤ達の顔が浮かぶ。こうしちゃいられない。


「急ごう、壁を調べてまた誰かが落ちたら一大事だ」


 俺がそう言うとコールは頷くもまだ身体が戻らないようで再び俺は彼を背負い洞窟内へ入った。

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