11‐13「予想外の組み合わせ」

「つまり、こういうわけだ。オレはお前たちと別れた後姉さん達と向かった先の壁で、お前はオレ達と別れた先の壁で見事に回転扉に引っかかって落下したと」


 俺はランプの灯でお互いの顔が見えることから頷いてコールに同意を示す。俺の身に起きたことが彼の身にも起きていたということらしい。俺達は今、先ほど俺が降りてきたグレイプニルが垂らしてあった位置まで戻り剣を回収していた。


「しかし、何というか剣士2人か。実質ノーガードというのはバランスが悪いな。本来なら姉さんが念入りにチェックするタイプだったから意外とバランスよくなってたかもしれねえけど、今回は姉さんらしくもなく早く戻ろうとしていたからな」


 額に手を当て彼が口にする。その内容には心当たりがあった。クローバーだ、彼女も彼女らしくはなかった。恐らく互いに互いのことが心配になったのだろう。


「レイズさん、俺達のことを心配して」


「正確には姉ちゃん達、とくに小さな姉ちゃんには若いころのオレがなんとかとか相当入れ込んでたみてえだぜ」


 コールに訂正される。何か癪だけれど確かにあの4人が仲良かったのは事実だ。特にクローバーの反応、2人には通ずるものがあったのだろう。


「なるほど、とはいえこれはそれほど悪い結果ではないかもしれない、な! 」


力を込めてグレイプニルを引っ張る。すると流石丈夫なグレイプニルと名付けられた紐だ、千切れることなく俺の力は剣に伝わりキン! という金属音と共に剣が抜けた。俺はそれを受け止める。


「ん? どういう意味だ? 」


「2人いるってこと、見たところによるとこのシステム普通の冒険者なら二手に分かれずにそのまま進んで片方の道で一人が落ちる。そこからは落ちた仲間のことは心配でもう片方の道に向かうって冒険者はなかなかいないだろう。そして、分かれ道のどちらも同じ場所に落ちているってことは」


 そういうと俺は前方に視線が向ける。俺達の前にはランプで照らしきれないほどの通路が広がっている。


「なるほど、この先にフェンリルがいるってことか」


 俺の言おうとしていることが分かったのであろう。コールが言う。彼の言葉に頷く。


「おそらく、本来オーブを餌にこうやって落ちてきたものを1人ずつ確実に倒す仕掛けだと思う。でも幸運なことに今俺はフェンリル対策の道具が手にある。1人なら厳しいけれど2人なら何とかなりそうだ」


「ほう、なんだよそれは」


「これさ」


 眉を顰める彼にグレイプニルを見せながら作戦を説明する。


「この紐は丈夫な紐だから、俺がこの先に括り付けた剣をフェンリルに突き刺す。そしたら後は思いきり引っ張って態勢を崩すからそこを総攻撃だ、一応外してしまった時のために2本の剣に巻き付けてあるからその時は片方を引っ張って外れた剣を回収するってこともできる」


「シンプルでいいねえ。しかもさっき壁に刺さった剣を抜いて見せた通り外れた時のケアもバッチリか」


 この作戦を気に入ったようでランプに照らされながら彼は笑みを浮かべ言うと槍を掴む手に力を籠める。


「つまり、オレが囮ってわけだな」


「いや、そこは俺が。直線的に向かってきたところをカウンターで投げつける作戦だから」


「それで外れたらどうすんだ」


「それは……」


 言葉に詰まる。言わんとしていることは理解できた。仮にフェンリルが俺達の予想外のスピードで避けた場合、そこから剣を構えていては一手遅れてしまう。そしてその遅れは致命的なものとなるだろう。


「お前の強さは分かるけど、囮はオレに任せとけ。姉さんがいねえからフルパワーとはいかねえが奥の手もあるしな」


 にやりと笑う。どうしてこう囮役を笑顔で引き受けるのだろうか分からないけれど、プラチナランクの彼がそう言ってくれるのなら有難いことだ。


「分かった、じゃあお願いするよ」


「決まりだな、この暗さだからランプの灯だけが頼りだ。間違えてオレに突き刺すなよ」


 コールが鼻を鳴らす。これで今度こそ作戦は決まりだ!


「それじゃあ、行こうか」


「おお、腕が鳴るぜ」


 そう言ってパキパキと指を慣らす彼と共にフェンリルが待ち構えているであろう一本道を歩き出した。


♥~~~


 2人が並んで歩ける一本道を5分ほど歩くと大きな広間が視界に広がる。難なくこれたのはダイヤの魔法のお陰で魔法がなかったら氷に滑って苦労していたことだろう。


「おい、あそこ」


 コールが立ち止まり槍を差し向ける。そこにはランプの灯により映し出された巨大なオオカミというべき魔物、フェンリルの姿があった。向こうはとうにこちらに気が付いていたというかのように一歩を動かずこちらを睨みつけている。


「どうやら向こうはずっと前からオレ達に一目惚れみたいだがなんたってあいつはむかってこねえんだ」


「おそらく、まだ俺達が広間に入っていないからだと思う。今向かってきても壁に衝突するだけだってわかっているんだ」


 そう、俺達はまだ数歩前で立ち止まっているため一本道の幅よりもはるかに大きいフェンリルは岩に衝突してしまうのだ。そのことを既にこの魔物は承知しているのだろう。退路を断たれた俺達がこの広間に足を踏み入れるのを待っているわけだ。


「なるほどな、そううまくはいかねえか。でもこれはオレ達にとってはありがたいことだな」


「ああ」


 得意げなコールに頷いて返す。向かってきたフェンリルが壁に衝突してのけ反りそこを狙って剣を投げる! ということはできないとはいえこの一本道の幅は俺達にとってはラッキーだ。何故なら、俺はこの一本道から出なければ狙われることはなくフェンリルに剣を命中させることに集中でき、コールは俺のことを気にせずフェンリルと戦うことができるのだ。

 とはいえ、相手は未知数の魔物フェンリル、油断は禁物だ。


「覚悟は良いな」


「うん、見たところ広場には障害物はない。向こうは出せる限りの最高速度でくるはずだ。気を付けて」


「忠告ありがとよ、あんま焦らすとオレが倒しちまうからな! 」


 その言葉と共にコールは腰にランプをつけると駆け出し広間に足を踏み入れた。







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