11-10「仲間の証」♢
私はクローバーさんと並びながらお店を見て回る。
まだ温泉上がりでポカポカしているお陰か雪が降っていてもそんなに寒くは感じなかった。といっても油断は禁物なので防寒着をギュッと握りしめる。そういえば、クローバーさんはどんなアクセサリーが欲しいんだろう?
「クローバーさんはどんなアクセサリーが欲しいのですか? 」
思い切って尋ねてみる。実を言うと彼女と2人きりと言うことはあまりなかったのもあって緊張していた、その緊張が声になって伝わってしまったのではないかと息を呑む。
「……色の種類が多いならなんでも」
彼女は立ち止まって考える仕草をした後にそう答える。「そうですか」、と相槌を打ったものの正直困ってしまう、アクセサリーと言うのは腕に着けるものから首に着けるもの指にはめるものに足にはめるものと様々で彼女がどれが欲しいのか分からないのだ。
力になれればと思ったけれど、今回は無理かな。
諦めが頭を過ったけれどブンブンと頭を振る。それはまだ早い、ヒントはあった。彼女はとにかく色の種類が多いものが欲しいみたいだから、それを探そう。
「種類が多いものですか、了解しました」
私は改めてそう答えると辺りを見回す。クローバーさんの目の良さはこれまでで承知しているのでそれを踏まえたうえでの視察だった。といっても私は彼女よりも目がよくないので反対側のお店の商品は点のようにしか見えないのだけれど……
「あっ」
遠くのカラフルな点が目に入って思わず声を出す。それを聞くとクローバーさんが目を輝かせて振り向いた。
「見つかったの? 」
「はい、あちらのお店なのですが」
「ブレスレット、いいね」
クローバーさんがチラリと見た後に笑顔で答える。本当に目が良いんですねクローバーさん。
「行こ、ダイヤ」
上機嫌な彼女に手を引かれるまま私は何とか転ばないように足を動かしてブレスレットのあるお店に向かった。
♢♧
「これとかどうかな? 」
クローバーさんが楽しそうに色の違うブレスレットを手に取っていく。その様子を奥で店員さんらしき男性が見守っている。
「クローバーさん、そんなに購入されるのですか? 」
オシャレで何個かつけるのは分かるとしても彼女の持つブレスレットは片手で数えられる数を越えている。それを全部つけるとなると腕がそれだけで疲れてしまうのではないかと心配した私が思わず声をかけると彼女は俯く。
「これはボクが一人でつけるんじゃなくて、その……」
恥ずかしそうに頬を赤く染めながら彼女は言葉を切る。一人でつけるのではないとすると贈り物ということ? 誰に送るのかな?
少し考えて答えにたどり着く。
「セイ女王とレイズさんへのプレゼントですね! 」
そう、単純な消去法だけど彼女の反応を見るに今渡せる可能性のある女性はトーハさんが帰りにまた伺うと約束をしたセイ女王様とこの村にいるレイズさんだ。
ところが、意外にも彼女は視線を逸らす。
「正解、でも彼女達だけじゃなくて……その……仲間の印としてどうかなって」
「仲間の印ですか? 」
「こうやってつけてたら色違いでも仲間みたいに見えないかなって……おかしいかな? 」
腕に着ける素振りをしながらそう尋ねながら上目遣いで私を見るクローバーさん。私は彼女の手を勢いよく握る。
「素敵ですよクローバーさん! 」
目に見えたもので具現化するというのかこういったお揃いのものを美しいと感じる私は本心からそう伝える。
「……よかった」
嬉しそうに彼女が微笑んだのも束の間、再び彼女は深刻そうな顔で声を小さくする。
「でも、ダイヤは良いの? 」
「え? 」
彼女の質問の意味が分からずに返すとクローバーさんは心配そうに私を見つめる。
「セイ女王様とタアハのこと」
「……」
言葉に詰まる。クローバーさんは私のトーハさんの想いは気付いていてそれを心配してくれていたんだ。確かに、あのパーティーの夜、トーハさんはセイ女王様と二人きりで話し合いをしたと聞いて私が穏やかでいられるかと言われるとそんなことはない。
それに悲しい事実として魔王を倒した世界で私が身体がゴブリンの彼に出来ることと女王様である彼女ができることを比べると私に勝ち目はほとんどないと思う。それでも、全てが終わってもし彼が私の想いを受け止めてくれたら……
「ダイヤ? 」
心配そうにクローバーさんがつま先立ちをして私の顔を覗き込んでいることに気が付いて我に返る。
「確かに、トーハさんのことはありますしもし女王様もそういうおつもりなら負けたくはありませんが、それとは別に彼女とはこれからも仲良くなりたいと思っています。なので、ご心配には及びませんよ、クローバーさん」
再び彼女に正直な気持ちを伝える。すると彼女は「そっか」、と笑顔で答えた。
「でも、ダイヤのこと聞くだけじゃ悪いからボクの秘密というわけじゃないけどあまり聞かれたら恥ずかしいことを打ち明けるよ」
「クローバーさんの聞かれたら恥ずかしいことですか? 」
「うん、実は……レイズさんのことだけど、どこかお母さんに似ているんだ」
「だから、少し彼女の側では一際緊張している様子だったのですね」
「え、そんな風に見えていたの? 」
クローバーさんが驚いたように尋ねるので頷いて答えると彼女はサッと視線をブレスレットに移した。
「じゃあ、そういうわけだからダイヤ。ブレスレットを選ぶの手伝って。早い者勝ちとかだと問題になりそうだから」
「はい! 」
私は返事をすると彼女に倣ってブレスレットに向き直った。
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